B-Note   U


B=H♭ ; B=美

B=子供の自然な基調音 & 遠藤が構えずに声を出すときのキー音、

Note=音;記録;書き記す;遠藤がおもいつくまま書き残していくもの・・・

B-Note=”美しいもの”の記録


初夏
5/24 シークレット・サプライズ
6/18  真昼行

優しい季節
4/30  春の畑で
蝉の目覚め時
 

 

B-NoteT  B-NoteV  B-NoteW  B-NoteX  B-NoteY B-NoteZ

 


 

2003/8/16

 

今日一日が とても 長くてながくて 
ひと息ひと息が 後悔と情けなさで 満杯になっている

あんなに大事にしてくれている人なのに・・

 

いっそのこと この頭の中から 一切の記憶をなくしてしまいたい
それほどに 私は 過去にとらわれてしまっている

言い訳めくので そして あまりに情けないので
人に言いさらすなどできないことばかりだけれど
そんな諸々の積み重ねで 今の自分も在るのだと思うと
これまた 涙が出るほど かなしく たまらない思いになる

 

お詫びをします

あなたが 帰ってきたときに ちょっと 安心してもらえるよう
実際には すっかりあらゆることを消し飛ばしたわけではないけれど
でも いつまでも こんな風だと あなたを苦しめるばかりで・・

だから 私がパニックになるたびに 
どうしていいのかわからなくなって 疲れてしまうあなたのために
柔らかな 慰めの花を 描いたのですが・・

 

見れば見るほど 柔らかなはずだった 慰めのための花は
鮮やかに エキセントリックに 自己を主張する

やさしげな ダブルピンクのトルコ桔梗を選んだのに
なぜか 私が描くと まるで スパニッシュダンスのドレスのように
華やかにして 人をあざなうがごときものになってしまう

 

まさに こころは 偽れない

言い換えて 馬鹿正直といえなくもないが・・

 

あなたは これを見て なんと言うでしょう・・?

 

今から 落ち着かずに 
だから また これからの時間のひと息ひと息が
せわしく 悩ましいものになってしまうことだろう・・

 

それでも 私は あなたに謝りたいと 思っています

ごめんなさい

 

 


2003/.8/17

 

 

朝 起きぬけの空気は
 
まだ 何日も続いた 季節外れの雨の記憶を引きずっていて 

思わず袖を通したGジャンも それほど 重くは感じなかったのに

一時間ほどの仕事を終えて戻るころには 

もう 薄日のぬくもりに 軽く汗をかいていた

 

早くからあいている 小さなお気に入りのパン屋で

まだ 焼いて間もないパンをいくつか買い入れ

大きな白い紙袋の口に 香ばしさを求めて鼻先を近づけては

その あたたかなおいしいにおいに 

早起きをした 三文の得を 喜んでみたりする

 

ふと かすかに・・
 
肌に触れる冷たさを感じて 思わず 空を振り仰げば

久方ぶりの日の光が ライトグレーの雲間から

光のしずくのように ひそやかに 霧雨となって 降り注いでくる

 

撒き散らされる 金色の光くずは

湿り気を含んでもなお清涼な風にゆられる 

なめらかな紗のカーテンとなって

山の木々の緑や そこここに咲き乱れる花々 

寝ぼけて 慌てる鳥たちを

そっと やさしく 包み込みつつ なだめている

 

 

 目を泳がせて 空を くまなく探したが

求めていたものは見当たらず・・・

それでも そんなあれこれに出会えた朝を

思わず知らず 微笑みながら 迎えずにはいられなかった

 

探し物には出会えなかったが

私の中には 

夢の中のように あわやかな

遠い虹が 明るく 見えていた

 

 


 

2003/8/23

 

どこのきつねのよめいりか

あかるく すずしいあめがふる

 

おひさま まつかぜ せみしぐれ

みんながそうでで おみおくり

 

ひとけのたえた このみちを

ぎょうれつのかげが よこぎった

 

ゆめまぼろしの ごいっこう

びびしく りっぱに おこしいれ

 

ひゅうっとかぜが はせさんじ

ぎんしのあめを つれてった

 

みちのぬれあと けすように

まなつのように ひがおちる

 

どこのきつねのよめいりか

あかるく すずしい あめがふる

 

 


 

 

2003/10/01

 

