11月のお話  シンデレラ

 

  お母様がなくなられて しばらくして、お父様は ずっと 私の家庭教師をしてくださっていた先生を、私の新しいお母様として お迎えになりました。

 先生は とても いろいろなことをご存知で、お勉強以外のことも 親切に教えて下さいましたので、私も 好きでした。

 長いこと ご病気で、いつもベッドに伏せていらしたお母様は、私が近くへ行くと 喜んではくださいましたけれど、すぐにお疲れになるので、いっしょに遊んだり 本を読んだりするようなことが、ほとんどありませんでしたけれど、先生は それで私がさびしくならないように、と いつも 気に掛けてくださって とても 優しくしてくださっていました。

 お母様がなくなられたことは とても 悲しくて、さびしくて、泣いても泣いても涙が枯れないほどでした。

 そんな私を見て、お父様が 先生を新しいお母様に と してくださったことは、私にとっても 嬉しいことではありました。

 先生には お二人のお嬢様がいらっしゃいましたので、私よりも少し年上のその方たちは、先生がお父様と結婚なさると、私のお姉さま方になりました。

 私たちは 毎日 とても 楽しく過ごしていました
お父様のお仕事がお休みの時などは、私たちは 5人で お弁当を持って 馬車に乗って ピクニックに行ったり、花畑を散歩したり、森へ行って遊んだりしました。

 お母様もやさしかったし、お姉さま方も とても 可愛がってくださったのですから、お父様が 最初、新しいお母様たちに 私がなつかないのではないか と 心配していらしたようなことは ひとつも なかったのです。

 お父様は いつも 先生だったお母様に 私が楽しそうにしていることを 感謝しておいででしたし、お姉さま方にも たくさんの プレゼントをなさって 可愛がっておいででした。

 私は それでも 本当のお母様が亡くなられて それほど たたないうちに、お父様が先生をお迎えになられたわけを知らずにいたので、楽しいうちにも、どことなく 不安な気持ちはあったのです。

 それが なんだったのかがわかるのには それほど時間は要りませんでした。

 ある日、お父様は 突然 倒れられて、私たちが 一生懸命 お世話したにもかかわらず、お医者様も打つ手泣く、寝付かれてから ほんの数日で 前のお母様のところへ 行ってしまわれたのでした。

 そもそもの始まりは、そこから だったのです。

 表向きは 母には 三人の娘がいることになっていましたが、実際は そうではなく、二人の娘と 下働きの娘がいるというのが、その後の状況でした。

 なぜ そんなことになったのかと言うと・・

 

 父が亡くなって 一週間が過ぎた頃、かつて 私の家庭教師の先生だった継母は その朝、突然 私の部屋にやってきて、乱暴に 窓のカーテンを開け、私の蒲団を 剥ぎ取って言ったのです。

 「なんてこと! いつまで寝てるんだい?さっさとおきて 食事の支度をおし。」

 私は何のことやら なにもわからないまま、どうして?なぜ?と服を着替えようと立ち上がりました。

 すると 母は、私の手から 服を奪って、数枚のぼろ布を私によこしました。
何かと思って よくみると それは、汚れた下働きの娘の着ていた服でした。

 「おかあさま、なぜ 私に こんなものを 着るようにおっしゃるの?」
と 私が聞くと、母は 大きく目を見開いて 怖いように じっと私を見ながら 
「なぜだって?それは おまえのお父様のせいだからだよ。」

 聞けば、お父様には なくなられた頃には もう ほとんどの財産がなくなっている状態だった と。のこったのは、住んでいる家と家の中のもの、馬車が一台と引き馬が一頭だけになったのだ、ということでした。

 召使たちにも 暇を出し、売れるものは 売ってお金に換え、庭も人に貸したりして 切り詰めなくてはならない、と 母は言いながら、
「だから、おまえは お父様の娘として、責任を取らなくてはいけないんだよ。
これからは 私たちのために 毎日働かせてやるから、せいぜい 一生懸命働いて 私たちに 償いをしなさい。ただで おいてやるんだから、そのくらいは しなくちゃ、ねぇ・・。」

 そういうと 母は ぼろ服を着た私の手をひっぱって どんどん 廊下を歩いていくと、台所の暖炉のそばに 私の一まとめにされた手荷物を ぽんと放り投げました。

 「今日から お前はここで寝るんだよ、蒲団などなくても 火のそばだし、灰をかぶれば あったかいさ。ここにいれば 起きたらすぐに 食事の支度ができるってもんだ。わかったね。これからは 掃除も洗濯も、家のことは なんでも お前がやるんだよ!」

 私が それから、シンデレラ(灰かぶり娘)と呼ばれたのは、そのためでした。

 

 私、そりゃあ 泣きましたわ。だって 私は そのとき まだ 12だったんでもの。家の事なんか なんにもしたことがなかったし、誰にも相談できなかったんですもの。 
 ひとりの味方もいないって どれほど 辛いか、お分かりになります?

