昔 足柄山に 山の神様に仕えるひとりの山姥が おりました。
ある日 山姥が 山歩きの途中で 腰を降ろして休んでいたところ、日差しも心地よく 風も柔らかだったので、つい ごろりと草の上に寝転んで 転寝をしてしまいました。
そうして、山姥は 夢を見ました。
夢の中で 山姥は、見上げた空が 一点にわかに掻き曇り、突然 天が開けたかとおもうと 赤い竜がずいっと顔を出し、ぎろりとこちらをにらんだのを 見ました。
赤竜は そのまま、天から自分めがけて ものすごい勢いで 降りてきたので、山姥は びっくりして 飛び起きました。
目が覚めると、あたりは 夢の続きのように 風は激しく吹き、山が砕けるかと思うほどの大音響で雷鳴が起こっていました。
そのものすごい音に 思わず 立ち上がった山姥は
、歩き出そうとして、自分のおなかが膨らんでいるのに気づきました。
これは一体どうしたことか と おなかをさすってみると、なんと
おなかの中に 子がいるではありませんか。
それでは、雷神の子を身ごもったか と 山姥はいそいで 自分の小屋に帰って こもりました。
それから、しばらくして 山姥は 一人の元気な男の子を産みました。
山姥は 男の子を 金太郎 と 名づけました。
金太郎は
赤い竜の父である雷神から赤い肌と強い力を、山の神に仕える 山姥からは、心の優しさを受け継いでいたので、よちよち歩きが出来るころには もう 力が強く、重いものも 当たり前のように持ち上げたり、動かしていました。
そして、少し大きくなると 母親を助けて まき割りや水汲みなどの力仕事を 一手に引き受けるようになりました。
金太郎は 外で遊ぶのが大好きでしたので、山の動物たちとは とても 仲良しでした。
だから、金太郎が 水汲みやまき割をしていると、いつの間にか 回りに クマやうさぎ、鹿やりす、さるやいのししなどが 集まってきては
「金太郎さん、まだ おわらないかい?」
「はやく 一緒に遊ぼうよ。」「今日の相撲は 勝って見せるからね。」
などといいながら 金太郎をせっつくので、やっぱり 遊びたい金太郎は
「それなら、みんなに手伝ってもらわなくちゃ。一人でやっていたんじゃ なかなか 終わらないよ。」
と いって、みんなに まきや水を 少しずつ持たせて、一緒に 家まで運んでいきました。
家に着くと 金太郎は お母さんに言いました。
「お母さん、みんなと 遊びに行きたいんだ。いいでしょう?」
「ああ、行っておいで。でも きっと 途中で おなかがすくだろうから、ほら コレを持っておいき。」
お母さんは 金太郎と仲間の動物たちのために たくさんのおにぎりを持たせてくれました。
みんなは 喜んで 急いで 山の上まで 駆け上っていき、そこで 相撲をとったり 鬼ごっこをしたり、おなかがすくと お母さんが持たせてくれたおにぎりを みんなで食べたりして 日が暮れるまで遊びました。
いつも元気な金太郎は、少し大きくなったとき お母さんに言いました。
「おかあさん、私は もっと 沢山の木を切ったり、畑を作るために なにか 使いよい道具がほしいのですが、何がいいでしょうね?」
するとお母さんは 大事なものが入っている箱をあけ、これを使うとよいだろうよ、と 大きなまさかりをみせて 言いました。
「やあ、これは いい。おかあさん ありがとう。このまさかりは どうしたのですか?」
金太郎は 普通の大人がやっと持ったとしても 振り上げれば まともに立っていられないほどの重いまさかりを 軽がると担いで見せながら お母さんに聞きました。
「これは、お父様から 戴いたものなのですよ。お前のお父様は 雷神さま。その雷神様のお道具が このまさかりなのですよ。」
金太郎は それを聞いて とても 自分を誇らしくおもいました。
それから 金太郎は どこへ行くにも まさかりを担いで行くようになりました。 山では よく まさかりを担いだ金太郎が クマにまたがって ゆうゆうと 行き来する姿を 見かけるようになりました。
そうして、金太郎は どんどん 大きくなっていきました。
ある時、源頼光という侍が お伴の者たちを従えて、足柄峠をこえているとき、ふと 見上げた山の上に 赤い雲がたなびくのを見つけました。
「あれは 稀に見る者が ひそかにすんでいるという印だ。」と言って、家来の渡辺綱に その人物を探し出して つれてくるように と 言いつけました。
綱は 数人の伴を連れて 急いで山を駆け上って行きました。
果たして 綱が そこで見たものは、赤い体の少年が 自分の身の丈よりも ずっと大きなクマを相手に 相撲をとり、赤い顔を さらに赤くして えいや!っという掛け声とともに 投げ倒しているところでした。
渡辺綱たちは それをみて 大層驚きました。
「いやいや、これほどの力持ちは そうそういるものではない。これは 急いで 頼光様のところへ 連れて行かねばなるまい。」
そして 渡辺綱は 少年に 声を掛けました。
「これ、お前、名はなんという?」
「私は 金太郎 と もうします。」
金太郎は あまり見かけない 身なりのよいお侍が 自分に声を掛けたのをふしぎに思いながら 答えました。
「今、私は お前が大きなクマを投げ飛ばしたのを 見た。わが殿、源頼光様は きっと お前の力を喜ばれ、お引き立てくださるだろう。是非 お前に わが殿に仕えてもらいたいのだが、親御殿はどちらか?」
「私は 幼いときから 母と一緒に暮らしてきまして、父の顔は知りません。今のお話が 本当ならば、どうか 母にあってやってください。母は ずっと 私が立派な方にお仕えすることを 雷神様にお願いしているのです。」
渡辺綱は それを聞いて、親思いの優しい少年だ と思い、少年の導きに応じて 金太郎の母親、山ノ神に使える 山姥のところへ 挨拶にいきました。
金太郎の母親は 綱の話を聞いて 大層 おどろきましたが、これで 息子が十分 もてる力をもって 立派な方にお仕えすることが出来る と 喜びました。
「この子は 雷神様が私の胎を通して 世に導き出した 世の中のためになる子です。そのため この子の力は 人のそれを超えております。どうか お殿様には よろしくお導きくださいますよう、心からお願い申し上げます。」
そして、金太郎は つましい身支度を整えると、懐かしい 大好きな母親や友達の動物たちと分かれて、都に のぼっていきました。
それから、都で 源頼光様に使えるようになった金太郎は、名を 坂田金時 と改め、渡辺綱や碓井貞光、卜部秀武と一緒に、様々な武勇を働き 源頼光の四天王 と 言われたそうです。
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