4月のお話  一寸法師

 

 

 昔、あるところに おじいさんと おばあさんが いました。

 ずいぶんと 中のよい夫婦でしたが、ひとつだけ、子供が一度も授からなかったことを、ずっと 気にやんでいました。

 ふたりは 村のはずれの小さな一軒屋にすんでいましたが、たまに 村の子供たちの 騒ぐ声などを聞くと、自分らにも 子供が一人でもいてくれたら・・と 思っていました。

 ですから、ふたりは 朝に晩にと ちかくのお寺におまいりして、どうか 子供をお授けください、どんな子供でも、たとえ 親指ほどの子供でも、大事に 大切に育てますから・・ と お願いしたのでした。

 そして、あるとき、おじいさんとおばあさんに 男の子が恵まれました。
・・が 願ったとおり、というのでしょうか、その子は ほんとに 大人の親指にもみたない、一寸ほどの小さな、でも とても 元気な男の子でした。

 ふたりは その子供に 一寸法師と名づけ、おばあさんは ちいさなちいさな産着や布団をつくったり、おじいさんも 一寸法師を喜ばせようと 一緒に遊んだり、前にもまして精を出して働くようになりました。

 一寸法師は、とても 元気で 愉快な子供で、おじいさん、おばあさんを よく笑わせたり、楽しませたりしましたが、しかし、いつまでたっても 一寸の背丈のままでした。

 おじいさんもおばあさんも 今度は、どうか 一寸法師の背を高くしてください、と お参りで祈るようになりましたが、それは 一寸法師には 言いませんでした。

 そんなある日のこと、一寸法師は、おじいさんと おばあさんの前に 改まった様子で座ると、丁寧に 頭を下げて こういいました。

 「おじいさん、おばあさん、私は 修行に出ようと思います。どうか 私に 船と櫂をください。川を下って 京の都に 行ってきます。」

 おじいさんもおばあさんも こんな小さな子供が、人の大勢いる都などに行ったら どんなことになるやらと、気をもんで 一生懸命、一寸法師をなだめようとしましたが、一寸法師は、なにをどういわれても 言い出したことを変えません。

 とうとう 二人は しかたなく、一寸法師の言うことを 聞いてやることにして、 おじいさんは 針でこしらえた刀とわらで作った鞘を与え、おばあさんは 新しい着物を着せ、「それでは これに乗ってお行き。」といいながら 川にお椀を浮かべ、さっそく 乗り込んだ一寸法師に、箸の櫂を渡しました。

 「それでは 行ってきます。どうぞ お達者で。」「お前も、くれぐれも 気をつけるんだよ。」

 どのくらい 川を下ったのでしょうか。 とうとう お椀の船は 京の都に着きました。

 一寸法師は、ぴょんっと お椀の船から 岸に飛び移ると、大きく息を吸って、周りを見回しました。

 なんとまぁ たくさんの人々が いることでしょう。みな 忙しそうに せかせかとあるいていて、うっかりすると 踏み潰されそうです。

 一寸法師は 身軽に 危ないところを避けながら、あちこちあるいて、とうとう りっぱなお屋敷の前にたどり着きました。

 よし、ここで 頼んでみよう。 そう決めた 一寸法師は、玄関に入ると 大きな声で 声をかけました。

 「たのもう! たのもう!!」

 おくから出てきた 家の使用人は、「はいはい、お待たせいたしました。どちらさま・・?」 と 言いながら、周りを見ても 誰もいないので、はて、そらみみか・・と 首をかしげながら 奥へ戻ろうとしたとき、もう一度 大きな声が 「ここです。こちら、よく 見てくだされ。」と 言いました。

 不思議に思った使用人が 声のするほうをみると、なんと そこには とても 小さな男の子が 立っているではありませんか。

 「なんと! いったい お前は誰なんだ?」「はい、私は 一寸法師と申します。こちらのお屋敷のご主人様に お目にかかりたく お頼み申します。」

 お屋敷の主人も、はじめて そんなに小さな子供を見たのですが、ものめずらしいのと、一寸法師が 京の都に着くまでのことなどの話が 面白かったので、それならば 姫の遊び相手に と 一寸法師を お屋敷におくことにしました。