 それでも 一日は過ぎていき、私は 朝から晩まで しょっちゅう 怒られたり、ひどいことを言われたりしながら、時には 持っている物を 落とされたり、スカートのすそを踏まれて転んだりしながら、それでも できるだけのことをしました。

 人は どんなことからも学ぶことができるようで、私にも 家の中のことが 少しずつ できるようになってきました。

 朝起きてから 順番を決めて 掃除したり、水汲み場にいって 洗濯したり、食事を作ったり 片づけたり・・、だんだんに 身体も大きくなっていくにつれて、できること やりやすいことも増えてきました。

 決して 楽しいことではありませんでした、冬の洗濯や暑い日の火の番などは 辛いことでした・・。

 おおきくなって 着ているものが小さくなったので、母に 着る物がほしいといいましたら、母は 義姉たちのお下がりを よこしました。
 私には 合わないものでしたが、私は それを 夜、火のそばで 少しずつ 縫い直して、身体に合うように作り変えました。

 私は よく歌を歌い、お祈りをし、なるべく せっせと身体を動かして、ろくでもないことを考える時間を少なくしようとしました。
 だって そうしないと どんどん 悲しくなって、自分が惨めでたまらなくなるのですから。。

 そんな私にも すこし お友達ができました。
いえ、人の というわけではありませんでしたけれどね。水汲み場に行けば、いつも 小鳥たちがいて、彼らは 私を怖がることがなかったので、私が歌を歌うと いっしょにさえずったりしたので、重い水を汲みあげることも、そこで 洗濯することも、そうなると それほど 大変なことではなく思えるのです。

 それに 台所仕事をしていると、ねずみの一家が出入りする時があって、そんなときは、入り口に ちいさなパンくずを置いてやるんです。そうすると 彼らは 喜んで パンくずをもって 巣に持っていくのです。
 それが とても 可愛いんですよ。そのうち 彼らは 私がいることを 怖がらなくなり、いっしょに 片づけ物をしたり、掃除をするようになったのです。

 私たち とても 仲良しなんですわ。

 それでも 相変わらず 母たちは きついことを言い立てて、無理なことばかり 注文することも しょっちゅうで、それができないと よく 大きな声で 怒られました・・

 

 そんなことが 数年続き、私が 16歳になった年のある日のことでした。
その日、いつものように 朝の仕事をしていると、ドアをたたく音がして、出てみると いつもの手紙運びの人ではなく、立派な服を着たお城勤めの人が立っていました。

 一体 なんのご用でしょう?と いいますと、お城からのご招待状をお持ちいたしました、とのこと。

 それでは、と母に告げますと、母は 急いで玄関までやってきて、ずいぶんと丁寧な物腰や話し方で うやうやしく、その封筒を受け取りました。

 そして、ゆっくりと封を切って 中の招待状に目を通すと、みるみるうちに 頬を赤く染め、眉を吊り上げて 私に言いました。

 「早く!早く 支度をおし。お城の舞踏会は 今夜だよ。」
「お城の舞踏会?」「娘たちをお呼びくださってるんだよ。しっかり支度をして、王子様のお目に留まるように、シンデレラ!早く 姉さんたちを手伝いなさい。」

 母が スカートのすそを翻して 姉様たちの部屋に走っていったあと、私は お城のお使いの方を呼び止めて、聞きました。

 「どんな人が、どんな方が 呼ばれているのですか?」
「国中の年頃の娘さんたちは 一人残らず 舞踏会にお越しくださるようにとのお達しだ。」

 国中の年頃の娘は 一人残らず・・!
じゃあ、じゃあ 私だって 行っていいんだわ! ああ うれしい、
私も 行こう、行きたいわ!