10月はじめの朝は この年のこれまでの

そして 昨日までの

奢りと慢心と 傲慢と虚栄のかたまりを

コレほどにまで抱え持っていても

 

空は すっきりと 抜けるように青く

いくつものあかとんぼを泳がせて 

乾いた かろい風がふきすぎていた

 

なにもかわらない

これまでと 10月の一日は なにも かわらない

 

わたしのなかで コレまでうまく扱ってきたはずの

薄いガラス様の皮膜のある透明な器に

たまりにたまった 奢り 高ぶり 慢心 虚栄などの煮詰りが

昨日の夜 いくつかの亀裂が入った と思ったら

あっという間にはじけ壊れて 

中のヘドロが勢い良く溢れ出し 

そこ ここに 飛び散り 

広がり ・・・

 

自分が 判らなくなるほど パニックになり

苦しさの自覚もないほどの後悔の念で

この体を保っていることも ままならならないほどだった

 

目がさめて 朝の来ているのを知っても

相変わらずの 自分

 

10月はじめの朝は

コレまでと 何も変わらず

少しだけ さわやかな涼しさを忍ばせて

遠く 高みにまで光の届く青空に

自由に 気ままに 風を飛ばして 遊んでいる

 

 憐れみと 慈しむかのような 面差しで

くだらなくも みっともない過ちをあかず繰り返す私を

しずかに 見つめおろしているようで・・

 

こみ上げるものを こらえながら見上げた 揺らぐ空を

まぶしさを やわらげるかのように 薄く やさしく

雲が 行く

 

 


 

 

2003/11/03

 

タッタカター タッタカター カチャカチャカチャカチャ タッタカター

トモタコチンは カッタカター 

夜中になると カッチャカチャー

パソコン相手に カッタカター

ひとりでずっと カッチャカチャー

カチャカチャカタカタ タッタカター

カチャカチャカタカタ タッタカター

 

タッタカター タッタカター カチャカチャカチャカチャ タッタカター

トモタコチンは カッチャカチャー

夜中に一人で カッタカター

何にも お耳に入らない

私のことも 忘れてるー

カチャカチャカタカタ タッタカター

カチャカチャカタカタ タッタカター

 

布団の中は あったかい 

もすこし ぽかぽか ほしいかな

一人でいるから ちょっとだけ

 

お仕事だから仕方ない

それでも やっぱり つまんない

もすこし ぽかぽか ほしいのにー

 

タッタカター タッタカター カチャカチャカチャカチャ タッタカター

トモタコチンは カッタカター 

夜中になると カッチャカチャー

パソコン相手に カッタカター

ひとりでずっと カッチャカチャー

カチャカチャカタカタ タッタカター

カチャカチャカタカタ タッタカター

 


 

 

2003/11/10

 


大きな欅の向こうには 真っ赤に染まった木が見える

目をその下に泳がせば 欅にぽっかり穴がある

太い幹から生まれでて 細い小枝が並んでる

 

月夜の晩にはその枝に 小さなものが 腰掛ける

電車や車を見やりつつ 家路を急ぐ人 ながめ・・

 

月の光は明るいが 穴の中まで とどかない

小さいものは ふたつみつ 足をぶらぶら 座ってる

 

やさしい風がそっと吹き 欅の葉っぱが のびをする

一瞬 光に照らされて 小さいものたち 消えていく

 


大きな欅の向こうには 真っ赤に染まった木が見える

目をその下に泳がせば 欅にぽっかり穴がある

並んだ小枝は だれのもの? 小鳥にリスに・・・・・

 

 


 

2003/12/23

 雪深い山の中から 
乾いた風の吹く地へやってきたその人は
静かで力強い話し方をする人でした。


 『そのころのベトレヘムは 夜は乾いた冷たい風が吹いて とても寒かったそうです。そして 厩(うまや)というのは 現在のもののように整えられたものではなく、家畜の糞尿の匂いやそのものがそのままにされていたりして、決して 清潔な場所ではないし、匂いもきついし、何より 暖かな場所というものでもなかったようです。

 つまり 生まれたばかりの赤ん坊を寝かして置けるようなところではなかったし、それより先に 人がお産をするようなところでも決して無かったのですね。

 アウグストゥスという名には たたえられるべきもの というような意味があるのですが、そのころのローマ皇帝であった彼は、人々に自分を畏れ敬うことを 強く要求した皇帝でもあったといいます。
 人が人に 自分を敬うことを求めるというのは、究極の自分最優先ー自己中心的な考え方で、そのための社会的制裁まで考えて実行するなど、大変 自分勝手なことですね。