 お屋敷の姫は、たくさんの大人たちに囲まれて 大切に育てられてきましたが、近い年頃の話し相手がいるでもなく、いつも 一人で ものたりない思いをしていました。

 それが、一寸法師が 屋敷にとどまるようになってからは、たびたび 姫の部屋から、楽しそうな話し声や笑い声が 聞こえるようになり、家の者たちも 姫のかわいらしい笑顔や 弾むような声に、主人をはじめ 皆が 明るい気持ちになったのでした。

 ある日、姫様は 清水様におまいりに行くことになり、お供のものに加えて 一寸法師も 連れて行くことにしました。

 よい天気で、道を歩く人たちの顔も、道を縁取る桜の花のように、晴れやかで、うれしげに見えました。

 人々の中を 姫たちの一行が通ると、周りの人たちは 薄衣を通してみる 姫の美しさに ため息をつき、微笑みかけました。
 そのたびに、すこし こまったように目を伏せる姫をみて、一寸法師は、きれいだなー と おもっていました。

 そのとき、道の向こうが なにやら 騒がしくなり、人々の 叫び声が聞こえてきました。 

 何事かと 皆が目をやると、なんと 向こうから、大きな赤鬼と青鬼が 道行く人々を 突き飛ばし、放り投げ、持ち物を奪い取ったり、傍らの店を壊したり、大変な 暴れようです。

 「姫様、こちらへ!」という お女中の声に、姫が 薄衣を翻したのと同時に、赤鬼が 姫の手首を むんずとつかみました。

 「手を離せ!離して!だれか 助けて!」と叫ぶ姫を見ながらも、周りの者たちは 鬼たちが恐ろしくて、ただ わぁわぁと叫ぶばかりで 誰も何もできません。

 皆が おろおろと 姫を呼ぶ中、「鬼ども!下がれ!」という 勇ましい声が聞こえました。

 鬼たちにも それは聞こえましたが、肝心の それを言ったものの姿が見えません。

 きょろきょろと 辺りを見回す赤鬼の、姫の手首をつかんだ腕に、なにか 小さなものが 飛び移りました。

 「何だ?虫かぁ?」と 顔を近づけた 赤鬼は、ちいさな 一寸法師が 針の刀を振りかざして 自分にきりつけようとしているのを見ました。

 「なんだ?何だ? いったい お前は なんなんだ? こんな小さなやつが どうやって 俺に勝つというのだ? どれ、こうしてくれよう!」

 赤鬼が そういうか言わないかのうちに、一寸法師は 赤鬼に捕まって ぱくりと 食べられてしまいました。

 「ああっ!一寸法師や!」 姫は 思わず 袖で 目を覆い、あまりのことに、崩れるように その場に座り込んでしまいました。 
  お供の者たちも 腰が抜けて、ただ 見守るばかり。皆 どうしてよいのか、ただただ 怖くて 震えるばかりでした。

 赤鬼が さぁ それでは この美しい女子を連れ帰ろう と、地に倒れている姫に 手を伸ばそうとした そのとき。

 いきなり 赤鬼が わぁわぁと 叫び始めました。

 「どうした、赤鬼?! どうしたんだ?!」 青鬼が そういっても 赤鬼は 何もいえません。 いえるはずはありません。赤鬼のおなかが 突然 ものすごく痛み出したのです。

 痛い 痛い! 助けてくれ、どうにかしてくれえ! と 腹を抱えて ごろごろと 地面を右へ左へと転げまわる赤鬼が、しばらくして がっと 開いた大きな口から出てきたのは、赤鬼のように 顔を真っ赤にした 一寸法師でした。

 はぁはぁと 肩で息する 一寸法師をみた、人々は、 わあっと歓声をあげました。

 四つんばいになって、脂汗をたらし、ぜいぜいと荒い息を吐きつづける 赤鬼を見て、周りのものたちは 一寸法師が、鬼の腹の中を つつきまわして 暴れたことを知りました。

 そばにいた 青鬼は、あまりの悔しさと腹立たしさで、今度は 自分が、と 一寸法師に手を伸ばしました。

 すると 一寸法師が ひらりと それをかわし、一気に 青鬼の腕を駆け上がって、その顔に飛び移り、やあ やぁ! と その目を 針の刀で突いたものですから、青鬼も 痛くて たまりません。