 ・・と おもいました。でも そのためには ドレスが要ります。
私には 自分で縫い直した義姉の、そのとき着ていた服しか有りませんでした。

 シンデレーラ! シンデレラー!と 何度も 呼ばれて、私は その日は、それから ずっと 姉様たちのお支度に精出すしかありませんでした。

 何度も着替えながら ドレスを選び、こうして ああしてという 注文になんとか答えながら 髪型をととのえ、髪飾りに耳飾、首飾りを決めたら、ハンカチやバッグや靴が決まるまで、本当に なんど 部屋の内外をいききしたことでしょう 。

 でも その甲斐あって、姉様方は きれいに着飾って、早々と馬車に乗り込み、母といっしょに 出かけていきました。

 

 私は、やっぱり 留守番で、それも しんと静まり返って 寒々しいがらんとした家の中に たった一人でした。

 急いで なにかを作り変えられないかしら? 下の姉様の 青いドレスは 少し手直しするだけで 着られるようになるけれど、間に合うかしら・・

 でも そんなことして 見つかったら どんな風にしかられるかもわからない。
ああ、でも、やっぱり やっぱり 行きたいわ・・
 舞踏会に 行ってみたい!

 私は 姉様たちが 出しっぱなしにしていったドレスを 片付けながら、おもっていました。

 そんなことをしているうちに、どんどん 涙があふれてきて・・
とうとう、声を上げて 泣き出してしまったのです。

 悲しくて 辛くて・・、ずっと 頑張ってきたのに、お父様、お母様、どうして・・
と 泣き続けていました。

 そのとき、ふっと 私の肩に 誰かが触れたようにおもったのです。
ゆっくりと 振り向くと、そこには 優しそうな婦人が 立っていました。

 「気付きませんでした。失礼しました。どちら様でしょう?今 この家には 私しかおりません。家の者は皆、お城の舞踏会に出かけているのです。」

 女の人は 小さくうなずくと にっこり笑って言いました。
「娘や、かわいそうに。お前も いきたいんだろう? でも 家の者たちは お前を舞踏会に行かせようなんて これっぽっちもおもわないんだろうね。」

 私は、びっくりして 涙も止まってしまいました。
「なぜ、そのことを ご存知なのですか?私は これまで あなたにお目にかかったことは無いとおもいますが・・」

 「そうだね、ずっと 会いに来なかったからね。
私は おまえの亡くなった父親の姉です。お前が生まれたときに 名付け親になったお前の伯母ですよ。」

 「まぁ!伯母様!」

 そして 伯母様は 私を椅子に坐らせると 並んで腰かけ、私の手をとって 優しく撫でてくださいました。

 「まぁ・・ こんなに荒れて。さぞ 辛かったろうねぇ。安心おし、これからは 私が お前の面倒を見てあげるよ。
 お前のお父さんは、とても優しい人だったけれど、すこし 考えが足りないところがあってね。私は あれがあの家庭教師と結婚するといった時、強く反対したんだよ。だって あの女が 財産目当てだって事は、すぐにわかったのだもの。
 でも お前のお父さんは、お前の面倒を見てくれたし、家の中のことやこれまでのことをよくわかっているからといって、あの家庭教師の女にそそのかされたりもして、とうとう 結婚してしまった。

 私は 腹が立って たまらなかったので、縁を切ってしまった。
お前のことは ずっと 気になっていたけれど、たまに 尋ねてきても 一度も 家の中には 入れてもらえず、追い返されることが続いたので、とうとう 諦めてしまったんだよ。

 でもね、お城の舞踏会のことを聞いて、そうだ お前も年頃になっているはずだ と おもってね。でも あの女じゃあ きっと お前など お城へはやってくれないだろうと、様子を見に来れば、やっぱり・・だったね。」

 私は、ずっと 一人ぼっちだとおもっていましたから、伯母様と言う方がきてくださって それは それは ほんとうに 嬉しかったのです。

 それから 伯母様は 乗ってきた馬車の中から たくさんの箱を持ってこさせ、つぎつぎと蓋を開けて 私に見せてくださいました。

 それは まぁ なんて 素晴らしい物ばかりだったことでしょう。
淡い暁色のシフォンのドレスに小さな金色のティアラ、光のしずくのような耳飾に金色の細い鎖のかわいらしいペンダント。
 そして きれいな絹の靴を 最後に取り出して、伯母様はいいました。

「舞踏会は 3日続くからね、また 明日、同じ時間に 用意してあげるよ。今日は これを着て、私の馬車で行きなさい。」

 私は 急いで ドレスを着て支度を終えると、伯母様にお礼を行って 馬車に乗りました。

 「そうそう、忘れちゃいけなかった。可愛い娘や、12時までには ここに戻っているようにしなさい。姉さんたちよりも 遅くなって戻っては 具合が悪かろうからね。」

 「はい、伯母様、そうします。きっと 12時前に もどります。それでは 行ってきます!」

 

