1 ロバとメルヘン
土曜日の夕方、駅前は 人で かなり混雑していました。
自分も その中の一人として、人の流れのままに 駅に向かっていたのですが、ふと 何かの気配を感じて 流れをはずれて そこに 立ち止まりました。
そして、何の気なしに 左を見ると そこに 普段 見慣れぬものが・・
????? あれは・・?
すぐに分りましたよー。 あれは ロバさん だったのです。
逗子の、駅前に、ロバさんが、いました。
ロバ・・ しってます? ロバです、ロバですよ。
柔らかい耳の長い グレーの お腹の白い ひづめのある ロバさん・・
馬みたいな形だけど 馬じゃない ロバさん
駅前のマックのまえには 何の木だかを囲って 丸いベンチがあるのですが、そのそばに 背の高いおにーさんといっしょに ロバさんが 静かに、いました・・。
おっきいなー・・ というのが 第一印象。想像したよりも 大きい。
(ちなみに 遠藤は 本物の 生きてるロバさんを見たのは、多分 これが初めてだと思います。 馬は 幾らも 見たこと あるのですけれどねー・・)
おにーさんは 花屋さんなのでしょうか・・、ロバさんは 背中から 両脇にいくつか バケツをさげていて、それぞれの バケツには いろんな花が入っていました。
さて、こうなると もちろん そばに行きたい、触りたい、話したい・・のが 遠藤。
・・ なのですが、どういうわけか その時は そばにも行かず、ですから さわりもせず 話もしなかったのです。
今に至るまで ほんっとに 後悔してます。あれが あれっきりだとしたら ものすごい 後悔度です。そのくらい 後悔してます。そばに行けばよかった、触ればよかった 話しかければよかった・・ と。
で、どうして そうしなかったのか というのを 思い出しながら考えました。
多分 雰囲気です。 その場の情景が そういうことをしないほうを選ばせたんだろう・・なんて 思っています。
どういうことかと言いますと、えーっとですねー・・、
沢山人がいました。わいわいがやがや ざわざわと、いっぱい 人がいました。
土曜日の夕方で 一日天気もよかったので、海からの帰りの人たちなどもいて、いつもよりも ざわついていました。
そして、信号待ちの人は 本の少しの間に 列ではなくて 塊のようになって そこに集まり溜まっていました。
でも ロバさんに気付いた人は それほどいなかったように思います。
流れは 全然 ロバさんと関係なく 普通に流れ、普通にとどまり また散って・・を 繰り返していました。
何人かの声が あれ?ロバじゃない? あ、ロバだー。 ロバがいるよ、何でロバなんだ?なんて 言うのが聞こえましたけれど、だからといって 例えば 写真を撮るとか、そばに行くとか 花を買うとか 立ち止まって ロバを見るとか・・そういうの 全然 なかったのです。
遠藤は 信号待ちの間 ずーっと ロバさんを見ていました。
それこそ 穴の開くほど 見ていました。でも 近づかないでいました。
なんとなく そこだけが ほんとに パステルカラーのメルヘンに思えて。
なんていうんでしょうねー・・、そこの、ロバさんとおにーさんと花が 木の下にいる という、それだけで なんか まわりと世界が違っちゃってるように 見えたのです。
背の高いおにーさんは 人の流れを 遠くのものを見るかのように 両足を少し開いて 両手のこぶしを腰にあて、じっと ロバさんのそばに立っていました。
で ロバさんは、そのおにーさんのそばで 下においてあるなにかを もしゃもしゃと 食べ続けていました。
ロバさんの背中の花たちが ロバさんが もしゃもしゃするたびに ゆらゆらして、ついでに ちょっと 吹いてくる風にも うなずいたりして・・ なんか そこには 横断歩道の合図の曲もなければ、人びとのせわしい足音や話し声、車のクラクションや電車のアナウンスなども なんにもなくて、まるで 絵本の中のイラストのように、ただ そこに あったのです。
で、遠藤は そういう雰囲気、その世界に あえて 近づかなかった・・んですね。
それは 多分、今から思うと(ですけれど)だれか一人がそばに行って 当たり前のように ロバさんをなでたり 話しかけたり 写真をとったりしたら、そこから おにーさんとロバさんの世界はほころんで、人がなだれ込んでいくような そんな気がしたんですね。
そして そのほころびのとっかかりには 自分は なりたくなかった・・んです。
ただ それだけのことで・・、この 書いてきたこと 全部が おそらく 完全に すっかり 遠藤の勝手な思い込みだろうということは 分ってるんですけど、
つまり・・、その世界がだれかをきっかけとして ほころぶなんてこと ありっこない、そうだとしたら、おにーさんは お花を売るという お仕事が出来ないでいるままなんだ、ってことは 十分 分ってるんですよ・・
それでもね、それでも どういうわけか そう思ってしまった。
で、ただ 信号待ちの間だけ じーっと 穴の開くほど ロバさんを見つめていた、に留めたというわけです。
どこまで メルヘンなんだ 自分! と (人より先に)突っ込みたい気分ですが、
だって ロバとメルヘンなんて 嵌りすぎでしょう・・ 笑っちゃうくらいに。
でもねー、そういうの 突然 町中で 遭遇してみれば 分ると思いますよー。多分。。
余談ですが・・ おもってしまいました。
あのロバさん、あのおにーさんの家で 飼われてるのかナー・・
ロバ小屋があるのかなー、ロバの部屋ってのがあるのかなー、一緒に住んでるのかなー・・
毎日 お食事 どうしてるのかなー・・、お風呂 入ってるのかなー・・
ロバさん、人間いっぱいと 犬とか猫とか 鳥とかしかいないところで たった一人(?)で だいじょうぶなのかなー・・ などなど。
「寂しいかもしれない」 と おもったら・・
やっぱり こんど もしまたあったら、今度こそ 声を掛けてみよう、そばに行って 触って 話しかけてみよう、そして お花を買って、またね と いおう と 思いました。
(あ これ、全部 ロバさんに ですから、おにーさんに ではありませんから。)
・・ しかし、いつから 逗子の駅前に ロバさんが いることになったんだろう???
でも 楽しみが増えて 結局 うれしい遠藤です。
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