 いそいで 一寸法師を 振り払うと、まだ 腹を抑えている 赤鬼とともに、いそいで その場を去っていってしまいました。

 周りで見ていた人たちは、やんや やんやの 大喝采。
みんな、いつも ひどい目に合わされていた鬼たちが、ほうほうの体で 逃げていくのを見て、大喜びでした。

 姫のお供の者たちも いそいで 姫を助け起こし、ついで 一寸法師を探すと、皆で 口々に その勇敢さをほめました。

 「助かりました、一寸法師や。一時は どうなることかとおもいましたが、本当に よくやりました。礼をいいます。」

 姫が そういって 軽く頭を下げたとき、何かが 姫の足元に ころんとあたりました。

 「あれ?姫様、それは・・?」 お供のものが 急いで取り上げたそれは、あわてて逃げる鬼が落としていった ひとつの小槌でした。

 「姫、これは 私の初めての戦利品です。どうぞ お屋敷に お持ち帰りください。」

 一寸法師の言葉に、にっこりとうなずいた姫は、大事に 小槌を袖で包みました。

 さて、お屋敷では、事の次第を聞いた 姫の両親が、無事に戻ってきた姫たちを向かえ、泣いて喜び、また、姫のために 勇敢に戦った 一寸法師のためにと お礼とお祝いの宴を開きました。

 その席で、一人の物知りの老人が、鬼の落とした小槌を見て、言いました。

 「ご主人、これは、不思議な力があるといわれる 打ち出の小槌かと思われます。」
 「なに?打ち出の小槌とな?」
 「はい、聞いたところによりますと、この小槌を振りながら、望みを言うと、そのとおりになる ということです。」

 それでは、と 半信半疑の屋敷の主人たちの見ている前で、これをもって帰れたのは 一寸法師のおかげですから、と 姫が小槌を手にして 一寸法師に向かって言いました。

 「一寸法師や、なんでも望みを言うがよい。私を助けたお前の望みこそ、かなえられねば・・。」

 皆も そう、そうだ、と うなづき、一寸法師に なんでも 望むことを言うように と 勧めました。

 「ありがとうございます。それでは 姫、私に向かって、一寸法師の背よ、出ろ、背よ、出ろ と おっしゃってください。」

 あい、わかった といって 姫は、一寸法師にむかって、鬼の小槌を振りながら、一寸法師の背よ、出ろ、背よ、出ろ と 唱えました。

 皆は どうなることかと それを みつめていましたが・・、どうでしょう!

 姫が 小槌を振るたびに、一尺ずつ、一寸法師の背が 伸びていくではありませんか!

 姫が 6度ほど 小槌を振ると、そこには、身の丈六尺あまりの 立派な若者が 立っていました。

 これは、これは・・! と 姫の両親も 周りの者たちも、そして もちろん 姫も、一寸法師も たいそう驚き 喜びました。

 そして、一寸法師は 姫と結婚し、二人は 末永く 幸せに暮らしました。

 

 

 このお話は・・ 知らない方は 無いでしょう。

 今回は なぜか 急に 一寸法師のことが 思われて、今まで ずっと 書かずにいたものを とうとう 形にしてみました。

 いろいろな説があって、解釈も さまざま、原本などは かなり暗い話のようで、深刻な社会背景があっての話のようでもありそうです。

 一寸というのは ご存知のように 約 3センチ、一尺は その上の位で、これも 約10倍の30センチ強というtころ。なので、6尺というのは 180センチちょっと ということになりますね。

 なんともまぁ・・ いきなりの成長で、大変だったことでしょう、 なんて・・

 ものの本によりますと、小さく生まれた子供が なかなか 大きくならないことを、いぶかる両親の元に 居辛くなった男の子が、ひそかに家を後にして・・ という、そんなものの ようでしたが、どの世界でも 昔は、夫婦になれば、子供ができて当たり前という観念から、子供が居ない というのは、大変 辛い思いをすることのようでしたし、たとえ 子供が生まれても、育ちが悪く、いつまでも 大きくならないなどは、労働力にならない ということで、その子も その親も役立たず、といわれることが 多かったようです。

 一寸法師のお話は、いくつもの変遷を経て、今私たちが知っているような話になりましたが、小さくても 知恵があるとか、うまく やり過ごしたり、という 多少の小ずるいような機知で 世の中をわたることを 痛快におもう、その時々の人々の思いが 語り継がれているのかもしれませんね。

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