7月のお話  家の精と料理番

 

 

 昔、あるところに 食べることが大好きでたまらないという お金持ちがいました。贅沢なしつらえの家の中には、何もかもがそろった 立派な台所がありました。

 その家の主人は、誰よりもおいしい食事を毎日食べることを喜びとしていましたので、その願いを兼ねえるために、ひとりの大変 腕の良い料理番が 雇われていました。

 料理番は、料理することが大好きで、いろいろに工夫して、主人が喜んでくれるように 毎日 毎食 楽しんで 食事を作っていました。

 

 ところが、ある日 いつものように 料理人が夕食のためのスープを作っていると、かまどの中から ひょっこりと 小さな妖精が出てきました。

 料理番は、そんなものを見るのは 初めてです。びっくりして スープをかき混ぜる手を止めて 妖精を上から下まで 眺め回してしまいました。

 その妖精は 自分のことを この家の精だといって、首からぶら下げている ちいさな皮袋の口を広げて 空っぽの中を見せながらいいました。

 「いつも とてもおいしそうな料理を たくさん たくさん 作っていますね。とくに、あなたの作るスープは、本当に おいしいですね。

 あ・・ ごめんなさい、一度 なべの底に残っていたのを ちょっと 戴いてみたとき、ものすごくおいしかったんです。それでね、今日は、すいませんが、そのスープを 少し分けてもらいたくて でてきたんです。」 

 料理番は、とても 驚きはしましたが、妖精の様子を見て、とくに いたずらをするようでもないし、それに 小さな家の精の 小さな皮袋ですから、お玉一杯くらいなら 別に かまいはしない と 思って、
「そうだな、少しなら いいだろう。」 と 答えました。

 ソレを聞いた 家の精は 大変喜んで御礼を言うと、小さいくせに ひょいと なべをもちあげて、袋の中にむかって なべを傾けました。

 小さな妖精の小さな皮袋です、ほんのちょっとだろうと思っていたのです。それなのに 料理番が あれ あれ? と 思っているうちに、とうとう なべは空っぽになってしまいました。 

 そして あっけにとられている料理番をみて 家の精は にっこりすると、丁寧にお辞儀をして あっというまに かまどのむこうに消えていってしまいました。

 さて、料理番は 困ってしまいました。
今から また スープを作っていたら、今日の夕食のおかずを作る時間がなくて、ご主人には パンとスープしか 出せなくなってしまうからです。

 そこで 料理番は 仕方なく、スープ抜きの食事をテーブルにならべて、食事をしに来た主人の
 「スープは? きょうのスープはどうしたのだ?」
という 質問に、詳しくわけを話して スープが用意できなかったことを 言いました。

 食いしん坊で おいしいものが 毎日食べられることが 当然のその主人は、料理番の話を聞くと、カンカンになって怒りました。

 「いいか!今度 その家の妖精とやらがでてきたら、何か言う前に ぶん殴って 追い返してしまえ!」

 そして、次の日。やはり 家の妖精は 料理番のスープがほしいと 現れました。
 料理番は 主人に言われたことを思い出しましたが、でも ほんとに こんなに小さなものをなぐれるでしょうか?

 うれしそうに ニコニコしながら 皮袋に スープを注いでいる妖精を見ながら 料理番は 思っていました。

 『いやいや、こんなに小さな妖精を殴るなんてこと 出来はしない。そうだな、自分が また 怒られればいいんだから。』

 そして、その日の夕食も また スープは出されませんでした。

 主人の怒りようったら! 真っ赤な顔をして、フォークやナイフを飛び散らさんばかりに テーブルをげんこつで どんどんたたいて、怒鳴りました。

 「今度、わしのスープを盗む家の精が出てきて 同じことを お前がさせるというのなら、お前は クビだ!家の精など、火に放り込んでしまつしてしまえ!」

  料理番は 仕事が無くなるのは 困るな・・と おもいました。それに 毎日 好きなことを楽しく出来ているのです。だから 今度 また 家の妖精がきたら、もう あげられないと 言おう と 思いました。

 そして、次の日。家の妖精がやってきて スープをほしがったとき、料理番は言いました。

 「あのな、このスープは だんな様のものなんだ。それを 2度も お前さんにあげちまったもんで、俺は さんざん叱られたし、今度 また 同じことをしたら、クビになっちまうんだよ。

 おまえさん、何で そんなにスープが毎日 いるんだい?それも そんなにたくさん。ほんとに 皮袋一杯分なら かまわないんだけどなぁ。」

 すると 家の妖精は びっくりしたような顔をし、それから とても 困ったようにもじもじしながら 言いました。

 「実は、私の家には 病気の子供がいるんです。料理番さんのスープを朝も昼も晩も 飲ませたら、すこしずつ 元気になってきたんです。だから もうすこし、もうすこしだけ スープをもらえませんか?」

 料理番、ソレを聞いては だめとは言えず・・
「そうだったのか。それなら 話は別だ。俺にも子供がいるから よく分かるさ。わかった。もってってやりな。早く治るといいな。」

 そして、料理番は クビになり、お屋敷では すぐに 新しい べつの料理番が雇われました。

 

 新しい料理番は、初めての仕事をする前に 主人にきつく言われました。「いいか、お前のスープがほしいと 家の妖精が出てきて言ったら、何もやらず 何も言わずに 嫌というほど殴ってやれ!」   