 壮健でよく働く”正しい人”といわれたヨゼフは、臨月を迎えたまだあどけなさの残るマリアを連れて、その支配する全土の民の頭数とそこから搾取できるはずのものを知っておくために行われた人口調査と銘打ったアウグストゥスの命令に従って、
長く体にきつい旅を続けて、やっとの思いでベトレヘムにたどり着きましたが、そのときには その小さな町にあふれかえる人々に先を越されたため、彼らには 泊まる場所がどこにもなかったといいます。

 そして 最終的におなかの大きなマリアを見て、気の毒に思った一人の宿主から、それでもよければ ということで、その宿の厩を借りることになったのですね。
 先にもお話したように 寒くてじめじめして くさくて不衛生なその場所に、ふたりは休息の場を得、マリアはまもなく産気づき、無事に男の子を産みます。

 そのとき あちこちの家のひつじを束ねて、野犬や狼から羊を守るために、一晩中 火をたいて寝ずの番を生業とする羊飼い達は、突然 光とともにやってきた天使達によって、自分達の身近なところに 救い主が生まれたことを知らされます。

 羊飼いというのは 当時 まともな人間のする仕事ではなかったのですね。いわゆる 一般の社会人とは認められない、段階があるならば、下層の人たちのすることの一つだったようです。そういう 人間的に見れば 軽蔑の対象、取るに足らないものたちに向けられて、天は 彼らのためにも救い主が現れたことを、まず一番に告げ知らせたわけです。

 彼らは急ぎ、告げられた場所に行きます。
 そこで 彼らの見たものは なんだったのでしょう?
 きっと 彼らは こんなところに・・?というようなところで、家畜の匂いやその息遣いの満ちる中、貧しい夫婦に見守られて、何の特別な用意や祝い物もなくて生まれたばかりの、小さな赤ん坊を見たことでしょう。

 そんな頼りなげで 何の力もなく 見た目もあやうげで粗末な人々を見て、だれがこの世を救うものなどと思うでしょう。

 でも 貧しく とくにこれという教養や学問もなく、生きるに日々追われるような羊飼い達は、その知らせの不思議や 言われたとおりのことを目にすることで、たちまち その真実を信じ よろこびます。 

 世の中がまるでカオスに飲み込まれたかのようなそのころの混迷と 無秩序や非業が絶えずそこここで繰り返される現代の私達の今とは 何か似通ったものを感じ取ることができます。

 クリスマスというと いろいろな絵画などにあるような 麗しい情景を思い浮かべますが、実際は おそらくそういうことは 多分なくて、先にお話したような状態であったろうと 推測されます。

 いま この時代にあるからこそ、私達はクリスマス=クリストの生まれたことを祝うこと=の意味をきちんと知って、その意味を考えてみることが必要なのではないかと 思うのです。

 どんなときにも 絶えず神に在って喜べ(神に希望を見よ)という言葉の意味を深く心に思い、混沌とした 先の見えないくらい時代にかすかに存在し続ける 小さな しかし 確かな光を、決して見逃さないように、注意深くありたい。その気づかれないほどの光を見出そうと試みることをいとわず、見つけ出した光を 大切に 次の人へと手渡せるよう、こんな時代だからこそ 注意深くありたいものだと思います。』

 雪深い山の中から 
乾いた風の吹く地へやってきたその人は
そういう話を ささやくような穏やかな声で
静かに語り終えました。

 

もし 私の手の中に 小さなその光の一片があるのなら

どうぞ もっていってください

少しは 明るいでしょうし それに

ちょっとのあいだは あったかいかもしれないですから・・

 

クリスマス おめでとう

 

 


 

 

2003/12/31

 

いっぱい失敗した

いっぱい 後悔がある

いっぱい いやな思いがあって

いっぱい 思い出したくもない みっともないことがある

 

たくさん なさけないことをして

たくさん 哀しい思いをして

散々に もうできない という切迫した状態になった

 