 舞踏会は それはそれは 素晴らしいものでした。たくさんの綺麗に着飾った人たちが 楽しい音楽に合わせて なんども なんども 踊ったり、笑いあったりしていました。

 突然、静かになったと おもったら、人々が 二手に分かれて 真ん中を 一人の立派な方が 歩いてこられました。

 それは この国の王子様でした。

 皆は、王子様が どなたと踊られるのか、どなたの前で 手を差し出されるのか、じっと見つめていました。

 そして、、そして・・ あろうことか、王子様は 私の目の前にたたれ、私に手をさしだされたのです!

 私は 驚いて 声も出ませんでしたが、手を取られるままに 真ん中に進み、鳴り出した音楽に合わせて 王子様と踊ったのでした。

 それは それは 胸のはじけるような喜び、嬉しくて 楽しくて これまでの辛いことなど いっぺんで 吹き飛んでしまうほどでした。

 王子様とは どれほど踊ったのでしょう。
ふと 王子様が 疲れたでしょう、飲み物を・・と 仰った ちょうどそのとき。
お城の大時計が 11時半を告げたので、私は あわてて 王子様にお暇をいって、走って 階段を駆け下り、馬車に飛び乗りました。

 王子様が 何か仰りながら 追いかけていらしたようにおもいましたが、伯母様との約束を守らなくてはならなかったので、私は 必死の思いでした。

 馬車が 家の前に着くと、伯母様が 待っていてくださいました。
私は どれほど 素晴らしかったか、どれほど楽しかったかを 一生懸命 話しながら ドレスを脱ぎ、なんども 伯母様にキスをして 御礼を言いました。

 伯母様は 姉様たちが戻らないうちにといって、全ての物を片づけてお帰りになりました。

 ちょうど その少し後に、姉様たちは 戻ってきましたが、口々に 文句を行っていました。

 「全然 楽しくなんかなかったわ。王子様は まったく あの娘の他には 目もくれないんだから。」

 私は それを聞いて ドキッとしました・・が、頬が熱くなる思いでした。

 

 翌日も 舞踏会は開かれ、姉様方は また 朝から バラの香水風呂にはいったり、真珠の粉のおしろいをはたいたり、昨日よりも もっと派手なドレスに着替えたりして 大騒ぎでした。

 私は 姉様方がでかけてしまうと 伯母様が今日も来てくださるのかどうか、急に不安になって うろうろと 歩き回っていました。

 すると ものの10分もしないうちに、伯母様が また昨日のようにいらしてくださって、また 運ばれたたくさんの箱の蓋をあけて、次々に 美しいものを 取り出してくださいました。

 澄んだ秋の空のような青い絹のドレスに月の光のような銀のティアラ、おそろいの小さな真珠の耳飾りと首飾り、そして 踊りやすそうな 白絹の舞踏靴。

 私は また 伯母様に 12時前には 戻っているようにと言われながら、お城に向かいました。

 その日も 王子様は たくさんの人の中から 私に真直ぐ向かっていらっしゃって、夜中まで 私と踊ってくださったのでした。

 王子様が 疲れたでしょう、少しお話しませんか と おっしゃったとき、ふと 見た時計の針が 11時45分だったので、私は あわてて、お暇しなくてはなりません といって、お城と飛び出しました。

 戻ってきた姉様たちは、前の晩にもまして不機嫌で・・、お母様も いらいらしておいででしたが、私は 黙っているしかありませんでした。

 

 三日目の晩、伯母様は なかなか いらっしゃいませんでした。
どうなさったのだろう、お具合でも悪いのかしら。今日 お城にいけなかったら・・どうしよう。などと おもいながら、部屋の中をぐるぐる歩き回っていると、突然 キラキラとした 光の粉が降ってきて、びっくりしてみていると、その粉がだんだん 人の形になり・・ 伯母様が 立っていました。

 「ああ、娘や。悪かったね。ちょっと ごたごたしてしまって 来るのが遅れてしまった。驚かせて悪かったけれど、今日は もう 人間になる暇がなかったんだよ。ゆるしておくれね。

