8月のお話   いばら姫

 
  むかし ある国の王様とおきさき様に かわいい女の赤ちゃんが生まれました。  お姫様は お名前をオーロラと名づけられました。光り輝く オーロラのように美しくなるように という願いがあったからです。ずいぶん長いこと 待ち望んだお子様だったので おふたりはもとより、国中が 大喜びで その誕生を祝うことになりました。

 王様とおきさき様は 近い国のえらい方たちや国中の立派な人たちを呼ぶのと一緒に 魔法使いたちも 呼ぶことにして 盛大にいわおうとしましたので、もう そのおしたくは 大変な騒ぎになってしまいました。

 お祝いの当日は 花火が打ち上げられ、国中の人たちがお祝いに駆けつけ、さまざまな馬車から降り立つ きれいに着飾った方たちや贈り物が、あの広いお城がいっぱいになるほどになって、にぎやかに 華やかに パーティーが行われていました。
  もちろん 魔法使いたちも 招待に応じて みな それぞれ お姫様へのプレゼントを一つずつ持って 集まっていました。

 パーティーも どんどん 楽しくにぎやかになってきて、さぁ それでは みんなが持ってきたお祝いのご披露をしましょう と いうとき、みなはそれぞれ うやうやしく 王様とおきさき様、そして 小さなお姫様の前にすすみででは、お祝いの言葉と一緒に贈り物を差し出しました。

 最後に魔法使いたちの番になりますと、一人ずつ お姫様のそばに行って「私は お姫様に 誰よりも美しい笑顔を差し上げます。」とか「かわいいお姫様、私は あなたに 誰よりも きれいに歌える声を差し上げましょう。」などと言いながら それぞれの杖の先から 魔法の光をお姫様に降りかけて 贈り物をしました。

 そのとき、いきなり お城全体が黒い雲に覆われ、冷たい強い風がシューっと 吹き込んできたと思うと、人々のいた大広間の明かりが 一度に消えたものですから、人々は びっくりして 大騒ぎになりました。
 そして また 再び明かりがついた時に みないっせいに 驚きの声をあげました。
そこには 真っ黒な衣装をつけて 不気味なからすを肩にとまらせた 黒衣の魔女が不機嫌そうに 広間の真ん中に立っていたのです。

 「まぁ とても素敵なパーティーだこと・・。おや こちらにいらっしゃる方たちは 皆様わたしのよーく 知った方たち。そりゃあそうだ、だって この国に 待望のお姫様がお生まれになったのだものねぇ。でも・・。」そこで 黒衣の魔女は、その勢いで テーブルの上の食べ物が吹き飛ぶほどに ばさーっと衣を翻し、王様とおきさき様に向かって 大声をあげました。
 「いったい このわたしをなんだとおもてるんだい! どういうわけで この私をこの席に呼ばなかったのさ!」 
 王様もおきさき様も もちろん 周りの誰もがその勢いに驚いて、言葉も出ません。

 「ふん、まぁいいさ。こんなたいそうなお祝いに呼ばれなかったのは 決して気持ちのいいものじゃないけど、私は 根が親切なんでね、どれ わたしもおふたりのかわいいお姫様に お祝いを差し上げましょうよ。」
 そういって びっくりしながらも お姫様を守ろうとしている おきさき様のそばをすり抜けて、黒衣の魔女は きれいに飾られた小さなゆりかごのそばに行き、お姫様を眺めながら その細くて骨ばった指の長い爪の先で お姫様の額に触れながら言いました。

 「お〜や、本当に きれいでかわいいお姫様だねぇ。じゃあねぇ 私は あなたにとてもいいものをあげますよ。」そこで 魔女は みなを振り返り、声を高くして言いました。「このお姫様は 16の誕生日に 糸車のつむの先にふれて かわいそうに・・ しんでしまうだろうよ!。」

 みなが それを聞いて 驚き恐れた声をざわめかせているなかを、黒衣の魔女は 大きな高笑いを残して きたときと同じように、また 一瞬のうちに お城からいなくなってしまいました。

 「ああ!どうしよう!この子が16になったら しんでしまうなんて・・!!」
おふたりの嘆きと悲しみは 喜びが大きかっただけに 深く強く お二人を苦しめました。呼ばれた人たちも いっしょになって 悲しみ 嘆きました。

