あるところに ガラスの少女がいました。
少女の体は すべて ガラスで出来ていました。顔も 体も 手も足も 髪や目や口さえも ガラスで出来ていました。ですから 体は とても 透き通っていて 向こう側が見えていました。
そして 少女の胸には たった一つ, その心臓だけが トクントクンと いつも 同じ動きをしているのが見えていました。
心臓は ハートの形をしていました。
少女の住んでいるところには ほかには 誰もいません。 少女は いつも
一人でした。
もう いつから ここにいるのでしょう・・?
少女は 言葉を知りませんでしたが 踊ることが大好きで、風が吹いたり 木がざわめいたり 雨が降ったり お日様がキラキラ光るような 良いお天気の日などは 花の中で 小鳥達と一緒に よく 踊っていました。 そういうときの 少女の心臓は とってもきれいなピンク色をしていました。
でも このところ 少女の心臓は ずっと つめたいブルーの色をしていました。
すこし前に いつも遊んでいる湖のほとりで ふと 少女は 水の中に 女の子を見たのです。その日は とっても穏やかな日で おまけに 大変寒い日だったので 水は 凍って 鏡のようになっていたのです。
そして そこに 少女は 自分と知らずに 自分と同じ姿の女の子を見たので、びっくりしたのですが、でも とても 興味を引かれて 近づき 手を振ったり 笑ってみたりして 合図を送りました。
すると 向こうの女の子も 同じ事をして 少女に答えたのです。
少女は すっかり嬉しくなって 心臓が 濃いピンクになったほどでした。二人は 冬の間中 毎日 湖で 楽しく 過ごしました。
向こうの女の子も 踊ることが上手でしたし わらうととても 可愛らしかったのです。
でも あるとき 氷は溶け始め 向こうの女の子とは それから ずっと あえなくなってしまっていました。それで 少女は このところ ずっと さびしくて シャラシャラと音のするような ガラスの涙を たびたび流していました。 ですから 少女の心臓は それ以来 つめたいブルーの色をしていたのです。
ある日 少女は ふと 思いつきました。 「そうだ、さがしにいこう! 探しにいけばいいんだ」
そして 生まれて初めて その森を抜け、険しい山道をたくさん歩いて ずいぶん 遠くまで やってきました。あんまり長い事歩いたので 少女は疲れて 道端に倒れて 寝込んでしまいました。
しばらくして 少女は 耳元に何かを聞きます。なんだろうと思って 目を開けると そこには 真っ黒なものと 木のようなものの 人の形をしたものがいて 少女を見下ろしていました。
少女は 大変 驚いて いったいこれはなんだろう?と 思いましたが、真っ黒な人の形をしたものは にっこり笑うと 少女にいいました。「きみ どこからきたの?」 そして もう一人の 木で出来た人の形をした物も にこにこして いいました。「僕達とは ちがう体をしているね?きみは だれ?」
二人は 鉄の少年と 木の少年でした。鉄の少年は とっても固くて 真っ黒でしたし、木の少年は 全身にきれいな木目模様がありました。少年達は 透き通ったガラスの少女が 珍しいのと とても きれいだな とおもったので 少女の力になろう と 言ってくれました。
はじめは びっくりして 真っ青になった少女の心臓は だんだん きれいなピンク色になっていきました。二人の少年は それをみて たいそう 驚きましたが、少女が 言葉を話す代わりになると思い 喜んで その変化を見つめていました。
少女は それから 少年達と一緒に暮らしはじめました。
三人は 仲良く それぞれを大事にして 楽しく暮らしました。
鉄の少年は 力持ちで たいていのことは 彼に頼めば 面倒なことは片付きましたし、木の少年は とても器用で なんでも 作り出すことが出来ました。二人は 少女のために出来ることは 何でもしましたが 少女は 特に 二人のためになにが出来るということがなかったので すこし 心苦しく思っていましたが、二人が ひと働きして休憩するときは いつも 上手に踊っては 二人を慰め 楽しませることが出来ました。
二人の少年達も ガラスの少女が 光を受けて きらめきながら 風の化身のように 踊るのを見るのが大好きでした。
でも そんな楽しい日々も つかの間、あるとき いつものように 少女が踊っているのを 二人の少年達が 楽しそうに眺めているとき、突然 強い風が吹いてきて 細かい石が 痛いほど 三人に打ち付けたのです。
三人は 急いで 物陰に隠れて 風の通り過ぎるのを待ちました。
やっと 風がやんで 少年達は 一体何事だったのだろうと 話し合いましたが、ふと 気がつくと ガラスの少女の姿がありません。
少年達は びっくりして あちこち 大声で少女を呼びながら 長い事探し回りました。
しかし 少女の姿は どこにもありませんでした。
夜になって 二人の少年達は 少女と隠れたところに戻ってきましたが やはり 少女はいません。
でも よく見ると 小さなきれいなガラスの粒が あちこちに 散らばっているではありませんか・・。
少年達は 一生懸命 それを拾い集めましたが、確かに それは あの ガラスの少女のかけらでした。二人は なきながら 少女を失った哀しみを 嘆きました。
そのとき 鉄の少年が ふと 暗い空を見上げると 高い空に キラキラときらめく 星の川が 透き通った音を立てて 流れているのに気がつきました。
二人は それを見ながら ガラスの少女の体が あの星の川になったのだと 知りました。なぜって ちょうど 川のまんなかのあたりに きれいな ピンク色の星が ちかちかと 瞬いているのを見たからです。
ガラスの少女は あの時 風に飛ばされ 岩に打ち付けられて 粉々になってしまったのですが、少女の哀しみと喜びを知る天の神様が 少女を哀れに思われて その体をすっかり 天にお連れになり、心優しい少年達が 少女を失ったことを いつまでも悲しまないように そして いつでも少女を見ることが出来るよう 星の川 として 天に住まわせてくださったのでした。
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