ずいぶんと昔のこと、きらきら輝く 広い海のあるところに、小さな島がありました。
その島には そう小さくはないけれど、まだ 大人にもならないような 男の子と女の子が いました。
二人は たいそう 仲が良くて、いつも 島の中や 水辺や 海で、一日中 よく遊び、疲れれば 眠り、目が覚めれば また遊ぶ・・という 日々を過ごしていたのでした。
二人は 誰からも面倒を見てもらうことがありませんでしたが、月の神様は この子供達を とても 可愛がっておられたので、毎日夜になると 決まった時間に 月からお餅を降らせて、二人の子供達を養ってくださっていました。
でも 二人の子供達は、なぜ 月から お餅が降ってくるのかなんて 一回も 考えたこともなく、ただ おなかがすく頃になると 当たり前に 月からお餅が降ってくるので、その やわらかで おいしいお餅を おなか一杯食べては、眠くなって眠り、朝日とともに目覚めれば、緑の島を駆け回ったり、青い海を存分に泳ぎまわったりして 楽しく暮らすことを、ごく 当然のことと思っていました。
そんな毎日が繰り返されていた ある晩のこと、二人は いつものように 月が降らせてくれたお餅を食べながら こんな話しをしました。
「ねえ、ときどき 僕たち、お餅を食べきれないときには お餅をすてているけれど・・・」
「そうねぇ、私 考えていたのよ。捨ててしまうんなら 取っておいたらどうかしらって。」
「うん、僕も 思っていた。そうすれば いつでも 食べたい時に 食べたいだけのお餅をたべられるようになるもんね。」
「そうよ、時々 いっぱい 遊びすぎて、お腹がすいて お餅が降るまで 待てないときもあるし、眠くてしょうがない時もあるわ。でも とっておけば いつでも 食べたい時に 食べられるわね。」
二人は その日から 食べ残したお餅を とっておくことにしました。
でも、月の神様は 面白くありません。
「毎晩 毎晩、私は はじめから 今に至るまで ずーっと 二人の子供達を養う為に お餅を降らせてきてやった というのに、食べ残しをとっておくなど どういうつもりだ?
私を信じていないということか?!」
そして、月の神様は その日から 夜になっても お餅を降らすのを 止めてしまったのでした。
二人の子供達は、お餅が降らないことを とても 不思議に思いながらも はじめのうちは とっておいたお餅を食べてすごしていましたが、すぐに それも なくなってしまい、おなかがすいて たまらなくなってしまいました。
二人は 月に向かって お願いの声を上げました。
「月の神様!月の神様! どうか お餅を降らせてください。」
「お腹がすいて倒れます。これまでのように どうか お餅を降らせてください。」
しかし、月からは 一個のお餅も降りません。
そして、二度と お餅が降ってくることは ありませんでした。
それからの二人は、毎日 海に行っては、魚や貝を採り、山に入って木の実や根を採ったりして 自分たちで食べる物を 用意しなくてはならなくなりました。
もう 今までのように 遊んで暮らすことは できなくなったのです。
二人は 漁に疲れたり、採ってきたものを食べられるようにするまでの間にお腹がすいたりすると、一日中 遊びまわっていても 時間になると ちゃんと 月がお餅を降らせてくれて、お腹一杯になっていた頃のことを 懐かしく思い、そして そのときになって 初めて、月の神様のしてくれていたことを ありがたいことだったのだ と感謝とともに 思い知ったのでした。
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