ある日、おばあさんが ソラマメを煮ようとして かまどに火をおこそうとして、一掴みのわらを 持ってきたのですが、運んでくる間に 一本のわらが おばあさんの指の間から するりと抜け落ちました。
おばあさんは わらに火をつけて その火でかまどの火をおこし、つぎに 水の入ったなべをかけると さっき鞘から出したばかりのソラマメを ざっとなべにあけました。
そのとき、一個のソラマメが ころころっと 床に落ちました。
ソレを見ていた 真っ赤におこった炭が一本、ぴんっと はねだしてきました。
わらは ソラマメが床に落ちたとき、すぐにそばにいって ソラマメをおこしてやったのですが、炭が 飛び出してきたのを見て 言いました。
「やあ、勢い良く とびだしてきたもんだね。一体 どうして?」
すると 炭は 答えました。
「だってさ、こうでもしなけりゃ、そのうち 灰になっておしまいになっちまうからさ。」
「あたしもよ。一緒に 鞘からでてきた友達は みんな おばあさんのかけたなべの中で 茹だりあがっているわ。あたしは そんなのごめんだわ。」
と、ソラマメもいいました。
「そうかい、俺も同じだよ。俺たちは みんな一緒に60ほども おばあさんにつかまれて、あっというまに火に投げ入れられちまったけど、運良く おれは その前に 床におっこったってわけだ。」
わらと炭とソラマメは 似たような境遇を お互いに慰めあいましたが、それでは これから どうしようか ということになりました。
「あのね、あたしたち ここから 出ましょうよ。他所の土地にいって 三人で 一緒に楽しく暮らしましょうよ。」

それはいい、そうしよう といいあいながら、三人は いっしょに おばあさんの家を出て行きました。
これから どんな風にくらそうか、どんな楽しいことをしようか と 三人はわくわくしながら 足取り軽く 村の外れまでやってきました。
村のはずれには 隣の村との境に 一本の川が流れていましたが、川を渡れるような橋が みたところ 近くにはないようでした。
「どうしたらいいのかしら。橋を渡らなければ この村からは出られないのよ。」
ソラマメが こまって言いました。
すると わらが ぽんと胸をたたいて言いました。
「俺が 橋になるよ。」 「ええ?!」
「俺が 橋の変りに 向こう岸にむかって倒れるから、そしたら その上をお前さん達が わたればいい。そして 渡り終わったら おれを 引っ張ってくれればいいんだよ。」

それはいい、そうしよう ということで、わらは 向こう側にたおれこみ、うまい具合に 橋になりました。
よろこんだ 炭とソラマメでしたが、ソラマメは ちょっと その細い橋を渡るのがこわかったので、さきに 炭が渡って見せることにしました。
炭は ソラマメに いいところを見せようとして、元気良く わらの橋を渡り始めたのですが・・
足の下を流れる 川の水が ざーざーと 音を立てて流れているのを見たとたん、足がすくんで そこから先へはいけなくなってしまいました。
自分の上で 川を見て ぶるぶる震えている炭をみて、わらは 大声で怒鳴りました。
「おい!いい加減にしてくれ。早く渡れってば!おれが 燃えちまうじゃないか!」
「わかってるよ、わかってる。だけど・・だけど!こわいんだ!足がうごかないんだよー!」
そういっている間にも 炭の足元から ぶすぶすと煙がたちはじめ、わらに赤い火がついたと思ったとたん、わらは 二つになって 水に落っこちてしまいました。 もちろん 一緒に炭も水に落ち、ジュッといったっきり 水に流されていってしまいました。
ソレを見ていた ソラマメは どうにもおかしくて、おなかを抱えて大笑い。笑って笑って 笑いすぎたものですから、とうとう おなかが パチンとはじけてしまいました。
「ああ どうしよう。あんまり 笑ったからだわ。ふたりとも 本当はかわいそうなのに、ソレを笑ったりしたからだわ。」
と ソラマメは痛むおなかを抱えて 今度は 泣き出しました。

そこへ、旅の仕立て屋さんがとおりかかり、泣いているソラマメをかわいそうに思って そのおなかを 丁寧に縫いつけてくれました。
「ありがとうございます。本当に おかげさまで 助かりました。」
何度もお礼を言うソラマメでしたが、本当は ちょっと 困ったな と思ったのです。
なぜかって?
だって 仕立て屋さんは そのとき 黒い糸しか持っていなかったので、縫い付けてもらったところが 黒い線になってしまったからです。
そのときから ソラマメは どのソラマメも おなかに黒い縫い目がついているようになった、 ということです。
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