10月のお話  羽衣
 
 昔 あるところに 若い男が ひとりでくらしておりました。
男は 別に見た目が悪いわけでもないし、働きが悪いわけでもないのに なぜか もうそろそろ良いだろう とおもうころになっても 嫁の来てがありませんでした。
 それでも 男は なにを気にするでもなく、まいにち 朝から晩まで ほかの男たちと同じように働き、ひとりでも 結構 楽しく暮らしておりました。

 ある朝 男は いつもよりも早く目がさめたので、別にどこにいても同じだから と 仕事をしに 浜辺へ出かけていきました。

 良い天気です。いつもの浜は 朝 誰もいないときなどは 静かで 波も穏やかで 朝日がきらきらと水面に輝いて 白い砂と緑の松の木が とても美しいところでした。

 そんなに美しいところですから・・、やっぱり 天から見ていても 綺麗なところに見えたのでしょう。その日は 誰もいないこの美しい浜に ちょっとだけでも 降りて水遊びをしよう と 天から舞い降りてきた天女たちが 数人 浜に近いところで 泳いでいました。

 男がそれと気づかずに 近づきますと、天女たちは 人の気配に慌てて身支度を整える、急いで 朝風に乗って 天に帰っていきました。
 最後の天女のきらめく衣の裾が 雲に隠れるところを 男は 目の当たりにし、腰を抜かさんばかりに驚いていたのですが、何やら 浜に近い岸辺にも 日の光を浴びて きらきらしているものが見え隠れしているようだったので、そっと近づいてみました。

 なんと・・まぁ 綺麗なものなのでしょう!
いままで こんなに綺麗なものは みたことがありません、おまけに とても 軽くて手にしていても その重さも感じません。顔に近づけてみると たとえようもなく 良い香りがしますし、色も淡くて涼やかです。
  男は どうしても それがほしくなり 小さくたたんで 懐にしまいこみました。

 ちょうど そのとき、木の陰から しくしくと 悲しげになく 女の声がしました。
 振り返ると そこには みたこともない美しさの若い娘が裸のまま、木の向こうに隠れて ないています。 
 風に飛ばされた羽衣を 探しているうちに ほかの天女たちに送れて、浜に取り残された 最後の天女が 見つからない衣を探して 泣いていたのです。

 「娘さん、どうしました?そんな格好じゃ かぜをひく。さぁ これを着て とにかく 私の家に行きましょう。」
男は 懐に入れたあのうす衣が 娘のものだとわかっていましたが、知らぬふりをしていいました。
 これほど美しい娘は 町に出ても 早々いませんし、いつぞやちらと眺めた お侍の家のお女中方にも 見当たることはなかったほどですから、男は 何とかして この娘も 自分のものにしたいと思ったのです。

 娘は しばらく考えていましたが、ほかに 方法もなさそうです。仕方なくうなづいて 男について行くことにしました。

 その時からの男のまいにちは すっかり変わり、本当に 楽しい日々になりました。娘は じぶんがなにものなのか 一言も言いませんでしたが、男は そんなことは気にもせず、娘の作る おいしい食事に舌鼓を打ち、いっしょに畑へ出かけたり 山へ遊びに行って 花を摘んでやったり たまに 町に出ては 娘を楽しませてやったりと 娘をとても大事にしていました。男にとっては 娘と一緒にいることのほかのことは どんなことも どうでもよいことで 面白くも何ともないことだったのです。
 ですから 男は 娘のために 今までよりも 一生懸命 精出して働きました。

 娘も 思いがけないことにはなってしまったと おもいつつも 男のやさしさや いっしょにいるときの楽しさ、何か自分のしたことに いちいち 大喜びしてくれる男を いつのまにか いとしいとさえ 思うようになっていました。

 それでも 何かの時に 娘が ふっと 顔を曇らせ、深いため息をついては 目に涙をうかげべるのを 男は見逃しはしませんでした。

 男には それが なぜなのか 良くわかっていましたし、娘の悲しそうな顔を見ると やはり いけないことをしているのだ と おもい 一瞬 あのうす衣を返してやろうか とも 思うのですが、それでも もう少し、もうちょっとだけいっしょにいたい と おもって、屋根裏に隠したあの羽衣のことは 黙っていました。

 楽しい日々は 何かをこらえては続かないものです。

 あるとき 家の掃除をしていた娘は 屋根裏に みたことのない箱があるのを見つけて 衣装ならば 虫干しを と思い、ふたを開けてみました。
 驚いたことに 中には ずっと もう一度手にしたい とねがっていた自分の羽衣が入っているではありませんか・・!!

 娘は それを持って  男の前に きちんと座って いいました。
「おまえさん、これは 天女の私の羽衣です。どうして 隠していたりしていたのです?
これが 見つかったからには 私は 天に帰らなくてはなりません。
 お前さんが とても私を大事にしてくれていたので 私は 本当に楽しかったし うれしかったけれど、羽衣を隠していたからには もう 一緒に入られません。

 そして つと立ち上がると ふわりと羽衣を身にまとい、開け放った窓から 天に向かって 飛び立っていきました。

 男は すぐに 手を伸ばして 羽衣を取り戻そうとしましたが、ほんのちょっとの差で 娘は もう 男の手の届かないところへ 言ってしまっていました。

 男 娘の名を呼びながら 天に向かって どんどん 小さくなる娘の姿を ただ じっと 見つめて 立ち尽くすばかりでした。

 


 良くご存知のお話でしょうとおもいます。ただ すこしずつ 違うところがあるかもしれませんね。 私も 同じ話で いくつか違うものを知っていますが、この話の展開のほうが なぜだか 記憶に深いのですね。

 いろんな流れがありますが 結局は 天女が男を置いて出て行く というのは どの話でも同じのようです。

 書きながら う〜ん これはいったい・・ と ちょっと 複雑な気分になってしまったのですが、ある話の展開では 天女は人とは暮らせない という理由で天にかえったり、男が 自分に隠し事をしていたことを怒って出て行ったり、子供までもうけていたのに 男の不誠実をなじって 天女の自覚を取り戻し(?) あっさり天に帰ったり(それも 子供を置いて!です) ・・と それぞれです。

 なんでかなぁ?だって それまでは 天女も男も それなりに楽しく暮らしていたし お互いのことを 気に入ってもいるんですよ、それが 羽衣ひとつで 天と地に分かれてしまう結果を選ぶとは・・・ よく わからないことをするもんです。。

 天女が虎視眈々と帰れる時期を狙って それまで 男を油断させていたとか?
あれこれ 考えれば それこそ いろんな理由?が 見つかるのでしょうけれど、ね。

 ま 綺麗な人って なんとなくそこいじがわるいのよね なんて、一般人には わかりにくい 心変わりの話なんだ なんて 毎度のごとく すねてみたりして。

 だいぶ前ですが、うちの娘の一人が このことについて「いいじゃん、男の方だって 散々いい思いしたんだし、美人は三日みるとあきるんでしょ? それを 三年もいっしょにいたんだもん。まぁよしっていうんじゃないの?」と 言っていたことがありますが、おそらく 当時は 男女間のかかわり方も かなりおおらかであったといいますし、だから どこからつれてきたのかわからないものと いつのまにか暮らしていた なんていうのは よくある話だったとか・・

 そんなことの ちょっときれいめの話なのかもしれないなー なんて 思ったりもしています。

 皆さんは どうおもいますか?

 

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