3月のお話   ガラスの心臓
  ある国の王様に 3人のお姫様がありました。
お姫様たちは それぞれ とても綺麗で可愛らしく、朗らかで 優しい方たちでした。
 
  王様は 3人のお姫様たちを それこそ目の中に入れても痛くないほどに 可愛がっておいでで、事情を知らない人たちから見れば ちょっと 甘やかしすぎじゃないか と 思われるほどでしたが、それもそのはず、実は その3人のお姫様たちは どういうわけか 生まれたときから ガラスの心臓の持ち主達だったのです。

 その姫様方も そろそろお年頃、王様は それぞれのお姫様の嫁ぎ先について、あまたを悩ませる毎日を過ごしておいででした。

 そんなある日、とてもよいお天気のとき、一番上の姉姫様は、窓の外の風にゆれるサンザシの木の花の周りを、日の光にきらきら輝きながら 蜂がぶんぶん飛び回っているのを、もっと良く見ようとして 窓から見を乗り出したとたん、「ぱりん!」と言う音がして、お姫様は その場にぱったりと倒れて なくなられてしまいました。

 王様は とても嘆き悲しまれましたが、しばらくして 哀しみから立ち直ったときに思ったのは、残された二人の姫様方を こんなに簡単に失いたくない ということでしたので、自分が死んでしまった後、娘達を自分以上に大事にしてくれるお婿さんを探さなくては・・ ということでした。

 王様が あれこれとお考えになられていらしたある朝、二番目のお姫様は 晴れやかな朝のお食事のときに、ちょっと熱いコーヒーを いきなりお飲みになったのですが、そのとき「みしっ!」という音がして、姫様の心臓にひびが入ってしまいました。

 お城中が 上を下への大騒ぎの中、心臓に日々の入った二番目の姫様は、にっこりなさるとおっしゃいました。「あら、大丈夫ですわよ、きっと。ほら よく ひびの入った花瓶は、長持ちするって言うじゃありませんか。」

 しかし、王様は もう気が気ではありません。末の姫様だけは 何とか 傷をつけないうちに、チャント安心できるところへ お嫁にやらなければ・・と これまでにもまして、一生懸命に お相手のことを考えるようになられました。

 さて 王様のお考えになった 末姫様のご結婚のお相手の条件とは・・。

 先ず 一国の王様か 先々王位を継がれる方であること、そして 何よりも 姫様を大切に扱うことができることーつまり ガラスの心臓を傷つけないよう、大切に取り扱うことができる「ビロードの手」をもっていなければならない ということ でした。
 しかし・・、王様か王子様で おまけに「ビロードの手」をしている人なんて、どこを探してもいるわけがありません。王様は おふれをだして この条件に合う人を探すことにしました。

 そのころ、末の姫様は いつものように お召し変えをすまされると、お部屋の階段を下りようとして、お小姓を呼ばれました。
 このお小姓は お姫様の小さな手を取ったとき、「お姫さまらしい手だなぁ。」と 思いました。お姫様は お小姓が姫様のお世話をするのを見て、「この人の 私の手や着物の裾を持つ手は とても素敵だわ。」と 思いました。
 でも ふたりとも 特別に何も 言うわけではありませんでした。

 そのお小姓は、そろそろ年季が明けるころで、そのことを申し出て お城を出ることにしました。
 そして お城を出てから さて 何をしようか と考えていると、王様の出されたおふれを目にし、ああ あのお姫様をお嫁にもらえたらいいなぁ と 思いました。
  今ではもうお小姓ではなくなった若者は、何か良い智恵はないかと考えながら歩いていたのですが、ふと 店の窓に並ぶ 綺麗なガラス細工を見て、きっと あのお姫様なら こういうものが好きだろう、と思い、中に入って 弟子にしてくれるように頼みました。

 ガラス職人の親方は良い人で、すぐに 若者を弟子にしてくれましたが、一人前になるには 3年かかる というのです。先ず 最初の一年は 親方の子供達の顔を拭いたり、服を着せたり、読み書きを教えたりと言うのをして、次の一年は ガラスを丁寧に拭いたり、下準備をしたり ということをし、3年目でやっと ガラスを形作ったり、細工したり ということを教えてもらって やっと一人前になるというのです。

 若者は お終いから始めたほうが 早そうだと思い、そういったのですが、親方は だめだというので、まず 一年目は 親方の子供達の顔を拭いたり、服を着せたり、読み書きを教えたりし、次の一年は ガラスを丁寧に拭いたり、下準備をしたりし、3年目になって やっとガラスを形作ったり、細工したり ということを教えてもらい、ようやく一人前になりました。

