ある小さな村で お葬式がありました。
亡くなったのは 一人の年取った信心深い農夫。
生きている間は、「神様だって、毎日働いておいでなのだ。自分は もっともっと働かなくては!」というのが口癖の働き者で、身体が動くうちは、本当に 怠けるということを知らなかったような人でした。
そして また とても正直で、欲深なところもなく、自分ができる範囲で親切でしたので、その農夫をしっている人たちは、皆、口をそろえて、農夫のことを「いい人だ」といっていました。
さて、お葬式もすみ 農夫の身体はお墓に葬られました。
しかし、農夫の霊魂は お墓になどおさまってなどいません。あれほどの信心と正直で親切な生き方をした者を、神様が天国にお召しにならないはずはなく、天使がちゃんと迎えに来て、農夫を天国まで案内しました。
天国についた農夫は とても大きな門の前にたったとき、天使に「ここでちょっと待っていなさい。今 門の鍵をお持ちの聖ペトロ様に お前が来たことを報告してくるから。」といわれたので、門のそばに座って 待っていました。
ふと 横を見ると、門の前で 両手を後ろに組んで、満足そうに回りをゆっくりと見回している 一人の大変身なりの良い男に気が付きました。
「あなたも、番人の聖ペトロ様を待っているのですか?」
と 農夫が尋ねると、男は にこにこして うなずきながら 答えました。
「ええ、そうですよ、では あなたもですか?」
「そう、ここで待っているように と。」
「そうですか。いや、さすが天国。実に良いところですな。」
そんなことを話しているときに、大きな門の扉が 重々しく開いて、白い鬚をはやした聖ペトロ様が、鍵をガチャガチャ鳴らしながら、扉を開いた天使たちの後からやってきて、農夫よりも前に来ていた 身なりの良い男を笑顔で迎えながら、その手を引いて 扉の中へ導いていきました。
ところが、聖ペトロ様も 扉を開けた天使たちも 農夫がいることに気が付かなかったようで、身なりの良い男の後についてはいろうと思っていた農夫が、扉の前に行くより先に、天国の門は 閉まってしまいました。
農夫は どうしたものか と 思いましたが、自分を連れてきてくれた天使が気付いてくれるだろうと のんびり待つことにしました。
しばらくして、天国の門の内側から にぎやかな音楽や楽しそうな笑い声が聞こえてきました。
「やぁ、さすがに天国だ。毎日 たくさんの人がくるだろうのに、それぞれのために大歓迎をするなんて。」
そして きっと自分のときにも 同じように 歓迎会が催されるだろうと 嬉しく思っていました。
そして、にぎやかな騒ぎが一段落ついたとき、天国の門は 再び開かれ、聖ペトロ様は 扉を開けた天使たちの後からやってきて、待っていた農夫を招き入れました。
「やぁやぁ、遅くなってすまなかったな。待ちくたびれてしまったかな?」
「いいえ、とんでもない。ようやく 天国に入れて 本当に 嬉しいですよ。」
聖ペトロ様は うんうん とうなずき、にこにこしながら 農夫を奧へ案内して行くのですが、しかし いくらたっても 楽隊は音楽を奏でず、天使たちも 忙しく行き来するばかりで、誰一人 農夫のために 歌ったりおどったり 楽しく喜び騒ぐ様子もありません。
農夫は ちょっと 面白くなく思い、聖ペトロ様に言いました。
「さっきの身なりの良い男の人が ここに入ったときは、大変な歓迎会がも催されたようでしたが、やっぱり 私のような貧しい格好のものには そういうことは無いのですか? 天国でも ひいきがあるのですねー。
」
すると 聖ペトロ様は おかしそうに笑いながら言いました。
「いやいや、お前さんのような正直で良い生き方をしてきたものは、毎日ここへ来るのだけれど、あれほどの金持ちで 生涯、正直で好い生き方をしたあの男のような者がここへ来たのは、実に100年ぶりだったからね。どうしても 皆で お祝いをしなくては!と思って、歓迎会をしたというわけさ。」
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