8月のお話   空の国の白鳥
 
 昔 ある国に 貧しいけれど 心の優しい少女が 森の中を歩いているとき、ふと 道の向こうに 何か白いものが動いているのに気付き、なんだろうと近づいてみました。

 すると そこには 一羽の白鳥がどうしたわけか 羽に毛糸が絡まりついて しょんぼりとしゃがみこんでいました。

 「まぁ、かわいそうに。一体 どうしたの?」
と 少女が言うと、白鳥は なんとか絡まった糸を解こうとやってみたものの、動けば動くほど 絡まりつく糸に まったく疲れた というような様子でいいました。

 「娘さん。この糸を解いてくれませんか?どんなにしても どんどん絡まるばかりで どうにもほどけなくて困っているのです。」

 少女は かわいそうに思い、一生懸命 糸を解き始めました。
なにしろ 酷く絡まって ちぎってしまったほうが早いかもしれなかったのですが、白鳥の羽を傷つけてしまったら 飛べなくなってしまうかもしれない と思った少女は、とにかく 丁寧に せっせと糸をほぐし続け、とうとう すっかり糸から 白鳥を解放してやりました。

 喜んだ白鳥は 少女に言いました。
「やぁ、本当に助かりました。ありがとう。私は 今はこんな格好をしていますが、本当は 空の国の王子なのです。悪い魔法使いが魔法をかけて 私を白鳥にしてしまったのです。
 あのまま 糸に絡まったままだったら、私は 天に帰ることもできなかったし、また 食べ物を食べられず 死んでしまったことでしょう。娘さん 助けていただいたお礼を、あなたにしたいのですが、どうか この糸を私の足に結んで下さい。一緒に天の国で 暮らしましょう。」

 少女は 喜んで 白鳥の足に糸を結びつけ、そして その端を持ちました。

 白鳥は 大きな翼をバサァっと広げると さっと飛び立ち、糸の端を持っていた少女の体も ふわりと浮いて、白鳥に連れられて 天に向かって空に飛び上がりました。

 初めてみる空からの地上の様子に 少女は 驚きながらも とても楽しんでいました。

 ところが・・、あるところで 少し強い風が吹き始めたとおもうと、少女の握っていた糸は、突然 ぷつり と切れてしまったのです。

 少女は、あっという間に落ちていきましたが、白鳥はそれを知らずにどんどん遠くなっていき、反対に 落ちていった少女は あまりのことに気を失ったまま、地上の木々に救われて どこか知らない森の中で しばらくの後  ようやく気が付きました。

 一体 どうしてこんなことになったのか、せっかく 空の国の王子様を助けて 一緒に空の国にいけるはずだったのに、こんな一度も来たことのない 初めての森に落っこちて・・ どうしたらいいのだろう と思ったとたん、少女の目から ぽろぽろと涙がこぼれました。

 それでも こんなところで 泣いてばかりいられません。とにかく この森を出て 何とかしなくては、と思った少女は 明るいほうを目指して歩き始めました。

 しばらく歩き続けたものの、自分が どこへ向かっているのかも分からず、心細さに疲れも加わって、少女は また 涙がこぼれそうになりました。

 その時、どこからとも無く ひとりのおばあさんが現れ、少女に尋ねました。
「おやまぁ・・!こんな森の中に どうしてお前のような娘がひとりきりで歩いているんだね?」

 少女は それが誰かも知りませんでしたが、しばらくぶりにあった人だったので、コレまでのことを詳しく話しました。
 すると おばあさんは 少女をかわいそうに思い、それなら と 「きっと役に立つから もっておいき。」と 金の糸くり車と豚のあぶら肉を少女にくれました。
 少女は お礼を言って おばあさんに言われたとおりの道を歩き出しました。

 それから 少し先に行くと 道の真ん中に ドラゴンが力なく 横たわっていました。
「どうかしたの?」と 少女が尋ねると、ドラゴンは か細い声で 息も絶え絶えに言いました。
「おなかがすいて・・動けない。なんだか いいにおいがする。」
「あ、これね。どうぞ 食べてください。元気になれるわ。でも お願いがあるのよ。」
「なんだい?」
「私を空の国のお城に連れて行ってくれないかしら?」
「ああ、そんなことは お安い御用だ。約束したよ。」

 そして、ドラゴンは おいしそうにあぶら肉を食べて 元気を取り戻すと、約束どおり 少女を背中に乗せて 空の国を目指しました。

 ドラゴンのおかげで空の国のお城の前に着いた少女は、王子様に会える と喜んで 門番のところへ行きました。
 しかし、門番やそのほかの番兵たちは、王子様から何も聞いていないといって どんなに頼んでも 中に入れてくれようとしません。

 少女は 仕方なく、森で出会ったおばあさんにもらった金の糸くり車を回して、糸を紡ぎ始めました。
 すると それをみていた召使が こっそり少女のそばに来て、「もし、その糸くり車をくれたら、中に入れてあげてもいいんだけど・・。」というので、少女は 喜んで 召使にそれを上げました。

