6月のお話  手回しオルガン


  一人の旅人が ずいぶんと 長いことかけて、遠くところから帰ろうと 急ぎ足で歩いていました。

 あたりは もう 日がすっかり落ちてしまったのですが、今 旅人がいる場所は、この森を抜ければ、家までもう少しというところでした。

 しかしながら、その晩は、月も星もなく、森の中だろうが、そうでなかろうが、同じように真っ暗闇、そして どういうわけか 普段の夜のざわめきもないような、とにかく 静かで 葉のすれる音もきこえない、という晩でしたから、旅人は、とうとう、行方を失って、立ち止まってしまいました。

 さて、どうしたもんかなぁ・・。このまま 前に進んで、果たして森を抜けられるのか、ひょっとして、自分は 前に歩いているつもりでも、そうじゃなくて、朝になったら とんでもないところにいた、、なんてことになるかもしれない。
 しかし、、戻ろうとしても、こんな暗さじゃ それが 戻っているのかどうかも わからない。 では 寝るか、といっても、茨の上に寝るかもしれないし、かといって 立っていては 足が痛くなってしまう。 うーん、、 これは こまったぞぅ。

 旅人が、あまりに困って 独り言を言っていたとき、ふと なにか聞こえたような気がしました。

 しかし、それは まさか こんな森の中で聞くことなどないような、そんな音で、しかも曲を奏でていたのでした。

 旅人は、音のするほうへ 手探りで 歩いていきました。

 あれは、手回しオルガンだ!なんで こんな森の中で 手回しオルガンの音をきくのだろう?でも、まぁ いい、とにかく 人がいるってことだ。だって 手回しオルガンは、人がまわさなくちゃ 音なんかでないんだからな。

 旅人は すこしずつ 音のするほうにちかづいていき、とうとう、すぐそばまでやってきたようでした。

 おぅい、そこの人!いるんだろう?

 よぅ、だんな。こっちですよ、ちょっとまっておくんなさい。この曲を 最後までやってしまいますから。よかったら、だんな、踊りなせぃ。

 旅人は、子供のころに よく聞いたその曲に合わせて、困っていたときに 人に出会えたうれしさもあって、うれしくなって 踊りました。

 曲が終わると、旅人は 言いました。

 いやいや、おれが こんなに踊ったのは、10歳のころ住んでいた横丁で踊ったとき以来だ。いやぁ 久しぶりだ。楽しかったよ。 そら、1ペニーやろう。

 だんな、わしも 1ペニーもらうのは 久しぶりだぁ。

 しかし、なんだって こんなところで 手回しオルガンをやってるんだね?もっと 子供がたくさん窓から顔を出すような通りで やるもんじゃないのかね?

 ああ、だんな、そりゃあ わしだって そうしたいところでさぁ。わしも 昔は、そうやって町々の通りや 辻などで、オルガンをまわしちゃあ、週に12シリングもうけて 6シリング使い、残りの6シリングをためてたもんでさぁ。
 だけど、あるとき、 わしは 風邪を引いちまって ねこんじまったんでさぁ。
それで ようやく 治って 出てきたときには、通りには べつのオルガン弾きがいて、辻には 蓄音機が音をだしてたってわけでさぁ。

 それから わしは、町から出て、あちこちで 好きなときに 好きなだけ オルガンを回すようになったって分けでさぁ。

 そうかい。しかし、こんな 真っ暗な森の中で オルガンを回したところで、誰が聞くっていうんだね? 踊るものなんて ないじゃないか?

 いやいや、だんな、それがね、案外 たくさんの連中が よろこんでくれてるんでさぁ。
ほら、もういっちょう やりますからね、よく みてておくんなさいよ。

 そして オルガン弾きは、また 楽しい曲を まわし始めました。

 旅人は、調子を合わせながら 周りをみていたのですが、なるほど、オルガン弾きのいうとおり、曲が ながれはじめるや、月が顔を出し、たくさんの星たちも出てきて、踊り始めました。

 夜の蛾や虫たちも 集まってきて、ひらひら ふわふわ とても 楽しげです。
曲が つぎつぎに 演奏されると、そのたびに あたりのあれこれが 集まってくるのです。

 そうやって、花たちが踊り、木々も体をゆすり、どこからか 二つ三つ、小川の流れる音も聞こえてきたようで、目には見えないものたちの楽しそうな気配を 感じらるのでした。

 旅人は、皆といっしょになって、その夜中踊りながら、きがつけば、森の出口に やってきていました。

 あたりは、明るくなっていて、道の向こうには、懐かしい我が家が見えるところまで 来ていたのでした。

 

 

 このお話は、ご存知でしょうか?

 遠藤の好きな ファージョンの童話のひとつです。ちょっと 不思議で、なんだかいいお話だと思っています。

 今 これを書きながら 実は、手回しオルガンの音を youtube で 聞いています。なんとも ノスタルジックな音ですね。。

 曲も古風なものをやっているせいでしょうか、すこし 時をさかのぼったような、そんな気分になっています。面白いものですね、実物を みてみたいです。

 一曲分の穴の開いた紙を折りたたんで、それを 機械?のなかに通しながら、ハンドルを回すと 音が出るのですねー。
 ハンドルの速度で 曲のイメージをかえることができるようです。。

 このお話は、何がどう、というのは、、ないんです。
ただ、なんだか いいなぁ・・・ と はじめから思っていて。

 でも いつものように、覚えている範囲でのことなので、どこかで 原作をお読みくださいね。

 ああ そうそう、12シリングは シリングだったのか どうか、その辺が ちょっと あいまいです。そういうほうは 詳しくないので、適当です。。
 ただ 12なんとかを稼いで 半分を使って 半分をためてっていうのだけ おぼえていたので、そうかきました。 

 今、もう一回 読みましたが、やっぱり ちょっと いいです。。

 あなたは どう思いますか?

 

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