 そして、新しい料理番は いわれたとおりにしました。

 家の妖精は、あちこち あざやこぶや血が滲むほどの痛い思いに、泣きながら 前のやさしい料理番を 探しに行きました。

 すると、前のやさしい料理番は 森の入り口の 切り株に腰をかけて、哀しそうに頭をたれて しょんぼりしていました。

 家の妖精は、料理番のそばに立つと言いました。

「あんた、ほんとに 優しい人なんだね。あんたがしてくれた親切に おれいを したいんだ。今夜、あの屋敷の家中の灯りが ぜんぶ消えたら、庭まで 来て待っていてくれよ。」 

 そして 家の妖精は すーっと 消えて見えなくなってしまいました。

 その夜、料理番は 言われたとおりに 屋敷の庭に来ました。
すると 暗がりの中から 家の妖精がやってきて、こっちこっちと手招きをします。 そっと足音を立てないように ついていくと、どこをどう通ったのやら、気が付くと 見慣れたかまどのそばに立っていました。

 家の妖精は ふりかえって 料理番の手をつかむと ぐいっと かまどに引っ張り込みました。料理番は びっくりして目をつぶってしまいましたが、次に 目を開けたとき、そこには ふるい大きな扉がありました。

 そして、家の妖精が その扉を開けると・・! 
  なんと びっくりしたことに、そこには たくさんの宝石がきらきらと光り輝く 素晴らしい部屋があったのです。

 驚いているばかりの料理番にむかって、家の妖精は にこにこしながら 一つの箱を渡しました。

 「願いをかなえてくれる箱。なんでもいいんだ、蓋を開けて 願いを言うと、ちゃんと かなえてくれるんだよ。言ってごらん。」

 そこで 料理番は いいました。
「おいしい料理のできる大きななべと、なんでも切れる包丁!」

 とたんに、目の前に 新品のきれいで大きななべと、きらっと光る包丁が出てきました。料理番は 大喜び。

 「これは!なんてことだ。なんて いいなべなんだ!この包丁!ほら、これなら ほんとに なんでも切れそうだ!コレさえあれば、だれのためにだって おいしい料理を作れるし、きっと みんな喜んでくれるぞ。ありがとう!ありがとう。」

 「喜んでもらえてよかったよ。ねぇ、その箱は 台所だって出せるんだよ。あんたの願いなら なんでも かなうよ。」

 やさしい料理番は なんどもお礼を言って 大事に箱を抱えて 帰っていきました。

 

 さて しかし、その様子を じっと 見ていたものがあったのです。
それは 今度雇われた あたらしい料理番でした。

 次の日、いつものように 食事の用意をしていた あたらしい料理番は、スープを作っているときに現れた 家の妖精をとっ捕まえて 言いました。

 「おい!今すぐ、今すぐ 魔法の箱を俺によこせ!でないと、お前の首をこの包丁で ちょん切ってやるぞ!」

 そこで、家の妖精は 小さな箱を出して 渡してやりました。

 料理番は 得意になって、主人のところへ行き、分けを話して聞かせました。ソレを聞いた主人は もう がまんできません。

 「なにをしている!早く 世界一おいしい料理を出して見ろ!本当に世界一の料理が たっぷり出てきたら、お前の給料は倍になるぞ、いや3倍だ!」

 そこで、料理番は もったいぶって 勢いよく 大声で言いました。

「世界でいちばんおいしい料理! 今すぐ でてこい!」

 すると 小箱は がたがたと料理番の手の上で 揺れ始め、きゅうに 蓋が ぱかーんと開いたと思うと、中から たくさんの、そう、100人くらいの家の精達が 手に手にこん棒を持って いっせいに飛び出してきました。

 そして、びっくりして 逃げようとした主人と料理番を、みんなで ぼかぼかと 殴ってやっつけてしまったのでした。    

 

 


 このお話は ご存知でしたか?

 ずいぶんまえに テレビのお話の番組で 見たことがあったように思います。

 ちょっと 思い出し作業をしながらのことなので、どこがどうなっているのか、本当は どうだったのかは まぁ いつものことですが、少々いい加減ですが、大体は こんなお話だったように思います。

 しかし・・、妖精さんの皮袋には 気をつけなくちゃいけませんね。
ああ、いいよ と 承諾したことが その分だけでは おわらないというのは、考えると 厄介なことですよね。

 たぶん おもうんですけどね、最初の料理番も やさしいひとではあったのかもしれないけれど、これ、自分の買ってきた食材をつかった 自分たちのためのスープだったとしたら・・ 一度はいいかもしれないけれど、2度3度はなかったんじゃないのかなー なんて。

 あ それは 自分か・・。あの料理番さんなら やっぱり いいよっていうんでしょうね。

 そう、どんなものも わけられるものは ちゃんと 分け合わなくてはいけません。だって 食材も ソレを買うことが出来るのも、それを調理することが出来るのも、そして たべることだけじゃなくても 何でも、そのいちいちを 自分ひとりだけで 作り出したなんてこと、殆どの物事において ないわけなんですから。

 つまり、自分たちだって 分け与えられたもので生きているのだから、だから 持っていないところへ分けていくのは、ねぇ 当たり前のことですよね。

 あなたも そう思いませんか?

 

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