11月のお話  「お爺さんひょうたん」


  あるところに お爺さんが一人で住んでいました。
おじいさんですから もう ずいぶん年をとっていましたが、このおじいさんは 生まれてからこの方 ちっともよいことがないまま ずっと生きてきましたので、あるとき、これから先 死ぬまでの間に 一度でよいから いいことに恵まれたいものだ とおもい、七日七晩 観音堂にこもって 観音様に どうか福を授けてください と 一生懸命お祈りをしました。

 ところが 七日目が過ぎても なんにも起こりません。
お爺さんは しょんぼりして お堂を出て 家に帰ろうと 坂を下っていきました。
 がっかりしながら とぼとぼと歩いていると なにやら お爺さんの後ろからついてくる気配がします。お爺さんが振り返ると 小さなひょうたんが ころころと坂を下って お爺さんの方へ転がってきます。
  「はて・・?」おじいさんは ひょうたんを拾い上げ 不思議そうに眺めながら ひょうたんを振ってみました。すると・・!

 「お爺さん こんにちは!」「お爺さん こんにちは!」と言って ふたりの子供が出てきたのです。れはいったい・・?と 驚いているおじいさんに向かって ふたりの子供は言いました。
 「私達は 観音様から言い付かって お爺さんに福を授けにやってまいりました。私は金七、こちらは孫七といいます。」ふたりの子供は 可愛らしくにっこりしました。

 お爺さんは「やぁ・・!これはこれは・・。なんとありがたいことだ。そうですか、観音様のおいいつけで・・、やぁ、ありがたい、ありがたい!では ありがたく福をいただきましょうか。」といって、子供達の頭を うれしそうになでました。

 子供が「お爺さん、どうぞ ひとつお願い事をしてください。」といいますので、お爺さんは それでは と 「私は お酒が好きでしてね、いつかお酒を気のすむまで飲みたいと思っていたんですよ。」と いってみました。
 すると 金七が「ほい、孫七さん。」といって 孫七の差し出した両手の上で ひょうたんを振りますと 立派な杯が転がり出てきました。そして もう一度ひょうたんを傾けると 今度は その杯に良い香りのお酒がなみなみと注がれたではありませんか。お爺さんは 目を見張りながらも お礼を言って お酒をすすりましたが、そのおいしいこと おいしいこと。今までに こんなにおいしいお酒をのんだことはないくらいでした。

 お爺さんがうれしそうにお酒を飲んでいるのを見て 子供達はにっこりして また言いました。「もっと 何かいりませんか?」そこで お爺さんはお酒をのんで 赤くなったほっぺたを緩ませて それでは と 大好きなあんころもちを頼みました。
 すると 金七はまたひょうたんを振って 孫七の差し出した両手の上に 大皿を出し、続いて 作りたてのあんこがたっぷり絡まったあんころもちを 山盛りに出しました。

 お爺さんは おいしいお酒と大好きなあんころもちを おなかいっぱい食べて 満腹し、とても 良い気持ちになりましたので、ひょうたんを懐に入れ ふたりの子供の手を引いて 家に向かっていきました。

 途中 お爺さんは 何人かの村人達に会って 子供達のことを聞かれるたびに ことの次第を話して聞かせ、その場で お酒やご馳走を出してみんなに振舞ったので、お爺さんのことは 村中の人が知るところとなりました。

 翌日からは お爺さんは 村で お祝い事や法事があるたびに呼ばれては、みんなにたくさんのお酒やご馳走を振舞ったので、そのお礼に たくさんのお金をもらうことができるようになりました。
 そして だんだんに お爺さんは お金持ちになって 立派な家で綺麗な着物を着て、ふたりの子供と仲良く暮らせるようになりました。

 そんなある日、村に馬喰う(ばくろう)とよばれる 馬を扱って お金を儲ける仕事をする男がやってきて、お爺さんのひょうたんと 自分の馬を交換しないか と 話を持ちかけました。
 馬喰うの馬は七頭で そのどれもが 本当に綺麗で すばらしい馬でしたが、お爺さんは 観音様がせっかく授けてくださった福を 馬七頭と交換するなど 考えられなかったので せっかくだが・・ と 断ろうとしたのですが、そこへやってきてた金七、孫七のふたりが「お爺さん とっかえなさい」「とっかえなさい」というので、お爺さんは 名残惜しくおもいながら ひょうたんと七頭の馬を交換しました。

 馬喰うは ひょうたんを受け取ると 一目散にお城めがけて突っ走り、お殿様に これこれのひょうたんをお持ちしました、と お目通りを願い出たのです。
 お殿様も ひょうたんのうわさは聞いていましたので、面白がって すぐに男を 呼び寄せ、「米を出してみせぃ。」と 命令しました。
 馬喰うは 承知いたしました と 勇んでひょうたんを振ってみましたが・・・、はて・・?ひょうたんからは 何も 出てきません。
 あせった男は 汗を拭き拭き「米出ろ!米でろ!」といいながら なんどもひょうたんを振り続けましたが、ひょうたんからは 本当に 米粒ひとつ 砂粒ひとつも出てきません。とうとう お殿様は怒り出し、男を捕らえてお仕置きをし、お城の外に放り出してしまいました。

 一方 お爺さんは 綺麗ですばらしい七頭の馬を手に入れはしたものの、その手入れや世話をこれからするのは いかにも大変だと思い、また コレだけの馬を 畑仕事に使うのも もったいない気がして、考えに考えた挙句、お城のお殿様にさしあげようと思いつき、七頭の馬を引き連れて お城のお殿様に 七頭全部を差し上げたいと 申し上げました。
 お殿様は その馬のおおきくて見事なことに 大変驚き、とても 喜んでおおさめくださったのですが、おじいさんには コレまでにないほどの たくさんのご褒美をくださいました。

 お爺さんは たくさんのご褒美をいただいて これまでにも増して 裕福になり、元気で 長生きをして ふたりの子供達や村人達と 仲良く暮らしたということです。


  このお話は ごぞんじでしたか?
 読むたびに 思うのですが・・、うーん・・ せっかく何でもOKのドラえもんのポッケを手に入れたというのに、まずは お酒にあんころもちとは・・!

 でも おそらく 欲深いおじいさんじゃなかったから、自分のためだけに せっかく授かった福を独り占めしないで、みんなで 福を分かち合ったので 幸福になったんですよね。

 そうです、幸福は 独り占めしてはいけないものなんです。
いいことがあったら できるだけ人とわかちあいましょうね。

 それにつけてもおもいますのはですね・・、お爺さんは お爺さんと呼ばれる年まで何一つ良いことがなかった・・という くだり。
 なんだか それも さびしい話しだし、なんとも切ないとも思ったりしたのですが、このお話のできたようなころは きっと 奇跡的にでもなければ 出世や名誉や地位など ただ生きているだけじゃ 手に入れることなんかできないという時代だったんでしょうね。

 身分制度がはっきりしている時代でしょうから、上のランクに行くということは ごくごく稀なことだったでしょうし、そのために地道に働いて 多少の良い目を見るというのではなく、なにか 思いもよらないすごいことが起こって 自分の立場が一変するような そういういわゆる魔法っぽいというか それこそ棚ぼた式の幸運というのを 熱心に祈ったり よくあるのは 何か良いことをしたがために 見返りとして思いがけない幸運に見舞われるというお話が、そういうときだからこそ もてはやされたのではないでしょうかね。

 何の話につけても 最近 そんなことばかり思ってしまって なんとなく 素でたのしんでないなぁ と ・・・、私だけかな こんなこと考えるのは・・。

 あなたは いかがですか?

 

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