 さて 若者は 今ではもう立派なガラス職人である という書付をもらって、再び世の中に出てきました。そして、ああ ガラスを上手に扱うことはできるようになっても 王様が王子様になるには どうしたら言いのだろう、と またもや 悩んでしまいました。

 そんな風に とぼとぼと考えながら歩いていると、誰かに呼び止められ、若者は振り向きました。そこには、年を取った男の人が 腰を痛めて困っていたので、若者は 気の毒に思い、肩を貸して お爺さんを助けてあげました。

 道々 お爺さんの話したことによると、お爺さんには後継ぎがなく、年を取ってきて、このままでは 持っている家もすたれてしまう、とおもい、町に出て ふさわしい若者を探しているところだった というのです。  

 若者は、気の毒なことだと思いましたが、自分が欲しいのは 家ではなくて 国なので、お爺さんを送り届けたら すぐにおいとましようと思っていました。

 ところが、お爺さんのいるところは、普通の家なんかではなくて、小さいけれども立派なお城のある国だったのです。
 お爺さんは 若者にお礼がしたいから といって、若者を中に招きいれ、ご馳走をし、お礼の品物を上げようとしましたが、若者は それを辞退しました。

 そこで 小さな国のお爺さんの王様は、「それでは、何がほしいのかね?」とたずねました。若者は コレまでのことを詳しく話して 是非 お姫様のお婿さんになりたいのだ、そのために ガラスを扱うことにかけては 今では 充分なことができるようになったけれど、あとは 王様か王子様にならなければならないのです、といいました。

 お爺さんの王様は、若者をえらく気にいっていたので、その話を聞くと すぐに若者を養子にしてくれましたので、若者は 小さくはありますが、ちゃんとした一国の王子様になりました。

 そのころ、末の姫様のお相手を毎日、選んでいらした王様の前に、ひとりの若者が現れて、なんとしてでも お姫様をお嫁さんにいただきたいと あつく申し出ました。
 お姫様は その若者を見て すぐに あのお小姓だと言うことに気がつきました。
王様は 先ず 一国の主なのか あるいは 後継ぎなのかを問い、その答えに満足すると、では 「ビロードの手」をしているのか と 質問なさいました。

 若者は ガラス職人の親方からもらって書付を見せて、にっこりしました。

 王様は 姫君に向かって「この若者の手が ビロードかどうか 試してみなさい。」と おっしゃいましたが、姫様は「この方の手が どのようか、私には 良く分かっております。」とお答えになられましたので、王様は すぐに この若者とお姫様のご結婚をお許しになられました。

 ふたりは 仲良く お互いを大切にしあって 幸せにお暮らしでしたので、そのうち 小さな姫様や王子様方に恵まれ、お城もたいそうにぎやかになったのことですが、あの二番目の(子供達にとっておば様にあたる)姫様は、子供達とたいそう仲が良くて、お勉強を見たり、楽しい遊びを教えたりして 大変幸せにお暮らしになられた ということです。


 このお話は ご存知でしたか?

 元お小姓の若者が 国を手に入れるところが 大分あやふやで ここは 遠藤作になっていますが、大体が こんなお話だったと思います。

 しかし。。どういう意味なのでしょうねぇ・・ ガラスの心臓 というのは。

 ある国では まるで意気地のない臆病者 という意味もあったり、勿論繊細であると言う代名詞になったりもしているようですが、グリム兄弟が集めた民話のひとつなわけですから、なにか その国なり地方なりの含みのようなものがあるのかもしれないですね。

 とにかく、なんとも 面倒にしてわずらわしい、とんでもない条件で生まれてきてしまった姫様たちですが、3人の姫様たちのありようが 本当らしくて面白いですね。

 私達も 体に限らず 生まれながらにして持っている 自分ではどうしようもないものというのが 一つや二つは 誰にでもあることと思いますが、このお話は そんなこととも重ね合わせて考えてみたりもできます。 
  以前のひつじ小屋だより(http://aureaovis.com/hituji01_08.htm)にも書きましたが、私も 今は人並みのおばさんをやっていますが、かつては 自分の体も思うようにならないもどかしさを散々味わった経験がありますので、二番目の姫様のような考え方に 共感してしまうのですね。   

 それにしても・・、ガラスとは程遠い 鉄の心臓に毛が生えたような・・、そんな人も 最近は 当たり前においでですよねー。

 何かの時には そういう人をうまく扱える条件に見合った人物の話など あるといいなー なんて 思ったりしています。

 そんな面白いお話、ご存知でいらしたら おしえてくださいな。

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