昔々、あるところに 良く働く、人に親切な、とても 信心深い 年を取った子供のない夫婦がいました。
、ふjたりは 毎日、神様に手を合わせて、どうか 子供をお授けください と 祈り続けていました。
そんなある日の夜、おばあさんは おじいさんの帰りを待っていて うつらうつらと居眠りしながら 夢を見ていました。
夢の中では 天使が現れて おばあさんに こういったのです。
「おまえたちは、常日頃 よく信心し、よく働き、また 回りのものにも 心をかけることを怠らない。長年の裏表のない暮らしぶりも とてもよい。
これから 不思議なことが お前に起こるが、それは お前達だけでなく 皆々が 幸せになるために起こることなのだ。」
帰ってきたおじいさんが 戸を開ける音で 目を覚ましたおばあさんは、 まだ 上着も脱がないおじいさんにむかって さっき見た夢を 一生懸命に話しました。
おじいさんもおばあさんも 何が起こるのか、勿論わかりませんが、でも とても ただの夢とはおもえず、これは きっと 神様のお告げだろうとおもい、どうか 自分達に行われることを 悩むことなく、仰せの通りに出来ますように と 祈りました。
それから 暫くたったある日のこと、井戸で水を汲んでいたおばあさんのおなかが 突然 ぼこぼこと動き出しました。驚いたおばあさんは おじいさんを呼びながら その場にしゃがみこんでしまいました。
駆けつけてきたおじいさんが そばに来たそのとたん、ぽーんと何かが おばあさんのおなかの中から 飛び出してきたのです。
二人が びっくりして その飛び出した先を見てみると、なんと そこには 一匹の小さな緑色のかえるが ちょこんといるではありませんか!
おじいさんもおばあさんも ただただ 驚くばかりでしたが、これが 夢のお告げなら、この小さなかえるが 自分達に与えられた子なのか、とおもい、そっと そばに近づいて 恐る恐る手を差し出してみれば、かえるは 恐れ気もなく あたりまえのように ぴょんと おじいさんの手の上に 飛び乗りました。
「おじいさん、おばあさん、私は 神様の仰せで お二人のところに 子供として やってまいりました。どうぞ よろしくお願いいたします。」
そして、かえるの娘は、二人の子供として 大切に守られ、育てられました。見た目は かえるですが、その娘は とても やさしく、そして 歌が素晴らしくうまかったので、ふたりは 毎日、畑仕事での疲れを かえるの娘の歌で 慰め、癒してもらえるので、これまた ありがたいことと 神様に手を合わせるのでした。
その日は かえるの娘が 二人のところへ来て 14年目にあたる日で、その朝、娘は おじいさんに頼んで、庭の木の上に 乗せてもらいました。
そこで かえるの娘は、お日様の光を浴び、心地よい緑の風に吹かれながら、すがすがしくも 美しい歌声で、大好きな歌を うたいはじめました。
おじいさんも おばあさんも 娘のかわいい歌声を聞きながら、庭先で 芋を選り、窓辺で 糸を紡いでおりました。
その日のその時、たまたま ちかくに、その国の3人の王子のうちの 末の王子様が 狩りに来ていたのですが、ふと聞こえてきた 楽しい歌、美しい歌、やさしい歌の数々と その素晴らしい声を聞いて 心から感動し、声を頼って、おじいさんとおばあさんの家の庭先に たどり着いたのでした。
大層立派ななりの若者の突然の訪問に驚いて ただ たちつくすばかりのおじいさんとおばあさんに 王子様は、
「
この家から 大層清らかな歌声が聞こえてきているようだが、そのお方にあわせてはもらえまいか。」 と 頼みました。
おじいさんとおばあさんは 困ったように顔を見合わせましたが、でも 実際に その姿を見れば 納得してくださるだろうと思い、おもいきって 木の枝から 娘のかえるをおろし、手の平にのせて 王子様に会わせました。
「なんと・・!本当に お前が あの歌を歌っていたのか?あの美しいすんだ声で・・?」
「はい、私が歌っておりました。王子様のお気に召して、光栄でございます。」
