2月のお話  米良の上漆 (龍が淵) 
  米良のある山里に 漆を取って暮らしている兄弟がありました。
ふたりは 毎日 山に入っては 漆の木を見つけると 鎌でその幹を傷つけ、そこから滲み流れ出る漆の液を器にためては 町へ行って それを売っていました。

 あるとき 兄が山に入って いつもよりも もっと良い漆の木がないかと あちこち捜し歩き 奥へ奥へと 入っていったところ、今まできたことのない所に出ました。そこは たいそうながけの途中で がけの上のほうには 沢山の漆の木があり、ソコまでいかれれば ずいぶんと沢山の漆が取れて きっととてもよいお金になるだろうと思われましたが、見上げれば見上げるほど高くて険しいので ちょっと難しそうでした。

 ところで そのがけの脇を大きな滝が流れ落ちていて、その落ちる先には 深いふちがあり、水は 青々として ごうごうとうなりながら 渦を巻いて深みに吸い込まれていくようでした。
 兄は そのふちを眺めながら なんて綺麗な水だろう、と そのヒスイのような美しい水の色に見とれていましたが、ふと 体を動かした拍子に 仕事をするのに欠かせない大切な鎌が あろうことか 滝に落ち、そのまま 水の底に吸い込まれてしまったのです。
  あれがなければ 今日からだって困ります。
兄は 思い切って その水の淵 目指して飛び込みました。
 幸い 兄は泳ぎが得意でしたので、うまく 水の流れを利用して 思いがけなくも 短い時間で鎌を見つけることができました。

 ああ よかった・・ そうおもって 鎌を手にした兄は ふと 周りを見回して びっくりしました。鎌の落ちていたそのあたりは なんと漆が沢山に流れ集まっているところでもあったのです。
 たかいがけの上の漆の木からの液が 長い年月をかけて 水の底に集まってたまったものに違いありません。

 ためしに 兄は懐にもっていた ちいさな椀に漆をかきとると 急いで 水の上にあがったのですが、明るいところで見たその漆は 黒々とした艶のある たいへん質の良い、そのあたりでは なかなか 手に入らないような上等なものでした。
 兄は それを持って町へ出かて売り、たいそうなお金を得て 家に戻ってきました。

 それから 何日かに一度の割で 兄は 弟とは時間や道を変えて ひとりであの淵までやってきては 小さな椀いっぱいの漆を取り、町で売っていましたので、兄は ほどなく ずいぶんと楽な暮らしができるようになりました。

 弟は 兄が 自分と一緒に出かけなくなったころから 少しずつ兄の生活ぶりが変わってきて ずいぶんと良い身なりをしたり 贅沢なものを食べたりしているのに気がついて、ある日 とうとう兄の後をつけていくことにしました。

 兄は 弟があとからつけてくることなどまったく気づかずに その日も山を奥へ奥へと入っていきました。
 そして あの淵までくると 当たり前のように 水の中に飛び込みましたが、兄が浮き上がってきたときには 手にした小さな椀いっぱいに つやつやとした 美しい漆がいっぱいに入っていました。

 弟は それを見て なるほど そういうことだったのか とおもい、兄が 着物を着て山を降りて、すっかり姿が見えなくなるまで じっと隠れていました。
 そして その後 弟は 兄と同じように 水の中に飛び込み 底へ底へと 降りていきますと、なんと 水の渦巻くその底には 美しいつややかな漆が たっぷりとあるではありませんか!
  弟は 兄と同じように 懐から 小さな椀をだし、漆をいっぱいかきとると 急いで水の上に向かって泳ぎました。

 そして それをもって 町で売りますと 今までになく 高い値がつきましたので、弟は もう これからは あの淵の漆を売って 暮らしいくことにしよう と考えました。

 しかし 弟は 一回や二回ならともかく、これから先も あの漆をとってくるとなると、そのうち兄は このことに気がつくようになるだろうし、そのとき 先に漆を見つけていた兄が 自分に向かって なんと言うだろう とおもうと、何とかして あの漆を自分だけのものにしておきたいものだ と 考えたのです。