 でも ちゃんと 今日も お前を舞踏会に出してやるからね。いろいろと 用意する間がなかったので・・」

 といいながら 伯母様は 細い綺麗な杖をさっと 一振りしました。

 すると・・!どうしたことでしょう!
私のぼろ服は あっというまに、雪のように真っ白な美しいドレスに変わってしまったのです。
 それだけでなく、すっかり 綺麗に化粧もされ、美しく結い上げられた髪には 金銀の星のように輝くティアラ、小さなサファイアの耳飾りと同じサファイアの首飾りをつけ、そして なんと 足には ガラスの靴を履いていました。

 「さぁさ、時間が無いよ、急いで行っておいで。そしてね、これだけは 忘れないでいるんだよ。今日は なんとしても 12時前には 戻っていないといけないよ。今日は 魔法を掛けてしまったんだからね、12時になると この魔法は とけてしまうんだからね。」

 そして 私は かならず 12時前には戻ります と約束して、また 馬車で お城に向かいました。

 

 「お越しが遅かったので、今日は おいでにならないのかとおもって 心配していました。ずっと あなたをお待ちしていました。今日は また これまでになく 美しくておいでですね。さぁ いっしょに踊りましょう。」

 王子様が そうおっしゃって 私を広間の真ん中へお連れくだしました。
私たちは とても 楽しく踊りました。

 あっという間に時は過ぎて行きました。
余りに楽しくて 私は時計を見ることを忘れていたので、大きな時計の音が聞こえてきたとたん、驚いて時計を見て、びっくりしました。
 なんと 時計は12時を知らせ始めていたのです!

 大変です!大変・・!
私は あわてて 王子様の手を振り払って、階段を駆け下り始めました。

 王子様は それでも 追いかけてきて、私を捕まえようとなさいます。
私は どうしてもつかまるわけには行かないので、転がり落ちるように 走りました。

 そして 時計が6つ鳴ったとき、馬車に飛び込んで 走り始めました。
馬車は 走る走る・・、まるで 風のように、空を飛ぶように 走りましたが、12回目の時計の音がなったとき、いきなり 馬車は 雲のように消えたかとおもうと、私は ぼろ服をまとって 庭の畑にしゃがんでいました。

 ティアラも耳飾も首飾りもありませんでしたが、なぜか ガラスの靴の片方が残っていました。 もう 片方は・・ どこかで なくしてしまったようでした。

 

 それから 伯母様は、しばらく いらっしゃいませんでした。
私は 相変わらず、朝から晩まで 怒鳴られ せかされして 働いていました。

 姉様方も母も 舞踏会以来、とても 機嫌が悪くて、風で窓があいても 私の不注意になり、パンが 少し 焼きが足りなくても 大声で怒鳴り散らしましたので、私は あんなに楽しかったことの後なので、余計に辛くて、気持ちが沈みがちでした。

 しかし、それから まもなく、また ある朝、ドアをたたく音に 扉を開けてみると、お城のお使いの方が 数人のお供を連れていらしたのです。

 あわてて 母たちに告げますと、母たちは また 走って玄関まで来て、お使いの人たちを 客間にお通しし、ご用件は?と 尋ねました。

 お使いは、お供の物にもたせた箱を受け取ると 蓋を開けて、中から 日を受けてきらきら光るガラスの靴の片方を出して見せました。

 私は それを見て、心臓が止まるかと思うほど びっくりしました。

 そして いつも ポケットに入れていた もう片方のガラスの靴を ポケットの上から 押さえました。

 「舞踏会で 王子様は 三日三晩、お一人の方をお相手になさり、その方を とても 気に入られたと仰せになったのですが、王子様も私共も、誰一人として その方のことを知りません。
 ただ、ひとつ、このガラスの靴だけが その方のものということで、王子様は この靴にぴったり合う足の方を 探すようにと お命じになったのです。

 そこで 私共は、こうして 舞踏会にいらした方のお宅を一軒一軒訪ね歩いて、この靴に合う方をお探ししております。 どうぞ 娘さん方は 靴をお試し下さい。」

 さぁ それからは 大変な騒ぎ。まず 上の姉様が 試してみたのですが、どうしても 靴に足を入れることができませんでした。

 それを見て 下の姉様は、ちょっと部屋へ下がったかとおもうと、青い顔をして現れ、ガラスの靴に足を入れようとしたのですが、その足をみた 私たちは 皆、びっくりして 息を呑みました。
 下の姉様の足は、指が全部 切られていたのです。

 お付きの人たちは 皆 ぎょっとして、あわてて 靴を箱に入れてしまいました。お使いの方も 頭を振りふり、これでは お試しいただけませんので、といって 部屋を出ようとしました。

