12月のお話   ガラスのくじゃく

 

  アナ・マライヤといつもの遊び仲間たちが住んでいるメリン横丁は、時代に取り残されたようにも、あまりに ごちゃごちゃとしすぎていて、町の整備対象から もれてしまったようにも見える、昔からの小さな店や古い家々が ぎっちり 隙間もないくらいに立ち並んで、複雑に入り組んだ場所でした。

 そんなところですから、車がいきなり入ってくることなどがないので、すこし ほかよりは広めの角などは、子供たちにとっては 格好の遊び場所になっていて、時々、ほかの横丁の子供らも来ることもあって、いつも 楽しげな声や歌が、時々 ぐずったり転んだりした子供の泣き声なども混じって、聞こえていたのでした。

 ところで、小さいウィリアムは、姉のアナ・マライヤが どんなこともできることを知っていました。今日も 誰かの声が聞こえます。

 アナ・マライヤ、ジョニーが転んで怪我をしたよ。
  すると アナ・マライヤは すぐ飛んで行って、手早く手当てをしてやります。

 アナ・マライヤ、にーちゃんが あたしの人形の頭をとっちゃったよー
  すると アナ・マライヤは お針箱をもって 泣いている子を慰めながら、あっというまに人形の頭をくっつけてやります。

 アナ・マライヤ、ちょいと 坊やを見てておくれでないかい?私は 出かけなくちゃならいんだよ。
  ああ、いいよ、気をつけていっておいでよ、坊やは ちゃんと みているからね、と アナ・マライヤは気持ちよく 言ってやるのでした。

 ウィリアムは、アナ・マライヤが そうやって 誰のためにも、どんなことも引き受けては、なんでも うまくやることが とても自慢でしたし、アナ・マライヤは だれにでも 同じように よくしてやりました。

 あるとき、子供たちが 遊んでいるところへ オルガン弾きがやってきたので、子供たちは オルガン弾きを囲んで、自分らが踊るためにオルガンを弾いてくれるよう せがみました。

 オルガン弾きは、だめだ、だめだ、今日は そんな暇はねぇ、といって 通り過ぎようとしたのですが、そのとき オルガン弾きの袖を、アナ・マライヤが ひっぱって にっこりしていったのです。
 「この子達 踊りたいんだ。オルガンを弾いてくれない?」

 アナ・マライヤは ごく普通の顔をした子供でしたが、笑ったとたんに それは かわってしまうのです。 
 そして、それを 見た人はだれでも、アナ・マライヤのためなら なんでも してやろうと思うのですが、それは、アナ・マライアが、いつも、だれのためにでも、どんなことでもしてやろうとするような子どもだったからです。
 
  その思いが、アナ・マライアの笑顔にあらわれて、それで、しまいにはいつも、アナ・マライアの思いのようになるのでした。

 そのときのオルガン弾きも、その日、珍しくアナ・マライヤが持っていた1ペニーを受け取りもせずに、続けて3曲も 弾いてやったのでした。

 

 メリン横丁にも クリスマスが近づいてきました。遊び仲間のだれかれのところでも、食べ物のいっぱい詰まった箱が届くはずだったり、親戚の人に おとぎ芝居をみに連れてってもらうことになっていたり、おばあさんのところでの食事会に行くつもりの子供たちも 居ました。

 そして、アナ・マライヤとウィリアム姉弟には・・ その年のクリスマスも、結局 なにももらえないということが はっきりしてきました。

 それでも、アナ・マライヤは おとぎ芝居に連れて行ってもらって、どんなにそれがすばらしかったかを話してくれる友達がいるのは、素敵なことだな、と おもうのでした。

 そうして、クリスマスが過ぎ、新しい年も明けて、ちょうど 一週間目のこと。

 いつもは にぎやかなメリン横丁の角の広場には、どうしたわけか、そのとき、アナ・マライヤだけしかいませんでした。 

 そんなことは 実に珍しいことでしたが、アナ・マライヤは ひとりで、石畳に描いた丸をなぞりながら、しゃがんで下を向いていました。

 ふと、どこからか ちりんちりんという かわいらしい音が聞こえ、それは だんだんに 自分のほうに近づいてくるようでしたので、アナ・マライヤは 顔を上げて、音のするほうを見てみました。

 ちょうど そのとき、一人の奥様が 小さなきらきら光るクリスマス・ツリーを手にもって、横丁の角の前を通っていくところでした。

 アナ・マライヤは、奥様の持っている クリスマス・ツリーが 日にきらめきながら、ちりんちりんと 愛らしい音を立てているのを見て、おもわず「うわぁ・・!」と いいました。

