2月のお話  おろかなお姫様

  昔、あるところに、小さくて貧しいけれども、人々が仲良く暮らしている国がありました。

  その国には 王様とお后様と、そして 若い王子様がいらっしゃいましたが、しばらく前に 王様はお亡くなりになり、今は お后様と王子様が 宮殿で暮らしていました。

 王様がなくなられた後の国の責任を持つのは、当然 立派に成長した息子の若い王子様でしたが、王子様は まだ 結婚前でしたので、そろそろ お嫁さんを、と 考えていました。

 しかし、どれほど小さくても 一国の王子ですから、どんな人でもかまわない というわけにも行かず、いろいろ 皆で考えた末に、王様が 昔、親しくしていた 大きな国の王様の娘がふさわしいのではないか、ということになりました。

 賢い王子様は、小さい国であっても やっぱり 王子様でしたので、自分やお母様のためというのはもちろんではありましたが、何よりも 国の民を大事にすることのできる、よいお嫁さんに迎えたいと 考えていました。

 そこで、王子様は、大きな国のお嫁さんが どういう人なのかを知ろうとして、二つの贈り物を 送ることに決めました。

 王子様の選んだ 二つの贈り物の一つは、美しいバラの花でした。
そのバラの花は、王様のお墓のところにだけ、五年に一度、たった一輪だけ花をつけるという、不思議で 清らかな とても珍しいバラの花でした。

 二つ目の贈り物は、すばらしく綺麗な声で歌う ナイチンゲールという小鳥で、王子様は、それを 金の鳥かごにいれ、先のバラの花は 綺麗な箱に入れ、まず 家来に命じて 贈り物を お姫様に届けさせました。

 家来は 立派に仕事を果たして、大きな国から 戻り、王子様に 報告しました。

 大きな国のお姫様は、小さな国の王子様から贈り物が届いたことを、とても 喜ばれたのですが、綺麗な箱を開けようとする家来にむかって、「私、ねこがほしいの。小さなかわいい猫が出てくるわね?」と おっしゃったのです。

 家来が、もじもじしながら ふたを開けると、その箱の中には あのバラの花が入っていたのですが、それを見たお姫様は、たいそうがっかりして こうおっしゃいました。
 「私、猫がほしいのに・・。こんな花 どこにだって咲いているわ、まぁ 良くみれば かなり綺麗なバラだけど・・。それに、これはなに?ただの小鳥じゃないの!
 ねぇ、私、こんな贈り物 いらないわ。こんなつまらないものばかり下さる王子様なんて、ずいぶんな方ねぇ。そんな王子様なんて 大嫌いだわ。」

 若い王子様こそ、その話を聞いて たいそう がっかりなさいましたが、お父様の親しかった王様の娘なのですから、贈り物の価値を話せばわかるかも と 思い、今度は 自分で 出かけていくことにしました。

 賢い王子様は、出かける前に、まず 立派に仕立てられた美しい服をぬいで、ぼろぼろの服に着替えると、顔に泥をつけて汚し、その格好で、大きな国の王様のところに 出かけていきました。

 そして、王様に、どんなことでもしますので、お城で働かせてくださいと頼み、王様の許しを得て、お城の豚の世話をすることになりました。

 ぶた番は とても身分の低い仕事でしたから、王子様も 粗末な小屋で寝起きすることになりましたが、王子様は いやな顔ひとつせず、せっせと ぶたの世話に励んでいました。

 そして 毎日、仕事が終わると、小屋の庭先で、火をたき、小さな鈴がたくさんついたなべを乗せて、おいしい晩御飯を作ったのですが、それが 煮えるまでの間、王子様は 楽しい歌を歌いました。

  鈴のついたなべは、中身がぐつぐつしてくると、なべが揺れ、楽しげな音をさせて、王子様の歌に合わせるのでした。

 ぐっつぐつぐつ お湯が沸く 
 ぐっつぐつぐつ おいしい音よ

 その歌と音は、風に乗って お姫様のお部屋の窓にも 届きました。
そして、それを聞いた お姫様は、おつきのものに命じて、その楽しそうな音の出る楽器を 買ってくるように、言いつけました。

 おつきのものは、音のするほうへ走っていき、ぶた番のところにたどり着くと、お姫様が その音のするものをほしがっておられます、いくらですか?と 聞きました。

 すると ぶた番は、そんなにほしいなら、お金なんかじゃなくて、お姫様のキスを10回ください。と 答えました。

 それを聞いた お姫様は、ぷんぷん怒って、なんって失礼なの!この間の 王子様みたいじゃないの! と 言いましたが、そういっている間にも、楽しい歌が 耳をくすぐります。

 ぐっつぐつぐつ お湯が沸く
 ぐっつぐつぐつ おいしい音さ、いい音さ

 お姫様は、それを聞くと やっぱり おなべがほしくなって、しばらく考えていましたが、おつきのものたちをつれて、ぶた番のところに 出かけました。

 そして、付き人たちを 自分とぶた番の周りにたたせ、スカートを広げさせた輪の中で、ぶた番に キスを10回してやりました。

 お姫様は、それからは 毎日、朝から晩まで おなべの歌をきいて 楽しみました。

 何日かたって、ぶた番の王子様は、ちょっとした 楽器を作りました。
それは 手に持って振ると、いろいろな音が次々にして、まるで メリーゴーランドに乗っているような気分になるくらいに楽しい、音の出る楽器でした。