危なっかしかったし 
よくもまぁ なんでもなかったものだ と思うようなこともあった

もう これ以上は 自分ではどうしようもない 
というところまで きたこともあったし

なんにも する気が起こらずに
呆けたように 自分を放りっぱなしにしていたときもあった

 

体も望んだようには 動かなくなったり

こんなはずはない というほど
思うように自分がありはしなくて 

その変化に どうしていればいいのか
途方にくれるようなときもあった

 

けっして それらが あと2時間ほどで過ぎていくとは 思ってないが

でも やっとの思いで ここまでやってきたのだ

 

いきてきたんだなぁ・・と 思う

 

よいものとの出会い、よい心とのふれあい
楽しい時間をともにすごし、一緒にすばらしいものをみる

やさしい思いと あたたかなぬくもりと
愛らしい微笑と たっぷりとした慰め

静かな思いやりと 黙っていてくれる心遣い
そっと手を添えてくれる穏やかな思いやり

 

飾らずにすごせるときにあって
それらが 胸いっぱいに広がって ついには
私そのものを すっぽりくるんでしまうような・・

やさしてくしてもらったんだなぁ・・と 思う

 

それらが あと2時間ほどで過ぎていくとは 思ってないが

でも そうやって 今日にまで来ることができたのだ

 

いきてきたんだなぁ・・と 思う

 

本当に 人は 一人では生きられないのだろう

そんなこんなの一年を振り返るだけで そう思えてしまう

 

なんと 多くの 慈しみの支えがあったことだろう・・

 

そのひとつ ひとつが すべて 取るに足らない
たいして コレという目立つ存在であったり 役に立つものでもないという
この私にすら 行われたことなのだ

 

本当に すべての人に
すべてのひとりひとりに

愛は 存分に注がれているのだ と・・

充分に こんな私にでさえも 沁み入るように 解せること

 

だから 

ありがとう 

と 感謝して

そして 私に行われたように 私も

出会う人ごとに 行っていこうと

 

それが 私の 2004年への希望

愛することを 惜しまないように 生きていきたいと

今 新しいときを迎えるにあたって 思っている

 

 


 

2004/2/19

 

日差しは あかるい

 

用心して冬物コートのまま表に出た自分に降り注ぐ光が
時期ハズレを 見せ付けるような 良い日よりにもかかわらず
いらいらして 仏頂面した 不機嫌な風は
駄々をこねて 暴れまくるこどものように 
やたらめったら あちこちにぶち当たりつつ
ときどき こんな私にさえも そのわけのわからない癇癪をぶつけてくる

私は 風の的外れな怒りを真っ向から受けて
心身 ほとほと 疲弊しきって やっとの思いで 仕事場に着く

 

なんなのよー! 私 かんけいないじゃん! やなやつだなー ・・ ほんっとに

 

扉を閉めて 風を締め出し ドアの向こうで
飽かず わめき散らしている礼儀知らずの 変わらぬ行為に ため息をつく

鏡の中の私は 恐ろしいやらおかしいやら・・
それこそちんけな格好のひどい頭が 息を詰めて歩いてきたために
赤くなった顔の上に乗っかって しかめツラのまま むっとして自分を見返している

 

アー いやんなる  まったく 風の日は いやになる・・ 

 

手と目を洗い 口をすすいで 髪にブラシを当て 
ぱっぱっと 自分の体のあちこちを払ってから 部屋に入り
やっと 一息つきながら 熱い紅茶を一口飲むと

それでも そんなやからにも ちょっと同情できるような 気持ちの余裕ができる

 

そのせいか・・ 

ふと 目をやった 隣家の庭の ちいさな白梅が 日にますます白く
巻き上がるほこりすらも 相手にせずに寄せ付けないまま 凛と立つその姿勢に
さっきまで 風如きを相手に 本気で 不機嫌に苛ついていた自分が
やけに ちっぽけに やけに 低劣に思えて 

誰もいないのに 一人で なにやら居たたまれない気持ちになっては
言い訳がましくも 下手な強がりの独り言を吐いたりして なんとも
なさけないおもいになってしまう・・・

             −−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

必ず そこを離れなければならない

どんなに 思い慕っていても そこを離れなければならない

そのことへの 心 絞られる思いが 誰にも理解されない苛立ちとなって

人の世を 上を下への大騒ぎに追いやるような 
そんな 哀しい騒ぎを引き起こしている・・

 

大陸からの風は

すさまじい勢いとなって 季節の変わるを告げるためだけに

この小さな極東の国を訪れる

 

あっという間に駆け抜けて 

このさきに 陸地のないを知るからこそ・・

  思えば思うほど きっと かなしい・・ きっと はらだたしい・・

 

誰一人 自分の姿を目に留めようともしない

だれも 神代の昔から そして 永遠の先まで・・

誰一人 だれひとり・・・ 自分を見知るものはないのだ

 

この哀しみが この寂しさが 風を 苛つかせ 暴れさせるのだ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

冗談じゃない!

