はじめてみる庄屋様の家は 大変立派で、若者はどうしたものかと門の前をうろうろしていたので、家の人が 怪しんで なにをしているのか と たずねました。
「いえね。こちら様のお嬢様が 大変な病いで苦しまれていると聞きまして、」
「そうかい、それはそれは。では お前さんも なにか持ってきてくれたのかね?」
庄屋様のところには 沢山の薬草や薬などが、いろいろな人たちによってもちこまれていましたが、どれも じつは 何の役にも立っていないということを その人は 若者に話してくれました。
「でも、ご主人様も私たちも もう わらにもすがりたい気持ちなのだよ。お嬢様は 日に日にやせ衰えていかれて、きれいで愛らしいお方だっただけに、私たちも 見ているだけで辛くてたまらないのだよ。」
若者は それを聞くと ますます何かお手伝いをしたいものだと 心から思いました。
そこで、その人に向かって言いました。
「ところで、こちらのお屋敷では 少し前に 新しいお蔵を建てませんでしたか?」
家の人は 少し驚いて いいました。
「・・、いや ひとつ、裏の庭のところに建てはしたが、何故それを お前さんが知ってるのだね?それが なんだというのだ?」
「そうですか。それでは もうひとつ伺いますが、その新しいお蔵のそばに 古い松の木がありませんか?」
家の人は また 驚いて、何故 それを若者が知っているのかと思いました。娘さんの病いの原因は そのことにかかわりがあるかもしれないという若者の言葉を聞いたその人は、急いで庄屋様のところへ 事の次第を話しに行きました。
庄屋様は すぐに若者を連れてこさせ、熱心に その話を聞きました。
「実は、このずきんは 観音様から戴いたものなのですが、このずきんをかぶったとたん、すずめの話がすっかりわかるようになったのです。」
それを聞いて 庄屋様も 家の人たちも そのずきんをかぶってみたくなり、若者に頼んで かぶらせてもらったのですが、だれひとり それをかぶったからといって すずめなどの話がわかるようにはなりません。
庄屋様は ずきんが 観音様から若者にだけあたえられたということがよくわかったので、若者の言うことを聞いてみよう と思いました。
「で、すずめはなんと?」
「はい。すずめたちは、こちらのお屋敷の新しいお蔵が、昔からこちらにある松の木の腰に乗っかっているので、松の木が痛くてたまらず、それが娘さんにたたっているのだ と言っていました。」
庄屋様も 回りの人たちも お互いに顔を見合わせ、話の通りなのかどうか、みなで ぞろぞろと裏庭に行ってみました。
なるほど、できたばかりのお蔵の裏には 大きな松の木があり、そういえば 地面の中の松の木のうえに 乗っかっているような位置にありました。
庄屋様は それをみて、代々続いたこの家に ずっとあった松の木をないがしろにしてしまったことを とても後悔し、さっそく建てたばかりのお蔵を 他へ移すことに決めました。
次の日から お蔵は 松の木のそばから離れたところに建て直されはじめ、松の木の周りが 以前のようになったころから、娘さんの顔色は 少しずつ良くなり、お蔵がすっかり 移されたころには、娘さんの頬は桃色になってきて すっかり元気になり 庄屋様や家の人たちを大喜びさせました。
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