 「おまちください。」 そのとき 涼やかな声が 悲しむ人々の中に響き渡りました。
ひとりの若い魔法使いが 軽やかに前に進み出て、そのきらきらする瞳を輝かせて 言いました。
 「王様、おきさき様。そして お姫様の不幸な予言に胸を痛めておいでの皆様。
お姫様に贈り物を差し上げいない私は まだ若くて たいした力もありませんので、黒衣の魔女の魔法をすっかり消し去ることは できませんが、でも いくらか弱めることはできます。ご心配なさいませんように・・。
  お姫様は 確かに 16のお誕生日に 糸車のつむの先の針に触れて お倒れになられるでしょう。けれども それで死んでしまうのではなく、永い眠りにつかれるだけです。美しさも 愛らしさも そのままに 長い永い眠りにおつきになり、目覚めのときを待たれることになるでしょう。」

 国中の糸車という糸車、つむというつむが いっせいにお城に集められ、ごうごうという音もすさまじく ひとつ残らず焼かれてしまったのは、お姫様のことを思えば 仕方のないことでしょう。

 そのお姫様は すくすくとお育ちになり、たくさんの贈り物の通りに 美しく 可愛らしく いつも元気で 楽しげに歌を歌いながら じょうずに踊ったり、やさしい笑い声を振りまいたりして、みなを愛し みなに愛され 人々の喜びになっておられました。
 
  そして・・、明日は お姫様の16歳のお誕生日 というとき。 毎年のお祝いではありますが、16歳のお誕生日は特別で、お姫様が一人前になられたということの お披露目のお祝いでもありましたから、いつになく お城は大忙しで 広間を飾り、料理を作り、たくさんの方たちのための席を用意して・・・と 大騒ぎになっていました。

 そんな騒がしさをさけて お姫様はひとりで お城の一番高い塔を目指しておられました。お城はお姫様のお住まいですから、どんなところも すっかり知っているつもりだったのですが、このあいだから ずっと気になっていた 一番高い塔は そういえば 今まで上ったことがありません。いったいなにがあるのかしら?と お姫様は わくわくしながら 長い長い螺旋階段を上っていかれました。

 長い階段を上りきってやってきた塔のてっぺんには、古びた扉の小さな部屋がありました。ちかづくと なかから 何かが回っている音がしているます。
 そうっと 扉を開けたお姫様を待っていたのは、とても年をとったおばあさん。
小声で歌いながら みたこともない物を くるくると回しながら、なにかやっています。

 「こんにちは、おばあさん。」お姫様は声をかけました。
振り返ったおばあさんは まぁ いったい どれほど生きてきたのでしょう、というくらいに年をとっていました。お姫様はびっくりしましたが、すぐ にっこりすると おばあさんのそばに行きました。

 「これはなに?おばあさんは なにをしておいでなのですか? 」
「これかい? これは糸車といってね、こうしてまわしながら ほら このつむに いとをつむいでいくのさ。」 お姫様にとっては はじめてみるもの。とても いいものに見えました。「おもしろそうね。ね おばあさん、私にもできるかしら?やってみたいわ。」
「そうねぇ、ちょっとむずかしいんだけどねぇ、ま やってごらん。」 「ありがとう!」

 
  あの騒々しさは いったいどこへ行ったのでしょう。
お城の中は 悲しみの泣き声がさざなみのように 次々と広がって、まるで お通夜のようです。
 みなは お誕生日の席でのお披露目のために用意された きれいなお召し物に包まれた女神のような美しいお姫様の周りに集まって、途方にくれながら ただただ なくばかりです。
 あの糸車のつむの先の針に ほんのちょっと触れただけなのに・・、お姫様は ばたんと倒れたきり、ぴくりともなさいません。
 お姫様はお部屋に連れてこられ、おそばの者たちによって お召し替えをされ、きれいにお化粧を施されて、ベッドによこたえられました。
 王様やおきさき様が いくら呼んでも、すこしも動きません。