手で触れることもなければ 眼でみることもないくせに
人をここまで めちゃくちゃにしておいて 
自分を誰も知らないなど・・!

よくもいえたもんだ

 

もしも 手で触れ 目で見ることができたなら
きっと お前を捕まえて 私と同じ思いを味わわせてやる

もっとも 私の場合は 

暴れまくるというよりは そこへお前を縛りつけ
頼もうが脅そうが どんなに懇願しようとも 
決して 私が納得するまでは 一時も休まずに
言葉と声とで ずっと長いときを 私の愚痴を聞かせるさ

連れ合いが どれほど私の思いを理解せず また 応えようとしないかを
綿々と言い続けて 疲れさせてやるさ

お前が 好き勝手に 自分の愚痴を 
国中にばら撒くよりは ずっと 何倍も かわいいもんさ

 

だから・・・

さ 行きなよ

あんたをしらないわけじゃない・・

私達だって おんなじさ

こんなにひっどい頭にしてくれたんだ

わすれるわけ ないじゃないか・・

 

みんな あんたを知ってるよ

みんな あんたとおんなじさ

 

人だって だれにも 知られることもないことが
一人にどれほどあるものか・・

誤解と曲解の中で それでも 笑って生きるより
一日 荒れまくって めちゃくちゃ引っ掻き回すほうが
どれほど正直か知れない

 

もう 二度と再び 決して会うことはないけれど・・

何かの時には きておくれよね
きっと 私は 憶えているからさ

 

真っ正直で 青臭い 子供みたいなあんたのことを ね

 

 

 


 

2004/3/31

 

 

頼るべき 

大地さえぎる 岩もろとも

強く掴んで 

春 

さらに 深く根を張る

 

 


 

 

2004/04/02

 

 

気の進まない用事のために

一日働いて疲れて頼りなげになっている日の落ちきるころ 

 

そんな薄暗がりの中を

まるで しかられて 泣くなく言い付かったことをしに行くような気分

少し哀しく 少し腹立たしく そして 大分やけっぱちの気分で

坂の上の目的地まで とぼとぼと歩いていく

 

無事 すべきことをし終えた後は

すっかり暗くなった空の わずかに残ったいじけたような明るさに向かって

雨雲の不気味に近づくを

まさに 自分への仕打ちを目でるような思いで眺めながら

できるだけ早く 戻りたい一心で ひたすら坂道を下っていく

 

すれ違う車の勢いで 

湿った風が自分めがけて吹きつければ

ますます哀しく ますます情けなく・・

うら寂しい宵闇の中 うっすら涙も沸いてくる

 

・・・だれ?

そう問うまもなく それが誰だか知っていたその優しい手は

ほんのわずか すっと その前を通り過ぎる一瞬を捕らえて

半べそをかいている小さな子供をなだめるように

私の髪を 愛しげになでてくれた

 

振り返って 見上げれば

先の散々な雨にも打ち勝って

この闇の中 

誰に見せるでもなく 自信と誇りに満ちて 

長の時を様々に耐えて生き抜いてきた桜が

その一枝の

私に触れたことを わびるかのように

控えめにたたずんでいる

 

軽くうなづき ありがと とぶやいて

久しぶりの笑顔を 桜に向ければ・・

ほうっと ため息のようにほころばせるつぼみからは

柔らかな香り

咲き続けた花々のひと群れからは

花あかり

 

下る道々 連なる桜並木は

その桜に倣うてか

香りとあかりで 行く先を導いてくれる

 

ただいま   おかえり

あのね さっきね あるいていたら

桜の木がね・・・

 

 

 


 

 

2004/05/24

 

 

たぶん 

だれも 見ていなかったと おもう・・

 

