先日、上の息子と出かけて用を済ませたあと、こちらの買い物に付き合ってもらって 母によさそうな着るものを探しにいった。
母は、どこからみても おばあさんで、腰は曲がり、髪は 白の勝ったグレーになり、顔には しみやしわもできていて、そして 何より なににもコレという関心を示さなくなり、ちょっとの間、はっとするように 何かに注意を傾けても、すぐに その「時」は 過ぎ去って、母のうちには留まらなくなってきている。
人間、90年近くも生きていれば、あれもこれも ずっと使い続けてきたものに故障が出てくるのは当然とおもいつつも、両親を見るたびに、なんともいえない気持ちになるばかりだ。
人となじむことが なかなかうまくできなかった母は、忘れることの幸いからか、これという トラブルもなく、当然のように ごく近くのデイケアに週3回通いだしてから、もう 2年近くになるのだが、年老いたとはいえ、やはり 表に出るのだから それなりに装いたくはないだろうか、と 思ってはいた。
ただ、あちこちの店をのぞいたり、カタログを見ても、高齢者用というのは、判で押したように 地味な色合い、小紋柄のようなプリント、誰が着たところで たしかに年寄りと思えるようなものばかりで・・、いやいや 年寄りなんだから コレを着ろ風なものばかりで、選ぶに選べず 困ってばかりいたのだ。
息子と一緒の買い物は、つまりは 息子は 結局 自分の買い物にいそしむことになるのだけれど、まぁ それはそれで ほっといて。。
こっちは 広い店内のあちこちを 母用のものを求めて 目がちかちかするのをこらえながら 何枚もの服をよりわけて、いい加減いやになってしまい、別のフロアをつらつら眺めていたところ、前面に 柔らかな色合いのバラ模様を編みこんだセーターを見つけて、息子に見せた。
あ いいじゃん、そういうほうがいいと思うよ、と彼はいい、赤と水色と白の三色の中から、二人で白を選んで買った。
赤いものは 母の好みではないし、水色でもよかったのだけれど、年寄り用とされるものには、水色系のものというのは 結構あるので、手にとって見たけれど、なんだか いつも見ているものと同じだなぁ・・とおもって、結局 白にすることにしたのだ。
さて、当方の娘の1人は、長いこと 自分の生まれ育った家に引きこもっていたのだが、それが 数年前からの適切な医療指導によって、いくつものステップを、ゆっくりではあるが登っていき、このごろは 月に2〜3度、ちょっとした用足しのために 自分から 表に出るようになってきている。
息子は、そんな姉を応援したいと、彼女の好みそうな 白地にちいさな三つ葉模様とこだわったボタンや前立てのおしゃれなシャツと、明るいグリーンのニットジャケットを選び出し、ばあちゃんのセーターといっしょに届けるから、と 一緒に持って行ってくれた。
娘は とても喜んでうれしそうだったし、母も セーターをみて、ここ何年も見たこともないような笑顔を見せて、喜んだ。
(心無い父は、そんなのを着ると よけい顔がふけて見える、と いったそうだが、そこは無視、母の耳にも 入らなかったようで、やれやれ。。)
日曜には、明日のお出かけ(デイケア)に着ていくのだ、と 母は 楽しそうに言っていた。
そのときの、ちょっと照れくさそうな、でも それを着て出かけることを楽しみにしている笑顔は、セーターに支払った分の何倍もの価値があったとおもう。
やはり、色柄のきれいなものは、身に着けるうれしさを増すものなのだろう。
朝晩が涼しくなったので、衣類の入れ替えをしようとして 母の引き出しを開けたところ、眼にしたもののほとんどが黒っぽいものばかりだったので、これでは 気持ちも沈むだろうに、と買い物することを思いたったのだが、そういえば、若いころの母は、当時にしては、背も高く体も大きかったこともあって、大胆な色使いや 大柄のものを好んでいたことを思い出し、これからの買い物には、なるべく きれいな色や柄を選ぼうと、改めて思った。
息子いわく、着れる物を 好きなように着る楽しみは あったほうがいいと思うよ。
そうだね、たしかに、と 母や娘のことを思いつつ、ふと 彼の格好を思い浮かべて、まぁ いろいろあるよね、と 思ったりもしている・・
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