王子様は 手の上のかえると おじいさんとおばあさん、家来達を見回して、深く大きなため息をつくと こういいました。
「なんと かえるだったとは・・!お前が もしも 人間の娘なら、私は このまま お前を連れて帰り、夫婦になりたいと思っていたのに・・。」
その時 王子様の手の上のかえるが きらきらと天からの光を受けて 輝いたかと思うと、しゅんっと見えなくなり、あわてて辺りを見回した 王子様とそばの人々は、あの井戸のところに ひとりの美しく、愛らしい娘が ニコニコと微笑みながら たっているのを見ました。
「私は 長いこと 他の誰にも言い寄られないよう、かえるになって、あなた様をお待ちしておりました。どうか 私を お連れくださいませ。」
王子様はもちろんのこと、お供の者達も、おじいさんもおばあさんも、たいそう喜んで 皆で お城に向かいました。
すでに結婚している二人の兄上たちやその妻達と一緒に、王様は 末の息子とその妻の結婚を 大いに喜び、祝福されました。
そして、盛大にして華やかな結婚式が終わった時、王様は 三人の息子達を呼んで こう言われました。
「これで わしの三人の息子達は それぞれに 家庭を持つことが出来た。ついては わしは そろそろ 王位を退き、お前達の一人に わしの位を譲ろうと思うのだが、だれが それに相応しいかを たずねたいと思う。」
三人の息子達は 一体 どんなことを言われるのか と 緊張して 王様の言葉を待ちましたが、それは 思いがけないことでした。
王様は 三人の夫々の妻達に、明日の朝までに 国で いちばん美しい花を持ってくるように といわれたのです。
それが 位を譲ることと 何の関係があるのか と 思いながら、それぞれの王子様たちは 夫々の城にもどると それぞれの妻達に 王様の仰せを伝えました。
妻達は にっこり笑って、かしこまりました、と答え、翌朝、最初の王子の妻は 朝露に輝く 美しくも薫り高い 真っ白な薔薇を 王様に捧げました。
父王は ソレを見て、「うむ、大層美しい薔薇じゃ。」と 言いました。
二番目の王子の妻は 大切にしている自分の庭の中でも いちばん美しく咲いている撫子の花を束にして 父王に差しあげました。
父王は ソレを見て 「うむ、大層美しい花束じゃ。」と 言いました。
三番目の王子の妻、かえるだった娘は、その日の朝早く どこかへ出かけたと思うと 一抱えの青々とした麦の束をもって、父王の前に立ちました。
父王は ソレを見て 「なるほど。良く選んだ、賢い妻じゃ。」と いいました。
王様は 分けが分からずに ざわつく人々を制しつつ、とくに、夫々の妻達に向かって こういわれました。
「お前達は 皆 うつくしく良い妻達だ。自分の家庭の幸福のために 良く尽くしている。
しかし、お前たちの王になるかもしれない夫たちは、多くの民が平和に暮らせてこその この国の王であることを 忘れてはならない。王の妻は 常に そのことにも 心を留めていなくてはならない。
薔薇も 撫子も 美しいが、薔薇や撫子では 人は 生きていけない。王においての美しいことは、その役割を潔く勤め上げることにある。
夫を助けることは 国の民のためになるのだということを、そして そのために いちばん必要なものは何か を、常に 夫と伴に考えられるものが、賢い妻、王に相応しい妻なのだ。」
そして 王様は 三番目の王子とその娘ーかつてかえるだったおじいさんと おばあさんの娘ーにむかって、
「息子よ、お前にこの国を譲ろう。娘よ、どうか この王を守り、その行うことを 手助けするように。それは お前の夫だけではなく、この国の民をも 守ることになるだろう。」
と 言われました。
三番目の王子は かえるだったその妻に助けられて 良く 国を治め、その両親でもある おじいさん、おばあさんと一緒に、皆で 幸せに暮らしたということです。
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