なにもかもが まだ 眠たげで 動くことさえ わずらわしげな早朝

ただ 黙って 朝の勤めのために 腰掛けていた自分の目の中で

ふと なにかの動きを感じたような気がした

 

たぶん だれも きがつかなかっただろうと おもう

 

ほんのわずかな空気の揺らぎのためなのか・・

あるいは 何人かの 人の呼吸が届いたのか・・

(いやいや あれは おそらく そのものが

その命の故に かすかな 動作を行ったのだろう)

 

たぶん だれも 知らないと おもう

 

大ぶりの美しい イリノイベルの

時をかけて 深みに その色を蓄積してきたような
濃く あでやかな ぽってりとした赤い花びらは

ともすると 下品になりがちな
湿り気のある はっきりとした鮮やかな黄を中にして

まるで 深く呼吸した後の 伸びのように

 

ほんのわずかずつ 

 

すこしずつ・・

 

そして いっぱいに 花びらを広げて
 
惜しげもなく その美しさを さらけ出した

 

きっと 

だれも 気が付いていなかったと 思う

 

たまさか いちばんちかくにいた自分にだけ 知らせてくれたような

そんな スペシャルな 

わくわくするような ちょっとした秘め事のような 

日曜の朝が

あった・・・

 

 


 

 

2004/06/18

 

 

緑濃い木の下には

水入りの空気が 流れている

 

ほんのちょっと 通り過ぎる

その間だけは 一瞬 ひんやり

・・・ 深々と 息をする

 

しばらく続く木陰を通る 君の背にこぼれる木漏れ日は 

底から見上げる 水面に落ちる日の光のよう・・

 

明るい日差しを受けて 先を行く君は 

そのきらめきの中

ゆらゆらと 心地よさげに波間を漂う

海中の生き物のよう・・

 

人が 海から生まれたのにも 

きっと わけがあるに違いない

・・・ なんて 熱にやられた頭の中では

もっともらしいフレーズが 行き来する

 

光の飛び交う 梅雨の晴れ間の真昼行

 

緑濃い 木の下には

ひんやりとした かつての海の名残水が

いまもなお そのきらめきと共に ながれている・・

 

 

 


 

2004/07/29

 

 

なんだか・・  こんなものでいいのかな・・?

それ バッグ?

なんて聞かれてしまったくらいに小さくて 
言われてみれば 確かに 手で持つような かわいいバッグのよう・・

 

普段 そばにそういう人がいないから
本に書いてあった通りの寸法どおりにしていくと
なんとも 頼りなげで あまりに小さな・・
こんなもので 用を成すのかとおもうくらいの
ちっちゃな かわいいものになってしまう

縫い始めれば 糸の始末やら ゴム通しやらを含めても
ものの30分もかからずにできてしまうくらいに
簡単で単純 そして 可愛くて楽しい・・

 

これを着た小さな彼女のことを思う

むっちりした太い足や華奢で丸い肩
ぷくぷくしてさわり心地の良い腕 を剥き出しにして
お気に入りのピンクに
満面の笑みを浮かべている様子が目に浮かべば
つぎは あれを、そのつぎは これも・・と
頭の中は 自分のイメージのちいさな彼女のファッションショー

 

こういうことができることが うれしい

こういうことで 彼女の喜びのエッセンスを贈れるのは 幸い

ただ かわいくて ただ たのしくて・・

なんのそれ以上のもくろみもない

 

プレゼントといいながら 

じつは それは 作っている私への 贈り物にほかならない

 

こういう シンプルで上質の”時”が持てるのは

何にもまして しあわせなこと と 

だれもいない一人の時間を幸せに過ごせることに

ただ 感謝する自分が うれしい・・

 

 


2004/10/15

 

大型台風に引き続いた秋の長雨が 少々途切れた 秋晴れの今日

今日こそは さっぱり乾くぞと 久しぶりに洗濯物を 外に干す。

 

窓を開けたまま 風を通し

乾いた空気で 部屋をさぼさせ

きらきらの光で 床をみがかせる

 

向かいの大きな欅の葉は そろそろ端がちぢれはじめ

虫の音に合わせるように 少しずつ 色も変えているような・・

 

久しぶりの穏やかな秋の午後は

まだ目にしていない なじみの山の紅葉や 

くたびれてだるそうにたゆたう とろんとした海、

暑気を失った日の光を浴びつつ歩く 里の風情など・・

季節の楽しみを思いめぐらす 静かな午後

カーテンがゆれるたびに 光の子達が 床の上で踊る午後

 

