6月のお話  金 の 指輪


 あるところに ひとりの男がいました。

 男には 女房がいて 二人とも 長年畑を耕し、牛を育てて まじめに暮らしてきました。ふたりは ずいぶんと 働いているつもりでしたが なかなか お金も貯まらず、くらしはちっとも豊かになりませんでした。

 毎日 一日の仕事が終わる日暮れ時に 男は 家の門の所に座って、前を通る人を眺めながら、その日一日の 仕事を思い返しては どうしたら もっと お金が稼げるようになるかと おもいをめぐらすのでした。

 あるとき いつものように 男が 夕方 門のところでじっと座り込んで 行く先を考えていると、一人の老人が通りかかりました。

  老人は 男を見ると「なにをそんなに深く考え込んでいるんだね?」とたずねました。男は 顔をあげ、見慣れぬ老人を眺めて さもなさけなさそうに 答えました。

  「おれは ずいぶんとまじめに 長い事働いてきたんだ。それなのに 暮らしはちっとも 楽にならない。一体なにをどうすれば よくなるものかと、毎日 仕事が終わると こうして 考えているんだよ。」

 すると 老人は にっこり笑っていいました。

 「なんだい。そんなことなら それほど深く考え込むほどのことでもあるまい。」といいました。

 老人は おどろいている男をみて
 「それ、この道。この道を3日の間 ずっと まっすぐに歩き続けると、道の真ん中に おおきな木のあるところにたどり着く。そしたら 斧で その木を切り倒すんだ。そうすれば きっと お前さんの望みがかなうようになるだろう。」 と 言いました。

 男は 老人の去るのを見届けるまもなく 女房に 訳を話すこともせず、いきなり立ち上がると 斧をかついで、一散に 道を歩き始めました。

 夜も昼も歩き続けて 3日目。確かに 道の真ん中に 大きな木のあるところに行き着きました。男は 必至になって 木を切り倒そうと 一生懸命 もってきた斧を 振るいました。

 しばらくして 木は 大きな音を立てて 切り倒され、その拍子に 木の上から 男の足元に二つの卵が 落ちてきました。卵は ぱかんと割れ、その一つからは鳥が出てきました。

  鳥は 見る見る大きな鷹となって 男の頭の上を飛びながら 言いました。
「おまえは 俺を助けてくれた。礼をしよう。もう一つの卵の中の金の指輪を おまえにやろう。この指輪は おまえのねがいをきっと かなえてくれるだろう。だが それは一生に一つだけだ。よく考えて 一番 良い願いをするがいい。」

 男は いさんで指輪を持って 家を目指しました。

 途中 宿を取って夜を過ごしましたが、そのとき 宿の主人が 男が身なりに似つかわしくない 立派な指輪を持っているのを見て、一体それはどうしたのだ と 訊ねたので、男は これまでのことを 主人に話しました。すると 勿論 宿屋の主人は その指輪が欲しくてたまらなくなりました。そして 男が寝入ったそのすきに 男の金の指輪とそっくりの指輪を交換し、そ知らぬ顔をして 男を送り出しました。

 それから 宿屋の主人は 部屋に入ると 大声で「金貨 百万枚!」と 叫びました。
 すると いきなり 上から金貨の雨が降り始め、主人が何かを叫んでいる声さえも かき消すほどの音と大変な重みとで とうとう 宿屋は ゆかが抜け、ぺしゃんこにつぶれてしまいました。

 音を聞きつけ、また 突然崩れた宿屋を見に たくさんの人が集まりましたが、みな 大変な数の金貨を見て 我先に 金貨を集め始め 大変な騒ぎになりました。
 そして、その騒ぎの治まった頃、ひとびとは 抜けた床下から 宿屋の主人が死んでいるのをみつけました。

 一方 あの男は家に帰ると 女房にこれまでのわけを話し、いったい なにを願ったものかと 一晩中思案しました。

  女房が「それなら 裏の畑をもう少し広げられるように願ったら?」と いいました。すると男は「何をいっているんだ。そんなことなら もう少し働けば すぐ 自分のものになるさ。」といい その言葉どおり せっせと働いたところ 一年後には 狭くて小さかった裏の畑を すっかり大きく広いものにしてしまいました。

 「そら、よかったじゃないか。一生に一つだけなんだ。どうにもならないが どうしてもなんとかしてほしいことを 頼めばいいんだ。」と 男は言いました。

  そして また 女房の言う「もう少し 牛が増えるように願ってよ。」という言葉も、男は たしなめ、また せっせと 一年働いて やせた数頭の牛を つやつやした毛並みの 太ったたくさんの牛にしてしまいました。

 そんなふうにして 二人はせっせと働いたので、いつのまにか 村で一番の金持ちになってしまいました。しかし 男は 相変わらず 毎日夕方になると、門の前に腰掛けては、指にはめた金の指輪を 大事そうにまわしながら 道行く人を眺め、人々は 今では 村一番の金持ちになったその男に 丁寧に挨拶していくのでした。

 そうして ある日、男は死にました。
残ったものたちは 男の葬式をするときに あの金の指輪をどうするか 話し合いました。でも 男の女房は 少し前に死に、いまでは 指輪のわけを知っている者も ありません。

 「毎日 夕暮れになると 門の前に座って この指輪を回していたんだ。きっと 女房との間での いい思い出があるんだよ。一緒に入れてやろう。」

 人々は そういって 棺の中の男の指に あの金の指輪をはめてやったということです。


 

 

 このおはなしには 教訓 というのがついていまして、「どんな高価なものでも 持つ者によっては くだらないものになり、どんなつまらないものでも 持つ者によっては 大変な価値をもつものになる。」というものでした。   

 確かに!物というものは それをもっている人間によって その価値が変わるように思いますね。
 たまに、”あぁあ、あんな人が持っているんじゃ あれほどの価値のあるものも 宝の持ち腐れだなー”と 思ったり、反対に”へぇ〜、あんなものでも あの人が持つと なんだか すごくいいものに見えるんだな”と 思うことがあります。

 しかし 私は この話を思い出すと 何時も 思うことがあります。
自分で は あまり興味がない というのもありますが、私は 本当に 高価な物というものを持っていなくて、ですから 慾をかいて 人様のものに手が出る という事も おかげさまで 今までのところせずに済んできているのですが、しかし こういうのもなんですが、なんとなく 夢が叶うのが 一生に一度 というのは けち臭いんじゃないか と 思ってしまうのです。

 おそらく 自分だったら 一生に一度かー・・、じゃ いいや、に なってしまうと思うんです。
 だって それこそ そのうちそのうちになるでしょうから、結局持っているだけになると思うんですね。
 それよりは ちょっと 計算して あの宿屋の主人のように 重みに負けない程度のお金を そく たのみたいものだ と 思います。

 あー どっちにしても慾深いか・・・。ま そんなもの 持たないに越したことはありませんね。

 それにしても「どうにもならないが どうしてもなんとかしてほしいこと」って 思ったほど おこらないものなのでしょうか・・・? 

 そうですね・・、そうかもしれません。私なども なんども ああ これは もうだめかな・・と 思うことはあっても、こうやって ここまで 生きてきてしまっていますものね・・。

 結構 人なんて それなり、生きていけるように なっているのかもしれません。 

 どうおもいますか?あなたは・・・。

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