 すると、その声を聞きつけた奥様は ぴたっと足を止めて声のしたほうを向くと、まっすぐに アナ・マライヤのほうに向かって 歩いてきました。

 奥様は、しゃがんだままで びっくりしたような顔で クリスマス・ツリーを見つめている アナ・マライヤの前に来ると、もっと びっくりするようなことを 言いました。

 「あなた、これを あなたに あげましょうか?」

 アナ・マライヤは 奥様が何を言っているのかわからない というような顔で、奥様を見返しました。
 奥様は 笑って言いました。

 「これはね、今日 一番初めに このツリーをみて、”うわぁ・・”といった子に あげようと思ってたんですよ。そして そういったのは あなただったのよ。だから これは あなたにあげましょうね。」

 アナ・マライヤは ゆっくり立ち上がると 奥様の差し出した 小さな小さな きれいなクリスマス・ツリーを ごく当たり前に受け取っていました。

 お礼を言うべきなことは よくわかっていましたが、アナ・マライヤは あまりにうれしくて ただ にこにこと笑うばかりで、何もいえずに 奥様とツリーを見やっていました。

 でも 奥様には、十分、アナ・マライヤの気持ちが伝わりました。
アナ・マライヤの笑顔は、言葉などよりも ずっとずっとはっきりと、ありがとう、と うれしい を伝えていたのです。

 笑顔になった奥様が行ってしまったあと、つぎには ウィリアムが やってきました。

 「姉ちゃん、それ、なんだ?」 ウィリアムは わかりきっていることを、アナ・マライヤの周りを ぴょんぴょん飛び回りながら聞きました。

 「クリスマス・ツリーだよ、ぼうや。」 アナ・マライヤは 顔一杯の笑顔でいいました。

 おおい! アナ・マライヤが クリスマス・ツリーを 奥様からもらったぞう。

 その声に、あちこちの家から いつもの子供たちが わぁっとでてきました。
そして、アナ・マライヤを囲んで、口々にいいました。

 「きれいだなー。」「きらきらしてる。」「なんだろう?」「ガラスだよ、ガラスの飾りがついているんだよ。」「ほら ベルもある、あ 音がするよ、ちりんちりんって。」

 そして 一人の子供が言いました。

 「アナ・マライヤ、これ どうするんだい?」
「そうだね、うん、パーティーをするよ。今日は ベッドの脇に飾っておいて、明日、お茶のときに パーティーをしよう。」

 「それ、俺も行っていいか?」 ああ、いいよ
「俺は?」「あたいは?」 ああ、いいよ、皆で パーティーしよう、みんな おいでよ。

 その晩、クリスマス・ツリーは アナ・マライヤの粗末なベッドの脇においてある、小さなテーブルの上におかれました。

 ウィリアムは アナ・マライヤに聞きました。
「ねえちゃん。このきれいな飾り、どうするんだ?僕は、このサンタクロースがほしいな。」
「ああ、ぼうや、いいとも。サンタクロースをあげるよ。でも、それは 明日だよ、皆が ちゃんと よく見てからだからね。」

 ウィリアムが眠ってしまって 明かりが消えても、アナ・マライヤは クリスマス・ツリーをそっと 指で触れていました。

 小さなもみの木には、ガラスでできたいろいろな飾りがついていました。
金と赤のサンタクロースや光る星、花や雪模様のものや、今にも飛び立ちそうな黄色や青のかわいらしい小鳥たちも ついていました。

 でも アナ・マライヤが そのなかでも一番気に入っていたのは、緑のガラスでできたくじゃくでした。
 それは、透き通っていて、絹糸のように細いガラスが 繊細なきれいな羽尾や頭飾りをかたどって、アナ・マライヤが 見ほれるに十分 美しかったのでした。

 明かりの消えた 暗い部屋に漂うもみの木の香りのする中で、アナ・マライヤは 眠ることを忘れたように、そのガラスのくじゃくを いつまでも触り続けていました。

 明日になれば、もみの木には なにもなくなってしまうことを、アナ・マライヤは よく知っていたからです。

 翌日のお茶の時間に、子供たちは いそいそと アナ・マライヤの家にやってきました。テーブルの真ん中に きれいなもみの木がおかれ、皆は 口々に それぞれの飾りについて、あれがいい、これがほしい と いいましたが、だれひとり、ガラスのくじゃくのことは 言いませんでした。

 なんとなく、皆 アナ・マライヤがそのくじゃくをほしがっているというのが わかったからです。

 それで、その飾りを分ける段になって、それぞれに それぞれがほしいものがいきわたるように、気を配りながら 飾りを手渡していたとき、ちいさなリリーが
「あたい、緑のくじゃ・・」 と 言い出したとたん、リリーの兄ちゃんは 急いで妹の口をふさいで 言ったのでした。