水気のない季節へさえも 世界は 楽しげに移ろう・・

 

 


2004/11/20

 

11月は 眠り月

ぽっかりと ふと気の抜けたような時がある

なにかとなにかの・・ それぞれなんだかはっきりとは分からないけれど
その間に 無重力地帯のような・・ そんな時がある。

 

いつもきれいな着物を着て、粋で ちゃきちゃきしていて
よく笑い、よくおしゃべりし・・・
大枚はたくを小気味よくやり、忙しい忙しいといいながら
くるたび 世間知らずのまま大人になった頼りない化粧品の販売員に

「あんたさ、こういうときはこうしなくちゃ。」
「女は いつも ちゃんとこぎれいにしてなくちゃいけないよ。」
「化粧直してきな、ほら きれいになったじゃないか。
いつもそうしていなくちゃいけないよ。」

と。。あれこれ気にしてくれた 置き屋さんの主さん。

 

「遠藤さんには品がある。」
なかなか 人を受け入れられないので 
相談して買い物をしたくても そうできるところがどこにもなくて・・
とおっしゃっていらした京都育ちのM夫人。

それが どういうわけかこちらを気に入ってくださって
ご趣味という手焼きの湯飲みをいただくまでになり・・
ちょっとした通りすがりにも 必ず声をかけてくださったり
こちらを下に見ることなく いつも 丁寧に接してくださって
そのありように 私こそが様々に学ばせていただいた。

 

「あんたさ、これ 好き?」

いつも陽気なしめちゃんは 年金をもらい始めると
「年金もらって給料もらってじゃ悪いから・・」と
まだまだ充分働けたけたし、やめて欲しいとも言われなかったのに
潔く 長いこと務めていた仲居さんの仕事を辞めてしまったけれど、
お嫁さんを おかあちゃんと呼び、細かな気遣いをしつつ
好きなタバコとパチンコは ちゃんと続けていたっけ・・

そして 帰り道 私のいる店の前を通ると
そそっと 私のそばによって 後ろを向くと 私にも同じ方を向かせ、
「あんたさ、これ 好き?」
と パチンコの戦利品を手渡してくれる。

自分じゃあんまり食べないという甘いものを
私のためにとってきてやった といって
「ありがとう!」といって喜ぶ私を うれしそうに笑って眺めていた・・

 

心配性で、こまめで 気遣いの上手な 優しい奥様のOさんは
お手入れをしながら 「ねぇ〜、遠藤さん」と 話し掛けられる。

ちょっと 口の周りにぷつっと小さな吹き出物ができた、
昨日の夜 ちょっと息苦しかった
この間食事しに行ったところが すごくおいしかった
ご主人のご趣味のマラソンなどのために 夏は軽井沢に泊まりっきり
これ、いくらだと思う?○○円の価値 あると思う?
ねぇ、やっぱり この化粧水のほうがいいのよね?・・・

お話は尽きず・・・、とうとう お宅でのお食事にまで 招かれてしまったり。

裕福さを匂わせずに それとなく 人を気遣うことが出来た方・・・
笑い始めると なかなか とまらなく、
涙が出始めると これも なかなかとまらなかった方・・

 

そそっかしくて あわてんぼうで やさしくて きれいなMs.O.

いらしてくださると 職場中に 陽気な笑い声が絶えなくて・・
そして 情深くて、暖かい思いがいっぱいの
素敵な可愛いおばあちゃまになられて
ますます 柔らかな心の温かさがあふれて尽きなかった素敵な女性。

慣れ親しんだ葉山を離れる時 是非にと お食事に誘われて
私のつたない話を 身を傾けて聞きながら
真剣に 私という人間を知ろうとなさってくださった方。。

 

単なる 化粧品店のしがない一販売員に訪れてくださったお客様たち。
やさしい 暖かな励ましや、女が女を認めてくださることの価値を
きちんと知らせてくださった 私のお客様たち・・・

遠く この海辺の町を離れても尚 思い出される方たち

いまは もう すっかりこの世のしがらみから逃れて
きっと それぞれのお好みの世界に 楽しく集っておられるであろう方たち・・

 