 やっとお城の中には入れた少女は、 その召使につれられて、ようやく王子様の部屋までやってくることができましたが、なんだか 王子様の様子が変です。
 王子様は まだ 昼間だというのに、まるで死んだようにぐったりと眠っているのです。

 「おかわいそうに。王子様は、悪い魔法使いに眠り薬を飲まされて、ずっとこうして眠っておられるのですよ。」という召使の言葉に、少女は びっくりしました。

 少女は 召使にお礼を言って 部屋を出てもらい、王子様の枕もとのテーブルにおいてある薬瓶を手に取ると、それを 目の覚める薬と取り替えて、ベッドの下にもぐりこみました。

 それから しばらくして 夜になると、いきなり 黒い雲が風とともに部屋の中に入ってきたかと思うと、部屋の真ん中に 悪い魔法使いが 現れました。

 魔法使いは ゆっくり ベッドのそばにやってくると、王子様が 青白い顔をして ぐったりと寝込んでいるのを見て、さも嬉しそうに言いました。

 「よ〜く眠っている。眠れ、眠れ、それでいい。お前の国は 眠りの国。
このままお前が目を覚まさなければ、そのうち お前は死んでしまうだろう。そうしたら わしがこの国を守ってやるよ。だから 安心して もっと もっと、そう、永遠に休むがいい。」

 そして、眠っている王子様の口に、いつものように テーブルの薬瓶を注ぎ込みました。
 しかし、魔法使いが眠り薬と思って王子様に飲ませたのは、目覚めるための薬。

 たちまち 王子様は目を覚まして、辺りを見回すと、魔法使いを見て 勢い良く飛び起きました。
 と、同時に 少女もベッドの下から飛び出して 王子様のそばに駆け寄りました。

 「なんだ、お前は! どこからなにしにきたのだ!?」
そういいながら うろたえる魔法使いを前に、少女は王子様にコレまでのことや魔法使いの悪だくみを ひとつ残らず話しました。

 その間にも 王子様は 立ち上がって、家来たちを呼び集めると、皆と一緒に魔法使いを捕まえ、牢屋に閉じ込めてしまいました。

 一騒ぎが収まると、王子様は 少女の手をとって その勇気をほめ、ぜひ お嫁さんになってくださいと頼みましたので、少女は 喜んでうなづき、二人は それから 空の国で ずっと幸せに暮らしたということです。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 このお話は ご存知の方 おいでのことと思います。

 アンデルセンの童話の中のひとつですね。ただ、かなり うろ覚えでしたので、これでいいのかなー と 思いながら 書き進めてしまいました。

 もし どこかでこのお話の書いてある本を手になさることがおありのときは、是非本来のお話を読んでください。

 この話、それぞれの唐突さに 妙に心惹かれるのです。

 森を歩いていて 糸の絡まった白鳥にあう。・・まぁ このくらいは あるかもしれません。
その糸を頼って 空に舞い上がり 途切れて 地上に落ちたかと思うと、いきなり おばあさんに出会って どういうわけだか 金の糸くり車と豚のあぶら肉(!)をもらう・・。
 これは なかなか あるようなことではないんじゃないでしょうか?

 おばあさんは なにをさせたかったのかな なんて つまらないことを考えたり・・。
お約束のように ドラゴン(!) が道に倒れている、それもおなかをすかせて。
 で 持っていたあぶら肉を与えると 元気になって・・なんて、そんなあぶら肉程度で 元気になるほどの大きさのドラゴン?とか、ドラゴンが元気になるくらいの大きさのあぶら肉を持って歩くって・・一体 どれほどの大きさなの?とか、つぎつぎと その唐突さに突っ込んでみたくなります。

 ドラゴンですから 空の国くらいは 普通に飛んでいけるのでしょうけれど、それにしても お城に入れてもらえないからといって 門の前で 唐突に糸くり車を回して糸を紡ぐなんて、ちょっと 不思議・・ 

 でも お話ですから、ね。

 おまけのように、眠り薬と分かって その替わりにおいたという目覚めるための薬。
これ、どこから出てきたんでしょう?
 そして 魔法使いは あれこれ 注釈たれられている間に、なんで二人いっぺんに魔法をかけなかったんでしょう??

 その程度の魔法使いだったのかもしれませんが、その程度の魔法使いにやられちゃう空の国の王子様って・・。でもって つかまって牢屋に閉じ込められちゃう魔法使いって。。

 ?が笑いを伴って といったら 失礼かしらね。

 考えれば 考えるほど 不思議なおかしさのあるお話だと思ってしまいます。
現実に こんなこと あるいは似たようなことのある一日なんていうのがあったら、それは とても くたびれるでしょうけれど、やっぱり わくわくするような楽しいものですよね。

 でも お話ですから、ね。

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