 ためしに 振ってくると とても 楽しくて、王子様は 歌も歌ってみました。
 ガラガラガチャガチャ 楽しい、うれしい
 ガラガラガチャガチャ いい気分
 ガラガラガチャガチャ みんなで踊ろう
 みんなで踊れば ガラガチャチャ

 その歌と音は、いかにも楽しそうに、お姫様の窓辺に届き、お姫様は また おつきのものに、その楽器を買ってくるように 言いつけました。

 ぶた番のところから 戻ってきたおつきのものは、お姫様に こういいました。

 ぶた番は、お金はいりません、そのかわりに お姫様のキスを100回くださいと いっていました。

 「何ですってー! なんって ずうずうしいの?! 小さな国の王子様みたいにいやなやつだわ。」

  それでも、やっぱり あの楽しい歌や音が聞こえてくると お姫様は もう我慢ができません。

 仕方がありません、お姫様は また お付の者たちを連れて、ぶた番のところへ行き、皆を自分とぶた番の周りにたたせて、スカートを広げて囲ませ、その輪の中で、ぶた番に 100回のキスをし始めました。

 ところが、高いところから その様子を見ていた人がいたのです。
それは お姫様のお父様の国王様で、王様は 娘の姫様が、まずしいぶた番などと キスをしているのを見て、頭から湯気が出るほど、冠が熱で膨らむほどにお怒りになり、すぐに ぶた番と姫を 連れてこさせました。


 いったい全体 お前は自分が どういうものだか わかっているのか?!
一国の姫ともあろうものが、ほしいもののために、それも そんな詰まらんもののために、ぶた番とキスをするなど、いったい お前は なにを考えているのだ?!

 そして、王様は 二人を 国の外においだしてしまわれたのでした。 

 ぶた番の王子様は、お姫様には 関係なく、自分の国に戻ろうとあるきましたが、お姫様は どこに行ったらよいのかもわかりませんでしたから、仕方なく、ぶた番のあとを、なきながら ついていきました。

 しばらくすると、お姫様の涙のような雨が 降ってきて、二人は ずぶぬれになってしまいました。

 お姫様は、雨にぬれて、靴もドレスもぐしょぐしょになりながら、いいました。

 「私は ほんとに 馬鹿だったわ。もし あの時、バラと小鳥をくれた 王子様と結婚していたら、こんなことになんか ならなかったのに・・!」

 それを聞いた ぶた番の王子様は、顔をぬぐい、きれいな王子様の服に着替えて、お姫様の前に立ちました。

 「まぁ!まぁ! なんてことなのかしら。あなたは、それでは あのときの王子様なのね。よかったわ、私 とても うれしいわ!」

 そして、びしょびしょのドレスを雨でぬれた指でつまむと、丁寧に 王子様にお辞儀をして、右手を差し出しました。

 そんな様子のお姫様を見ていた王子様は、お姫様の手を ぱっと払いのけて、冷たく いいました。

 「僕は、あなたが 大嫌いですよ。大切なバラの美しさも、小鳥の綺麗な声もわかろうとせず、ただ 面白い音がするからというだけで、ぶた番と 簡単にキスするような、そんなおろかな人など、僕は だいっきらいです!」

 そして 一生懸命 謝りながら ついてくるお姫様の目の前で、お城の門を ぴたりと 閉めてしまったということです。

 

 

 このお話は ご存知でしょうか?

 たぶん、どこかで 一度は 耳にされたことがおありなのでは と おもいます。

 まぁ しかし・・、自尊心のかけらもない とは この姫様のような人のことなのでしょうね。 そういうことについては、とくには 問題にしない という、ある種、鷹揚とでも 言おうと思えばいるのかもしれませんが・・  う〜ん・・やっぱりねー 一国の王女でなくても、まぁ キスなんて 誰とでも とか やたらにとか するものでもないし、ましてや 10回だの 100回だのって・・、なにかんがえてんの?って 感じですねー。

 まぁ 考える頭があれば、するようなことにはなりはしないのでしょうけれど。
自分を 大事にしなくちゃ いけませんね、・・なんて。

 だけど、どうなんでしょう?
 自分が贈ったものを こちらの意図通りに受け取らなかったからといって、確かに たいした贈り物ではありましょうけれど、そんなの 贈った側の勝手じゃないの? などと、自分などはおもってしまいます。

 自分と同じ価値観ではないから、と 退けるってのも なんか かってだなー と 思ってしまいましたが、ま、高いところの方ですし、一国を預かるのなら、そういうこともあるのかもしれない・・のかな・・?なんて。

 また それとは別ですが、なんか こうやって 人を試す風な話、どうも あんまり 好きじゃないんですけどねー・・ やりたがるみたいですね、人というのは・・

 そうそう、何時ものことですが、お話は 大分 エンドー風になっております。ご了承ください。

 しかしながら、なんとなく 今の時代の その辺のこと と、とれなくもない そんなお話ではあります。。

 いかがでしょうね?

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