2月のお話  靴屋のこびと

 

 
 昔 ある町に、若い頃から ずっと まじめに 良い靴を作り続けてきたおじいさんが おばあさんと住んできました。

 若い頃は 元気でしたから、朝から晩まで 靴を作り続けても それほど疲れることもありませんでしたが、さすがに 近頃では、一日に 数足、雨や曇りで 手元が暗くなると ランプをともしても 一足を仕上げられれば 上出来というようでした。

 おじいさんの腕は 確かでした。でも、時代の流行とは ちょっと違っていたので、やっと作って 店に飾っておいても なかなか 売れなかったのです。

 そんなわけで、おじいさんもおばあさんも 苦しい生活をしていました。

 そして ある日・・ 
とうとう、もう これで靴を作ったら 次の靴を作る為の皮がなくなってしまう という、そんなところまで きてしまいました。

 おじいさんは 「これが 最後の靴になるんだなぁ・・。まぁ 仕方がない。もう 靴職人をやめなさい と言うことかもしれないな。それなら この最後の靴を 一生懸命 良い靴に仕上げよう!」 そう思って、丁寧に 型紙に添って 慎重に皮を切り始めました。

 やはり、それは 時間がかかり、そして その日は 雪模様だったので、手元も暗く、ようやく 皮を切り終えても 針に糸を通して縫い始めることは 出来なかったので、続きは明日にしよう と おじいさんは、仕事場の机の上に 切り取った皮を丁寧に並べて、おばあさんの作った夕食を食べに行きました。

  次の朝、おじいさんは 仕事場に行って、びっくりしました。
なぜなら そこには 昨日切っておいた皮を すっかり綺麗に縫いあげた靴が、素晴らしい出来で そろえてあったからです。

 大声で おばあさんを呼んだおじいさんは、その靴のできばえに 感心しました。
とても 丁寧に、そして とても しっかりと 丈夫なうえに 流行も取り入れた 良い靴に仕上がっていたからです。

 「これは きっと いい値で売れるぞ。ありがたい、ありがたい!」
「でも・・ いったい 誰が?」 「うーん・・ 誰だろう。」

 おじいさんが思ったとおり、その靴は その日のうちに びっくりするくらいの 良い値段で 一人の紳士に買われていきました。

 おじいさんは そのお金で 靴2足分の皮を買いに行きました。そして また 丁寧に 皮を切り、その日も 薄暗くなったので、机の上に 皮を並べて 仕事場を後にしました。

 翌朝、おじいさんが 仕事場に行ってみると、やっぱり 昨日と同じように 素敵な靴が2足、一足は 若いご婦人用、一足は、紳士の為のおしゃれな靴が ちゃんと 出来上がっていました。 

 そして、また 二足とも うれしい値段で 売れたのでした。

 おじいさんは 驚くやら うれしいやらでしたが、また、そのお金をもって 今度は 四足分の皮を買いにいき、戻ってくると すぐに 丁寧に 靴用の形に 切り取って、また 仕事場を後にしました。

 やはり 次の日の朝には 可愛い子供靴に シックな婦人靴、丈夫な仕事靴と 歩きやすそうな軽い靴が ちゃんと 出来上がっていました。

 そんなことが 毎日 起こるのです・・、さすがに おじいさんも おばあさんも ただ 喜んでいるばかりでは いられなくなり、一体 誰が こんなことをしてくれているのか、それを知りたいものだと思いました。

 そこで、二人は その夜は いったん 仕事場を出てから また 夜中に そっと 仕事場をのぞいてみることにしました。

 

 仕事場の時計が ボンボンと 12時を打ったころ、なにやら 切った皮を置いたところで 動いているものが 見えました。

 それは 不思議なことに 油のないランプに火をともし、あたりを 明るくしたのですが、なんと そこには 二人の裸のこびとがいたのでした。

 おじいさんも おばあさんも びっくりぎょうてん。思わず 声が出そうな口を 一生懸命 手で押さえて じっと こびとのすることを 見ていました。

 こびとたちは 「仕事だ 仕事だ、いい靴作れ、僕らは 靴の妖精だ、働き者の おじいさんのために、朝になるまで 靴作り・・」 と 歌いながら、すばやく 皮を縫い、小さな槌で形を整え、最後に キュっキュっと 靴を磨いて、あっという間に 素晴らしい靴を 作ってしまいました。