 そこで 弟は 町に出かけていったついでに そのあたりでは一番という腕の立つ木彫り職人のところへいって 本物かと見まごうかのような 大きな龍の彫り物を作ってもらい、それを 自分のところへ持って帰って 丁寧に色をぬると 誰にも見られないようにして あの淵まで龍を運び、水の底の漆の近くの大きな岩に 水に流されないように 龍を据えました。

 少し離れて 龍を見ると、水の流れに揺られて 頭や首が動き、まるで本当に生きているようだし、そばの漆を守っているかのようにも見えましたので、弟は これで 自分以外のものが この漆を取りにきたとしても きっとあの龍に驚いて逃げていくだろうと思いました。

 次の日 弟は また あの淵の漆を取りに行き、水にもぐって泳いでいきました。
木彫りの龍は 昨日と同じところに据えらたまま、水の流れによって ゆらんゆらんとおおきく動き 本当に生きているようでした。
 これなら 大丈夫だ と思い、弟が安心して 漆をかき取ろうとしたそのとき、龍がおおきく動いて 弟に向かって口をあけ、今にも襲いかかろうとしたような動きをしたので、弟は びっくりして 急いでそこから離れました。

 その後 何回か 漆を取りにいこうとしたのですが、そのたびに 龍が自分に向かって襲い掛かかり、最後には ただ描いただけの龍の目が まるで生きているように ぎらりと光って、弟をにらんだので、弟は 心底驚いて 怖くなり できるだけ早く 水から上がると、もう二度とあの漆はとりにいけないことを知りました。
 
  そして その後の兄の売る漆が あの高価な漆ではなくなったことを思うと、どうやら あの淵に静めた作り物の龍は あのときから 魂を吹き込まれた龍となり、漆を取りにやってくるものから 漆を守るようになったようでありました。

 いつの間にやら あの淵は「龍が淵」とよばれ、漆は水底の龍によって守られているために、だれも その近くに行くこともなくなってしまったということです。


 このお話は ご存知でしたでしょうか・・?

 毎度のことですが 話の初めと終わりは うろ覚えで(すみません)
多少だと思うのですが 遠藤が脚色しました。
 

 う〜ん・・・ 誰が一番 おろかか・・。
  よめばわかることですよね。
 
  おろかなのは 独り占めをもくろんだ兄と弟のふたり。 この兄弟 すくわれませんなぁ・・。ま 総じて 兄弟なんて おんなじ胎から生まれたり、同じ育てられ方をされるんですもの、しょうがないって言えばしょうがないんでしょうし、一種 家庭教育のなせる業でもあるかもしれないかな なんて 思ったりするのは 私だからでしょうか?
  よく昔話では 兄弟が対立する形で語られますね。旧約聖書の中にある 最初の殺人も ケインとアベルという兄弟の対立から起こったことでした。

 漆については あまり詳しいことは知らないのですが、いつだったか テレビで漆を職業とする人の仕事振りを放映しているのを見たのですが、それはそれは 根気の要る そして とても緊張を求められる 地道な仕事でしたが、その努力の結果は穏やかにして美しく、静かな光沢を生むものでありました。
 (それにしても あの木彫り職人は すごい!魂が吹き込まれたとはいえ、木で彫ったものが 命のあるものになってしまうなんて・・!! 確かに 一番すごいのは 木彫り職人さんでしょう、はい。)

 そんなこんなをおもいながら このお話を書いていると 人間の根っこに巣食う自分だけは という身勝手な思いへの戒めを つくづくと感じてしまいます。

 まぁ・・ この兄弟に限らず もちろん 私にだってあるんですよ、おんなじ思いが。
だから決して 他人事ではないんです。
 はい、やはり いいこと 良いこと 素敵なことは 周りの人たちときちんと分かち合いましょう。それが 結局 自分にとっても 良いことになっていくのだと 思いたいものです。

 そうでした・・、幸せは 独り占めしてはいけないかったのでした。

 あなたは どう思いますか? 
 

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