2003年 1月のお話   さえちゃんと時の道


 さえちゃんのおうちに 赤ちゃんが来て さえちゃんは おねえさんになりました。

 赤ちゃんは まだ 小さくて よくなきます。そうすると すぐにだれかがとんできて 赤ちゃんがなきやむまで いろいろに相手をします。まだ ひとりでなんにもできないから みんなが 赤ちゃんのお世話をします。皆が赤ちゃんをかまっているとき さえちゃんは じっとその様子を見ています。

 きょう さえちゃんは 朝から よいごきげんでした。ちゃんとおきて 一人で着替えもして 朝ごはんもきちんと頂いて、さぁ おうちの事を始めましょう というおかあさまについて ちょっとしたお手伝いをしようと思っていたのに 赤ちゃんが泣き出したので、おかあさまは さっと そちらへいらっしゃいました。

 がまんしなくちゃいけないのは さえちゃんだって 分かります。でも ちっとも おもしろくありません。
 赤ちゃんなんか いなくなっちゃえばいい、さえちゃんは そうおもって だれもいなくなったおへやのしろいかべに クレヨンで えをかきはじめました。
 そんなことをしてはいけないのは よくしっています。でも ひとりでいるなんて つまらないです。
たちまち かべは さえちゃんのおえかきで いっぱいになりました。

 そこへ おかあさまがいらして かべのえをごらんになって おっしゃいました。

「あら、さえちゃん ひとりであそんで えらいわね。じょうずにかいたのねぇ、これは さえちゃんかいたのね?」

 さえちゃんは ぷいっとふくれて いいました。

「ちがう わたしじゃない。赤ちゃんがかいたの。」
「さえちゃん しょうじきにおっしゃい、さえちゃんがかいたんでしょう?」
「ちがう あかちゃんがかいたの。」 

 なんどきかれても さえちゃんは そうこたえます。おかあさまは「さえちゃん、正直におっしゃい。」と おっしゃいましたが それでも さえちゃんは ないて あしをばたばたさせながら わたしじゃない あかちゃんがかいた と なんどもくりかえしました。

 「そんなことをいう子は うちのこじゃありません。」
おかあさまは そういうと むこうへいってしまわれました。 さえちゃんは まだ なきながら わたしじゃない あかちゃんがかいた と なんども いっていました。

 しばらくしても だれも じぶんのところへやってこないことがわかると さえちゃんは そうだ と おもいついて 押入れから 枕をひっぱりだしました。洗濯したばかりの まっしろなカバーのついた さえちゃんお気に入りの 赤い枕です。

 おとなりの君子ちゃんと 遊ぶ時は いつも 自分の枕を持ってきて 赤ちゃんやおざぶとんのかわりにしたりしていたので、いまも そうやって 君子ちゃんと遊ぼうと思ったのです。

  君子ちゃんは すぐに自分の枕をもって 遊びに来ました。 さっそく 二人は 枕を使って 楽しく遊びはじめました。 でも そのうち ふたりとも ちょっと疲れたので、お気に入りの枕をなかよくならべて お昼寝をすることにしました。
 二人の女の子の かわいいまえがみをゆらして 風が やさしく 通り過ぎていきました。

 ふと さえちゃんは 目をさましました。 あたりは すっかり暗くなっています。ずいぶん眠ってしまったのでしょう。君子ちゃんも おうちにかえったようです。

 あたりをみまわすと さえちゃんは 見たことのないところに たっているようでした。なんにもありません。 暗くて ちょっと 寒いようなきもします。さえちゃんは 赤いまくらをかかえて これからどうしたらいいのか 考えて なきそうになりました。

 そうだ おうちにかえらなくちゃ、おかあさまが しんぱいなさる。
そうおもったさえちゃんは ゆうきをふりしぼって 一歩まえに足をふみ出しました。

 すると りょうがわに きれいな花がさいて 風にゆれている 一本の道が あらわれました。
  さえちゃんは ちょっと あんしんして 前に歩き始めました。花は 赤や白やきいろやピンクのものが いろとりどりに さいていました。きれいな花をながめながら さえちゃんは げんきよく 歩いていきます。

 でも、どのくらい歩いたのでしょう、足がつかれていたくなってきた さえちゃんは いくら歩いても おうちにつかないこともあって たちどまって もっていたまくらを ぎゅっと抱きしめました。
 さえちゃんの目から おおきななみだがぽろぽろこぼれて、まくらに しみこんでいきます。 どうしよう・・ どうしたら おうちに帰れるんだろう。

 そのとき さえちゃんのみみに チックタックチックタックという 時計の音が聞こえてきました。
 さえちゃんは くるっと ふりかえってみました。 

 すると そこには くろと金色のだんだらもようの布をからだにまいた おひげをはやしたおじさんが つるはしをふるって きそくただしく さえちゃんのあしもとのみちを くずしていました。

 おじさんが いきをするたびに きこえていたのが あの チックタック という音でした。

 「おじちゃん、なにしているの?」

さえちゃんは聞きました。

「みちをくずしているんだよ。」 と おじさんはこたえました。

「でも おじちゃん、そのみち くずしちゃったら わたし おうちにかえれないわ。」

 おじさんは すこしも てをやすめずに いいました。

「おまえは どこへいくんだい?」
「わたしは おうちにかえるのよ。だから このみちをくずしちゃったら わたし さっきまでいたところへもどれなくなっちゃうわ。」 

 さえちゃんは 目になみだがたまってくるのがわかりました。  
おじさんは いいました。
 
「なあに しんぱいないさ。おうちは みちのむこうにある。そのまま歩いていけばいいんだよ。」
「でも おじちゃん わたしは あっちから歩いてきたの、おうちは あっちにあるのよ。」