 そして、靴がすっかり 出来上がると、ふたりのこびとは ランプの火を消して、そろそろ 日の出の始まりそうな 薄闇の中に 消えていってしまいました。

 

 おじいさんも おばあさんも 自分たちが見たことが 信じられない思いでしたが、出来上がった靴を手にとって つくづくと眺めてみれば、やっぱり それは それぞれ 素晴らしい出来だし、なにより きれいな仕上がりでした。

 二人は 黙って テーブルに坐って いつまでも こびとの作った靴を眺めていましたが、ふと おばあさんが 言いました。

 「ねぇ おじいさん、あの二人のこびとは 裸でしたよねぇ?」
「うん、そうだったな。靴の妖精といっていた、寒さは感じないんだろうか。」
「どうでしょうね、私たちが これまでよりも 楽な暮らしになってきたのも あのふたりのおかげでしょう? だから 御礼をしたら どうかしら?」
「お礼か、、 そうだな。そうしよう、何をしたらいいかな。」
「私、今日は 二人分の小さな服をつくるわ。やっぱり 寒そうだもの。」
「そうだな、それは いい考えだ。では わしは 二人のために 小さな靴をつくろう!」

 二人は 早速 ちいさな服と靴を 作り始め、その日の夜、テーブルの上に、切り取った皮の変わりに そっと 並べておきました。

 二人は また 扉の影から 仕事場をのぞいて 見ていました。

 時計が12時を打つと やっぱり あのこびとたちがやってきて、油のなくなったランプを ぼうっと 明かりをともしました。

 そして テーブルの上の服や靴をみて こびとたちは びっくり。
すぐに おばあさんの作った シャツとズボンに かわいいチョッキを着、おじいさんがつくった革靴を履いてみました。

 ふたりは 大喜びで お互いに腕を組んで スキップしたり 歌ったりして 踊り始めました。

 「素敵な服だ いい靴だ。僕らは 靴の妖精だ、働き者のおじいさん、縫い物上手なおばあさん、二人がくれたプレゼント、大事にするよ ありがとう・・」

 おじいさんも おばあさんも とても 嬉しくて なんども うなづきあいました。

 こびとたちは 歌いながら 踊りながら 仕事場を出て行くと、それからは もう 二度と 現れることはありませんでした。

 でも、おじいさんの作った靴は、それからも 作ったそばから売れていったので、おじいさんも おばあさんも 幸せに暮らしたということです。    

 

 このお話は きっと どなたもご存知のことでしょう。

 この手の話は 実は とっても好きでして・・、ひょっとして 自分にも こんなことがないだろうか と 子供の頃から 思っていました。

 すてきですよねー。知らない間に 仕上げなくてはならないものが できあがってるんですよ?!
嬉しいじゃないですか、しかも それは とても良い仕上がりということですし・・ ね。

 まぁ ちょっと 思えば、学生の頃だったら すっかり宿題が出来上がっている とか、子供達が 学校に行っている時だったら、明日のお弁当が出来ている とか、今だったら 寒い時のごみだし とか、いつも タコ氏が 散らかしっぱなしで 朝 降りてくると うんざりする部屋を すっかり きれいに 片付けてくれる とか・・ なんか すんごく現実的だけど、とにかく そんなふうに 目が覚めたら 良い具合になっていた なんていうの、 あこがれてしまう。
  まぁ それは ごくごく 個人的な 夢のない話ではありますが・・

 年をとると 若い頃 当たり前に出来ていたことが 思うようには出来なってきますが、ある人は それについて、「これまで 出来てきたことを ひとつずつ 神様にお返しするんだ」と 言っていました。

 靴屋のおじいさんとおばあさんには こびとたちが手伝ってくれましたが、現実には そういうことは おそらく 皆無に近いだろうし・・ そしたら、身内に限らず、不自由を感じている人達のために、身近な人達が こびとさんたちの代わりになってみるってのも いいかもしれませんよね。

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