 そのとき、あのお誕生のお祝いのときに 最後にお姫様に贈り物をした若い魔法使いが、うわさを聞きつけ 風に乗ってやってきました。そして みなの真ん中にたつと 杖を振り上げて言いました。
 「さぁ、眠るが良い、すべての城の中の人々よ。すべての城の中の生き物よ。みんな眠って オーロラ姫とともに ゆっくりと休むが良い。」


 それから 何年ものながい月日が過ぎていきました。
いまでは あのお城は すっかり茨に覆われ、誰も近づくことができません。
 しかし お城についてのうわさは 人々の間に広まっていて、お城に眠る 世にも稀な美しさのいばら姫(人々は ずいぶん昔からの言い伝えのお姫様を そう呼んでいました。)をお救いしようと 何人もの若者たちが お城の周りの茨を何とかして 通り抜けようと 何度も何度も試みていたのですが、だれひとりとして お城の見えるところにたどり着くことさえできませんでした。

 ある日 ある国の王子様が そのうわさを聞きつけて、是非 その美しいお姫様をお救いしたいと、みなが止めるのも聞かずに お城に立ち向かいました。
 案の定 あっさりと引きさがらざるをえなかったのですが、 王子様はふと思いついて、あの若い魔法使いを訪ね、力添えを願ったのです。

 魔法使いは 王子様の熱意に打たれ、この若者なら、と 特別に力を授けました。
その力を得て 王子様は、絡み合い 多いかぶさる茨を切り開き、息つくまもなく 次々に襲いかかる たくさんの邪魔ものを切り捨て、危険なわなをすり抜けて、とうとう お城の中に入ることができました。

 誰も彼もが あのときのそのときしていたことをさっきまでしていたような そんな格好で 眠りについていて、お城の中は しんと 不気味に静まり返っていました。

 王子様は 次々にお城の中の部屋を開け放ち、そのたびに 眠っていた人々の目がさめて、みな 驚き そして 王子様のお越しを歓迎し、お姫様の眠る部屋へ お連れしたのです。

 「これは・・!」 そういったきり 王子様は言葉を失いました。うわさ以上の 美しいお姫様が かすかな寝息とともに 安らかにお休みになっておられたのです。
 王子様は 静かにお姫様に近づくと 長いこと その顔を見つめておられましたが、
その赤い花びらのような柔らかな唇に そっと キスをしました。

 すると! お姫様は ふうっと息をはかれ、長い間閉じられていた その輝く瞳をみせ、そばにたって その美しさに見入っていた若い王子様を見て にっこり微笑むと言いました。 「おはようございます。そして あなたは・・ どなた?」

 王子様の熱烈な結婚の申し込みを受けたオーロラ姫の目覚めとともに お城は息を吹き返し、すべての人々や生き物が みな 目覚め、王様とおきさき様も とても とても お喜びになられて、オーロラ姫と王子様のご結婚を祝福なさいました。

 お城の周りの茨は いつのまにか消えてなくなり、たくさんの人たちが 長い悲しみがあけた 喜びの日を祝うために、お城に集まってきました。黒衣の魔女は あの若い魔法使いと王子の力で すっかり魔力を失い、ただの年寄りのおばあさんとして 遠く離れたところで 暮らさなくてはならなくなり、いまは もう 誰が邪魔するものもありません。

 国中をあげて 盛大な結婚のお祝いが美々しく行われ、おふたりは その後も仲むつまじくお子様にも恵まれ、国も安泰で 幸せにお暮らしになられた ということです。   


 もう 何の説明も要らないですよね。知り尽くされたお話です。
それでも たくさんの訳本が出されていて そのどれもが 少しずつ違います。
 そして 何度も繰り返し聞かされたり 読んだりしたお話は ちょっとずつ それぞれの心の中で それぞれに育って・・、また ふるくて新しいお話として 語られていくのです。

 『お話し』って そういうものなんだと思います。
どれが正しいとか どれが本物だとか そういうことにこだわっているうちは 語り伝え という お話本来の役目を 忘れてしまわれている と 私は思うのです。

 古く 長く 語り継がれたお話こそ 生きていて、話されるたびに よみがえり、生き生きと また あたらしい命を 次の時代に生きるのだと 私は 思っています。

 いろいろ 茶々も入れたいのですが・・ いつものように。
 
 でも ちょっと まとものことを書いたので 今回は これで・・・。
 

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