 すると おじさんは いいました。

「それはちがうよ。おまえのみちは この道だけだ。おまえは うまれたときも この道を通って おかあさんのところへいったのさ。だから ずっと この道を行けば かならず お母さんの所につくんだよ。」
「でも わたし このみち はじめてよ。通ったことなんかないわ。」

「わすれてしまったのさ。あかんぼうのときは だれでも かみさまからのみちをとおって じぶんのおかあさんのところへ いくんだよ。おまえのいもうとも そうだったのさ。みんな じぶんの道をとおって また かみさまのところへかえっていくんだよ。」

 うちの赤ちゃんもそうだったの・・? 
さえちゃんは ちいさいじぶんのいもうとが いっしょうけんめいはいはいして おかあさまのいる さえちゃんのおうちに やってきたのかと思うと なんだか とっても 可愛くて 今すぐ あかちゃんに あいたくなりました。
 はやく おうちにかえろう。

 さえちゃんは どうしようかとおもいましたが、でも もどろうにもみちは くずされて ありません。
 しかたなく さえちゃんは ときどき ふりかえっては、時のおじさんとはなしをしたりして まえにあるいていきました。いまは もう あしも それほどいたくありません。

 「おじちゃん おはながきれいねぇ。だれがうえたのかしら?」
「ああ それは みんな おまえのまいた種からさいた花だよ。」
「わたしは お花の種をまいたことは いちどもないわ。」
「たのしいことやうれしいこと やさしいおこないなどは ぜんぶ こうやって きれいにはなをさかせるんだ。」

 また どんどんあるいていくと むこうのほうに あかるいところがみえてきました。それは よくみると さえちゃんのおうちのげんかんでした。
さえちゃんは とてもうれしくなって おじさんにいいました。

「おうちよ おじちゃん!わたしのおうちがあるわ、帰ってきたんだわ!
 よかった・・。」

 でも そのときとつぜん まっくろな花が みちばたからせりだして さえちゃんの行く手をさえぎりました。さえちゃんは 手でその花を はらいのけようとしましたが くろい花はどんどんおおきくさいて すっかり おうちとの間に たちふさがってしまいました。さえちゃんは いっしょうけんめい よけようとしますが できません。
 こまったさえちゃんは ふりかえって おじさんにいいました。

 「おじちゃん まえにすすめないわ。このくろい花がじゃまするの。わたし こんな花 きらい。」

 すると おじさんはいいました。

「どんな花だって おまえがまいた種から さいたんだよ。それもそうさ。」
「でも わたし こんなきたない花なんか いらないわ。」
「そういうわけにはいかないよ。その花は おまえが よくないこころのときに まいた種から うまれた花なんだよ。」

 さえちゃんは あ っとおもいだしました。赤ちゃんなんかいいなくなっちゃえばいい そう思ったことを思い出したのです。たちまち さえちゃんの目から おおつぶのなみだが ぽろぽろと こぼれおちてきました。あんなこといわなければよかった そうすれば おうちにかえって お母さまにごめんなさいをいえたのに。

 なみだは どんどん あふれてきて もう くろい花もみえません。だから さえちゃんの涙で くろい花が きれいなピンク色の花になったことも さえちゃんは きがつきませんでした。

 さえちゃん さえちゃん と よぶおかあさまのこえで さえちゃんは 目をさましました。
 きがつくと おかあさまが しんぱいそうに さえちゃんの顔をのぞきこんでいます。

「わたし おうちにかえってきたの?」
「そうよ。さえちゃん、もうすこし しずかにねんねしましょうね。」

 おかあさまは さえちゃんの あせでぬれたおでこを やさしくふきながら おっしゃいました。

 よかった・・ おうちにかえれたんだ。さえちゃんは おかあさまのエプロンにしがみついて ためいきをつくと にっこりして ちょうど なきだしたあかちゃんのことろに お母さまと いっしょに あいにきました。 

 

 

 
  このおはなしは ご存知でしたか?

 これも 去年 幾つかのお話を させていただいた 佐々木たづさんの「白い帽子の丘」に はいっているおはなしのひとつです。が だいぶ 脚色してあるとおもいます。

 このお話に関しましては じつは 何度読んでも 曖昧なところがあって、どうにも おぼえきれない・・というか、納得しきれていないようなところがあるんですね。

 なにが と いわれても 何とも答えようがないのですが・・ 
はじめてよんだ小学生の時から 分かっていないことが ずっと いまだに 分からずじまい とでもいいましょうか・・ そんな感じなんです 

 全体的には 分かりやすいのだとは思います。でも 時の番人のようなおじさんの言っている事が 今ひとつ 理解しかねるんですね、だから もしかしたら そこは いちばん いいかげんになっているかもしれないです。すみません。
 勿論 探し出して なんとか もう一度読みますので あまりに間違っていたら 訂正いたします。

 人は 生まれてしまったら まえにすすむしかない もう 二度と過ぎた時を取り戻すことは出来ないのだ、と言っているような 気もします。 →すごーい勝手な解釈・・

 弟妹のある方なら 一度ならずとも経験するあの疎外感。それまで自分にされていた すべてのちやほやが 全部 新しい子のところに行ってしまい、おまけに 同じようにするようにと 要求されるに至っては いなくなっちゃえ と 思ったところで そりゃあ 仕方のないこととも思います。

 それは いけないことではない、と、でも そのとき そういってやれなかった 親である自分もあったのですね。
  身近な間柄であるからこそ なおのこと たびたび経験する そうした思いは、ちょっと 大げさに言えば いつの時代 どんな家庭でも必ず起こる 永遠のジレンマのようなものと いえなくもないとは 思います・・・(良い親でありたいと思っているのにね) 

あなたは どう おもわれますか? 

 

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