 私は、急いで お使いの人たちの後を追い、玄関で追いついて言いました。

 

 「私に!私にも ためさせてください。」
「お前が?」

 私は そのとき 縫い直したお下がりの服を着ていました。後からやってきた 母も姉たちも、皆 私を笑っていました。

 でも 私は もう片方のガラスの靴を ポケットから取り出して 履いて見せました。

 皆は びっくりして 私を見つめた後、お使いの人が もう片方の靴を私の前においたので、私は 舞踏会ではいたガラスの靴を履いて みなの前に立ちました。

 靴は 私にぴったりでした。それは 当然のこと。だって 伯母さまが 私のために 用意してくださったのですから。

 皆が 口々に 騒ぎ立てるのを聞きながら、私は なんだか 自分が ふわふわしたものに 取り囲まれているような気分になっていました。

 そして 気付くと 私は お城に向かう馬車の中にいて、横に 伯母様がいらっしゃいました。

 「伯母様!ほら 靴が見つかったんですよ。お城に 落としてきてしまったようでした。なくしたとおもっていたのです。」

 「娘や。もう 何も心配しなくていいんだよ。お前は これから お城に行って 王子様に求婚されるだろう。そうしたら 喜んで お受けするんだよ。
 両親を失って 辛い思いをして過ごしてきた経験が、きっと この国を良い国にするだろうから、これまでのことを 忘れずにいるんだよ。

 そうそう、この格好じゃ、いけないね。それじゃ・・ それっ!」
伯母様は そういいながら 杖を回して、あっというまに 私を こんな風にきれいにしてくださったのです。

 

 「美しい灰かぶり娘、シンデレラよ。伯母様の魔法がなくても あなたは 誰よりも美しい人です。辛い経験をされたことが どうか 無駄にならないように。私がこの国を治めるために、あなたの力を貸してください。
 私は あなたを 生涯、幸せにしましょう。」

 「私は、あの娘が どれほど苦労してきたのかを良く知っています。王子様、あの娘を大事にしてやってくださいまし。あの娘は きっと あなたと貴方の国のお役に立ちましょう。そして きっと 貴方を幸せにするでしょう。
 もちろん 私の魔法がなくても、ね。」

 

 ご存知、シンデレラ です。

 まぁ 普通にかいても 面白くないかなーと おもって、ちょっと 小技を聞かせたつもりでしたが、最後に来て息切れしてしまいました。

 でも まぁ それはそれで、と言う言うことにしました。

 原作では 継母の これでもかという、無理難題のあれこれを そこはそれ、お話ですから、蟻だの小鳥だのねずみだのが助けてくれて解決するという場面がありますが、その辺は もう 皆さん ご承知とおもうので、すっかり 省きました。

 この 魔法使いなる婦人は、ディズニーの影響で まったく それっぽいものと 認識されていますが、あ もちろん 元の話も そういうものとして 書かれていますが、ある本で、私は それが シンデレラの父親の身内 というのを 読んだことがあるのですね。

 で、その人が いわゆるゴッドマザー、彼女の後ろ盾になって っていう、そんな運びだったように記憶していました。それを 今回 ちょっと 混ぜ込んでみました。

 なんか 楽しいですよねー、似たような話、思い出しましたか?そうですね、小公女せーラ、あれも なかなか うらやましい話ではあります。

 シンデレラストーリーというくらい、苦難の末に 思いがけない幸運を掴むことは 人が どこかで 望んでいることのようにおもいますが、一般ピープルにおいては、なかなか ありそうにもないことではあります。
 まぁ そこが こういうお話ができていった背景かもしれませんけれど ね。

 11月のお話に シンデレラを というのは、少し前から おもっていたのですが、なかなか 書き出す間がなくて、とうとう 12月になっての お披露目になりました。

 なんとなく 11月って シンデレラが会うような気がしたのですね、なぜでしょうねー??
とにかく、100話以上 書いてきて、今まで どうしても 書こうという気にならなかったのは なぜなんだか・・

 ここのあとがきにも書きましたけれど、ちょっと やっぱり あんまり 楽しいばかりの話ではないんですね、自分にとっては。

 幸せになりました、というのも ただ 幸せなだけになってほしくないな、なんておもってしまって、もっともらしく 国の話しなど付け加えてしまいましたが、、やっぱり 蛇足かもしれません。

 いかがなものでしょうね?

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