 「ほら、アナ・マライヤ、リリーは バラの花がほしいってよ。リリー、見ろよ、このバラの花の芯は ダイアモンドだぞ。」
  そういって、ガラスのくじゃくを もみの木に残したのでした。

 パーティーが終わって、皆が帰ったあと、ウィリアムは 望みどおり手にしたサンタクロースをもって うれしそうでしたし、アナ・マライヤも 無事に緑のがらすのくじゃくが 自分のところに残ったのを うれしく思っていました。

 すっかり 飾りのなくなったもみの木からは、あいかわらず よい香りがしていました。

 その晩、アナ・マライヤが ベッドに入ろうとして ふと ウィリアムをみると、ウィリアムがくすんくすんと 泣いていました。

 「どうしたんだい?ぼうや。」
「ぼく、サンタクロースを こわしちゃった。」
「え?! まさか・・」
「うん、ぼくのサンタクロースを持って寝ていたら、割れちゃったんだ。」

 そうして ウィリアムは、なんともかわいそうなほどに 泣くのでした。
「泣くんじゃないよ、ぼうや。」
「ねえちゃん、あの ガラスのくじゃく、ぼくに おくれよ。」
「 ああ、いいよ、ぼうや、お前にやるよ。だから もう 泣くんじゃないよ。」

 アナ・マライヤは そういって ウィリアムに ガラスのくじゃくを持たせました。
ウィリアムは、涙で濡れた頬のまま とてもうれしそうに微笑んで、ガラスのくじゃくをしっかりと抱いて、眠ってしまいました。

 そうやって しばらくたったころ、アナ・マライヤは 暗闇の中で、かちゃり という 音を聞きました。

 ガラスのくじゃくが ウィリアムのベッドから落ちて、割れた音でした。

 

 一晩中、もみの木のツンツンする香りが漂い、時折落ちるもみの葉のかすかな音が 聞こえていました。

 それぞれの子供たちに渡ったガラスの飾りは、どのくらい 持ったでしょう。
一日か二日、あるいは 一週間、あるいは ひと月、または もっと 長いこと、何年と持ったものもあったかもしれません。

 

 

 このお話は、ご存知でしょうか?

 クリスマスには このお話を、と すこし前から 思っていました。

 遠藤の好きな ファージョンの童話のひとつです。
原作よりも かなり 短くはしょってありますし、記憶している部分も たぶん、すこしでしょう。
それでも、一番 印象に残ったところだけが書ければいい、と おもいました。

 この国では、クリスマスは12月24日がメインで、25日は なんとなく、残りのクリスマス・・みたいな感じですが、キリスト教国とされる諸外国では、クリスマスは 年が明けたあとの公現祭までの一週間も祝われますし、それまでは クリスマスツリーも片付けません。

 アナ・マライヤは クリスマスツリーが処分される最後の日に、それを手に入れたわけです。
 ここは 考えたいところです。

 アナ・マライヤの笑顔、その笑顔が人の心を動かしてしまう・・
 それは、アナ・マライヤが いつもだれのためにも どんなこともしてやろうという気持ちがあったからです、と ファージョンは書いていますね。

 そうなのですよね、表情というのは、心のありようを的確に見せるもののようですね。
「思い」は 目に見える形となって、相手に伝わっていくもの、なのでしょう。

(昨今の、我欲の塊になってメディアをにぎわせ続ける面々などは、ふと 見てしまったとしても それを悔やむほど、嫌な顔ばかりです・・・)

 そういえば、この話の、何が いつも自分の心に引っかかるのか、というのに、これを書いているとき、ようやく思い当たりました。
 
当サイトで紹介している 幸せになる義務 の本の中の、損をするほうを という箇所に通ずるのだな・・と思い至ったのです。

 このお話の終わりは、どうして とおもうほど そっけないものなのですが、かえって それが アナ・マライヤの心や人柄、そして そのときの思いを強く伝えているように思えます。 是非 ご一読をお勧めいたします。

 

 にぎやかに たのしく、どういうわけか、恋人たち用の、時々家族用の日になってしまった この国の商業一辺倒のクリスマス。
 そのもともとの「思い」は、とても シンプルなもの、ただただ「人のために」なのだ、ということが、ふと クリスマスってなんだ?と 思った人の心に、こんなお話からでも、なにか感じ入るなんてこと、ないだろうか。。なんて おもったりもしていますが・・

 あなたは、どう おもいますか?

 

 

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