昔、イギリスのノーフォークの片田舎に、大変正直者だけど ちっとも お金に縁の無い男がいました。
男の家は、とても古くて、雨漏りなんかは当たり前、風が吹けば 家の中も外も、大して変わらないくらいに、寒くなるほど、隙間だらけでした。
庭には ちいさな畑もありましたが、そこも もともと 土地が悪かったこともあり、今では すっかり 作物もできなくなってしまっていました。
でも、その男が たった一つ、自慢している物がありました。
それは 家の裏の 一本の大きな樫の木でした。
さて、あるとき 男は、どうにかして お金を作らなくてはならない事情ができたので、隣近所の畑の手伝いや 頼まれごとなどをしようと、村の一軒一軒を 尋ねましたが、なにしろ その村そのものが 人に仕事を頼めるほどのゆとりもないのでした。
困った、どうしたらいいのだろう、と 男は 毎日 思い悩みながら、目を覚まして 一日中を過ごし、そして そのことを思い悩みながら 蒲団に入って寝る ことを繰り返していました。
男は 以前から 寝る前のお祈りを欠かしたことはありませんでしたが、このところのお祈りときたら、神様 お願いですから お金を下さい、なんとかして お金が工面できるようにしてください・・ という、そんな願い事ばかりになってしまっていました。
そんなある日、男は 三日続けて 同じ夢を見たのでした。
夢の中では 白い髭を生やした 白い服のおじいさんが、男に向かって 何度も同じことをいうのです。
「ロンドン橋に行け。ロンドン橋に 行くのだ。そうすれば お前に必要な物が 手に入るぞ。」
夢ですから・・。ほんとに 単なる 夢なのですから、男は 変な夢を見たナー くらいにしか 思っていなかったのですが、それでも 三日も 寸分たがわず 同じ夢を見続けるのです。
これは なにかあるのでは・・? と 多分 あなたも おもうでしょう・・ ?
そして、男は 生まれて初めて 故郷を離れて 街にやってきたのでした。
大きな街というものを はじめてみた男は、とにかく その 人の多さと、にぎやかさに どぎまぎ。びっくりしたり 面白がってみたり、大忙しです。
すれ違う人に 何度も聞きながら、ようやく ロンドン橋に やってきました。
それにしても、なんと ロンドン橋は にぎやかなことでしょう!
大きな橋の袂にも、橋の上の両側にも、たくさんのいろいろな物を売る店が どこまでも続き、人々が 忙しそうに、店を覗き込んだり、店の人と話し込んだり、あるいは お茶を飲みながら、あるいは 音楽に合わせて 踊りながら、買い物などを 楽しんでいました。
夢の中のおじいさんは ただ ロンドン橋に行け、としか言いませんでしたので、男は 何をするでもなく、最初は 珍しがって かたっぱしから 店に出たり入ったりして いましたが、一日中 そんな風にしていても なにも、起こりませんでした。
二日目も また 同じように 朝から 橋の上を 行ったりきたり・・、なんども 繰り返して 一日が終わりました。
三日目。さすがに やっぱり 夢など信じた自分が おかしかったのかもしれない、と 思い始めた男は 今日一日 橋で何も起こらなかったら、仕方ない、もう 家に帰ろうと きめました。
そして、また 朝から 何度も 橋の上を 行ったり来たりしたのですが、ある店の前を通りかかった時、男は 誰かに呼び止められました。
「おい、お前さん。」
それは そばの店の亭主で、男に向かって 手招きをしていましたので、男は なんだろうと思いながら、店に入っていきました。
亭主は 椅子を指差して 男に腰掛けるように言うと、小さなコップに ぶどう酒をついで 男に差し出しながら 言いました。
「おまえさん、一体 なにやってるんだね? お前さんは 今日で三日も この橋の上を 行ったりきたりしているようだが・・?」
「ああ、ご亭主、そうなんだよ。それが 実はね・・」
男の話した夢の話を聞いた店の亭主は、それを聞くと、大声で笑っていいました。
「あんた、ほんとに お人よしだねー! 夢を見たからといって、わざわざ こんなところまでやってきて、それも 三日も 夢を信じて 居続けるなんて。
一体なんだって 夢の話なんか 本気にするんだね? そんな奴 どこにもいないさ。
いやいや、わしだって 夢は見るさ。 うん、実は わしも このところ 三日続けて夢を見たけどね。」
「え? 一体 どんな夢です?」
「それがな、笑ってしまうんだが、ずっと 遠くのノーフォークのど田舎の 一軒の家に なんだか すごく大きな樫の木があるとかで、その木の下をほれば 宝が見つかるっていうことなんだけど、いやいや、わしは、だからといって そんなところへまで、出かけようなんてお人よしなんかじゃあないわい。」
男は それを聞くと 一目散に 故郷のノーフォークに戻っていきました。
そして、裏庭の樫の木の根元を、一生懸命 掘りました。
すると・・! あったのです、古い大きな木箱が。
「ああ!やっぱり 本当だったんだ!ありがたい、やあ ありがたい!」
樫の木の下から 掘り出した箱の中には、たくさんの金貨や宝石が こぼれるほどに 入っていたのでした。
それから 男は 家を建て直し、村の人達を呼んで お祝いをし、神様へのお礼をこめて、樫の木のそばに 教会を立てたそうです。
夢を信じる、というよりは、神様のお告げを信じたものには、よいことが あるのですね。
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