ある家の子供部屋のおもちゃ箱の中に、やんちゃで 腕白な男の子のお気に入りのおもちゃが ごちゃ混ぜになって 放り込まれていました。
男の子は、毎日 大急ぎで その日使うおもちゃを そこから取り出しては、近所の友達といっしょに、元気良く 遊びました
ところで、最近のお気に入りは、上手にやれば ブーンとうなりながら 周りのものを 跳ね飛ばして いつまでも 勢い良く回り続けるコマだったのですが、そのコマに、男の子は あかるくてきれいな赤と黄色の色で 縞模様を塗り付けました。
おかげで コマは 勢い良く回ると いつまでも終わらない 渦巻きを描いて、友達も うらやましがるほど 良い見栄えになりました。
コマは 鼻高々、得意になって、おもちゃ箱にしまわれると、すぐ 近くにいる、これも きれいなマリに 話しかけました。
「マリさん、マリさん、見てください。今日、ぼくは ぼっちゃんに こんなにきれいな色を塗ってもらったんですよ。どうです?これなら あなたに似つかわしいでしょう?」
まん丸で きれいな絵柄のついたマリは、少し前まで 坊ちゃんのお気に入りの遊び道具でした。でも ぼっちゃんが ちょっと大きくなってからの最近は、あまり 遊んでくれなくなっていたのです。
でも そのうちきっと 自分を探してくれるはず と おもっていたマリは、ただ くるくる回るだけで なんのとりえもないコマなどには 全然 興味が無かったし、かえって みすぼらしい ただの木ゴマなんかじゃ 自分のようにきれいなマリには ふさわしくないと、声をかけられるたびに 鼻で笑って 知らん振りし続けていたのでした。
ですから、今も コマが きれいな色に塗られて 自慢するのをチラッと横目でみただけで、向こうを向いてしまいました。
「あなたと友達になろうなんて、まったく 思わないわ。私が お友達になりたいのは、あのツバメさんだわ。空を 自由に 飛び回ることができるツバメさん、なんてすてきなんでしょう!まったく 自分を良く見るといいわ。どんなにきれいに色を塗ってもらったところで、どのみち あなたなんか ただ 土の上で くるくる回っているだけじゃないの!
面白くもなんとも無いわ。」
コマは きれいに塗られた自分と 窓の外を 翼で空を切るように飛ぶツバメを見比べると、ため息をひとつついて だまってしまいました。。
数日後、また 坊ちゃんのお相手をしていたコマは、坊ちゃんの妹の嬢ちゃんと遊んでいたマリが 何度か ぽーんポーンと地面と嬢ちゃんの手の間を、得意げに行き来したあと、突然 空に向かって たかく飛び上がっていくのを 見ました。
そして それきり どこへいったのか、マリは 戻ってきませんでした。
嬢ちゃんは、マリがとこかに行っちゃった、マリが 飛んで行っちゃったわ、と 泣きながら お母様に言いに走っていきましたが、コマは マリが ツバメのところにいったのだ とおもいました。
「マリさん、ツバメさんのところに 行ったんだね。ああ、それなら もう しょうがない・・。せめて げんきで 幸せになってほしいものだ。」
それから 一年たった ある日のこと、坊ちゃんは お父さんから すごくきれいな金色の粉をもらったので、思いついて あのコマを金色に塗ってみました。
「やあ!すごいぞー、かっこいいなー。よし、みんなに見せてやろう。」
コマだって 金色の自分を見て ものすごく うれしくてたまりませんでしたから、坊ちゃんが まわしてくれたときは、もう これ以上ない というくらい、ぶんぶんうなりながら すごい勢いで 回り続けました。
子供たちは 大喜びで 手をたたいたり、口笛を鳴らしたり大騒ぎです。
しかし、回っているコマが 少し大きめの石にはじかれたとたん、コマは トーンとほうられたように、高く飛んで 見えなくなってしまいました。
「あ!こまが・・!」「大変だ、早く探せ。」
坊ちゃんたちは 一生懸命 コマを探しましたが、どうしても 見つけることができませんでした。
コマの飛び込んだ先は 近くのゴミ箱でした。
落っこちたコマは、最初、自分が どこにいるのかと おもいましたが、辺りを見回して 腐った野菜や魚の骨、果物の皮やかびたパンなどがあるのをみて ゴミ箱の中に入ってしまったことを知りました。
「わぁ・・ くさい。どうしたらいいんだ、はやく 出たいよ。汚いくて いやだなぁ。」
コマがぶつぶつ言いながら なんとか出られないかと あちこち見ていたとき、ふと なにか 見たことのあるような丸いけれど 形のおかしなものがあるのに気づきました。
「・・・? あっ! あぁ・・ もしかして? もしかして、マリさん?!」
ぶよぶよして擦り傷のたくさんついたマリは、雨にぬれ ごみにまみれて かつての きれいな面影もなければ、パンと張った丸みも まったくありませんでした。
「どうしたんです?マリさん。ツバメさんと 一緒に行ったんじゃなかったんですか?
なんでまた そんなに・・ そんな姿に?
」
するとマリは きまりわるそうに、恥ずかしそうに 言いました。
「あの日、嬢ちゃんの手を離れた私は、おもいっきり高く飛んで ツバメさんの近くに行こうとしたのだけれど、どういうわけか そのまま 屋根の上にあがってしまって、そこから ころころ転がって 屋根の樋に引っかかってしまったの。
それから なんども 雨が降ったり 日が照ったり・・。あるとき 強い風が吹いて、私はこのゴミ箱に 落っこちてしまったんです。
コマさん、ねぇ コマさん、同じゴミ箱に いることになった私たちだもの、どうか 仲良くしてくださいな。」
コマは 空気が抜けて しぼんで哀れな姿のマリをみて、かつてのマリの面影のまったく無いのに 驚いて、何も言えずに ただ じっとマリを見つめるばかりでした。
その時、ゴミ箱のそばに 人の気配がして、坊ちゃんの家のお手伝いさんが ごみを中に捨てようとしました。
ふと、お手伝いさんは、ゴミ箱の中に きらっと光るものを見て、拾い上げてみると、さっき 坊ちゃんが 無くしたと べそをかいていた金色のコマだということがわかったので、エプロンで コマの汚れをふき取ると、ごみを 中に捨てて、いそいで 走っていってしまいました。
お手伝いさんが コマを見つけたとき、マリは 「もしもし、私は?私もいるわよ、私は ここよ!」と 叫んでいました。
そして、コマが エプロンで 汚れを落としてもらっているときにも 「コマさん、コマさん! 私も一緒に連れてって、私も 一緒に出してもらってよ、お願い、私も!」と なんども コマに 頼んでいました。
コマは マリを 気の毒に思いながらも、どうすることもできないまま、お手伝いさんの手に握られて、マリと分かれたのでした。
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