僕は 家の茶の間にいて、時間は ちょうど朝の食事時だった。
僕のそばには 弟がいて、妹もいた。おかあさんが ちゃぶ台の上に ご飯を並べながら、台所との間を 行ったりきたりしていた。
味噌汁がおかれて、中を見ると 菜っ葉がはいっていた。
弟は、菜っ葉がすきなので、まだ いただきますをする前だというのに、箸で 汁をかき混ぜながら 「やー なっぱだ なっぱだ。」と いっていた。
おかあさんが すわって、僕たちに 座りなさい と 言った。
それから、おとうさんが 入ってきて、いつものおとうさんの場所に座ったので、みんなで いただきます! といって、朝ごはんを食べた。
ご飯は 白飯たっだ。湯気がたって ほかほかで あったかかった。
おかずは ほしいわしの焼いたのだった。僕は いわしが好きなので、おいしい おいしいといってパクパク食べたのだが、いわしを食べるたびに 弟が、一匹、二匹・・と 数えるのだ。
僕は 数えられるのがいやで、おかあさんに、弟が いわしを数えるのをやめるようにいってよ、と いったのだが、弟は、「だって にいちゃんは もう よっつも食べるんだもの。」といって 口をとんがらせた。
いわしも、菜っ葉の味噌汁も 白いご飯も とても おいしかくて いっぱい食べた。
そのとき、表で 車のとまる音がした。
お母さんが「車が来ましたよ。早く支度なさい。」と いったので、僕も 弟も 急いで 背負いかばんをしょって、玄関に出た。
いつものように 運転手の三田さんが ドアを開けて、待っていた。
僕は うれしくて ぴょんと跳ねるようにして 車に乗り込んだ。弟もまねをした。
お父さんが 乗ってきてドアが閉まるとき、おかあさんが「今日は、午後に パンを焼いてあげますからね、早く帰っていらっしゃい。」 といった。
車は すべるようにして いつもの道を走り、橋のところまで来てとまったので、僕は ドアを開けて 表に出た。
弟も 降りるだろうと思っていたら、僕の後ろで ドアがバタンと閉まる音がして、振り向くと お父さんも 弟も 車に乗ったまま、煙のように すぐ見えなくなってしまった。
あれ?どうしてだろう・・ と 僕は 驚いたが、ふと そうだ、俺は 浮浪児になったのだ ということに気づいた。
僕は、どうしたものかとおもったが、とにかく うちに戻ろうと思って駆け出した。
かなり、あせっていたようで、通る道に、よその家があったのか、どうかも 思い出せないほど、僕は うろたえていた。
ようやく、家に着いたけれど、そこは 焼け野原になっていて、そして 草がぼうぼうに 生えているばかりだった・・・
いつの間に そうなったのか と 不思議な気がしながら、僕は おかあさん! と 呼んでみた。
・・ そして、その声で 目が覚めた。
目が覚めたときは、いつも なんだか どこにいるのか と おもうのだが、辺りを見回して。。 やっぱり 川のそばの 柳の木の下の 草の中で 寝ているのだ。
目が覚めて、柳の枝のほうに 細い三日月が かかっているのを見た。
僕は、なんとなく 月の光の揺れている川面に向かって、拾った石を 思い切り投げて、「ばかっ!」と 怒鳴ってやった。
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