私を作って下さった すべての優しい心の方たちを

この 11月に 思い出す。。。

 

11月は 死者の月

思い出を懐かしみ、思い出に励まされ、
その慈しみに 再び くるまれる。。 

ひと呼吸のような 眠り月  

 



 

 

2004/12/17

 

西日をさえぎる目の前の小さな丘のてっぺんにある
鮮やかな黄色と真っ赤な色の木の葉に向かって

今日の最後の太陽の光が届く

薄暗くなった谷間の小屋から見えるそれは
まるで そこだけが祝福されたように 金色のごとく輝いて

別天地を見るような思いで あこがれる

磨き上げたガラス窓には一点の曇りもなく
それまで何気なしに見ていた諸々にも

それぞれに明暗のあるを 知る

 

あちこちの家々の窓に明かりのともることなのに
まだ差し残る日の光を惜しんで

それが澄んだガラスを通り抜けてくるのをだまって見ている

世の中を 明るく見たいものだ
世の中を 透かして見たいものだ

明日はカーテンを洗い床を拭き、さっぱりとした日差しを
清く この小屋に 迎え入れよう


そうしたら ここにも、この薄ら寒い谷間のひつじ小屋にも
輝く日の光のかけらが ほんの少しでも飛び込んでくるだろう

まるで 丘の上の赤や黄色の木の葉たちのように・・・

 

 


 

2004/12/29

 

大きな綿雪が ぽてぽて はらはら 降りしきる

 

じっと眺めていると 時間の逆行を感じる雪の流れ

少しずつ 気がつくたびに 窓の手すりのかさが増す

荒れて久しいこの世の闇を すっぽりとくるむように

天から 静かに無言の白の軍団が舞い降りる

 

寒さ、冷たさと引き換えの、不自由と引き換えの美しさ

それと分け知るこのごろなれば

ふと聞えてくる子供達のはしゃぎ声が

はるかかなたの昔のことのように思われる

 

こんなにも美しく こんなにも夢見ごこちになれる雪を

素直に楽しみ、喜ぶことに 後ろめたさを感じることが

年経ることの、生きてきた証にもなるのか・・・

 

それでも そうであっても

空を埋め、山を覆い、枯れ木宿り、屋根に降り積み、

草花を眠らせ、地に満ち行く 白の軍団。

 

ひとたびの夢を許すか

厳しさを耐える思いに応えて・・・

 

 


 

2005/01/24

 

パンを焼く パンを焼く

甘味の香る パンを焼く

特別素敵なパンを焼く


さらさらの粉に魔法をかけて

あれやれこれやら混ぜまくる


ついでに呪文と念も入れ

力をこめて 練り込める


可愛く じょうずに 形にし

こんがりきれいに焼きあげて


あとは どうぞ と差し出すのみ


お味はいかが? すきかしら?

一緒に食べれば 尚 おいしい


真冬の午後さえ暖かく

そろそろ 魔法の効き始め・・


パンを焼く パンを焼く

甘味の香る パンを焼く

特別 素敵な パンを 焼く


あなた仕様の パンを焼く

 



 

2005/02/19

 

甘くないコーヒーは だめ

でも ミルク入りも だめ

インスタントなら 薄くて 甘いコーヒーが 好き

チャント入れるのなら 濃いコーヒーを 少しだけ・・

きちんと甘くして

 

ジャズが 好き

騒々しいものやあまりにそれらしいものは 好きじゃない

しっとりと落ち着いて でも 楽しくて一級品のジャズが 好き

 

明け方から降っていたという雪もすっかり消えて

寒さと冷たさだけが まとわりついている

 

今日は ひとり

朝から 半日 一人きり・・

 

明日の仕事の準備のあいまに

(一本だけ残ったさつまいもをオーブンに放り込んで 焼きながら) 

モダンジャズクァルテット/ファイナルライブのCDを かけ

大きなカップに インスタントコーヒーを入れ 

気に入りの香りと音色に浸りつつ  

ゆっくり そっと 飲んでいく

 

思い出すあれこれ・・・

思い巡らすさまざまの出来事

思い描く たくさんの夢

 

香りと音色を粉々に砕く 電話の音に 覚まされるまで・・

 

ジャズが 好き

しっとりと落ち着いて でも 楽しくて一級品のジャズが 好き

そして 今は

 インスタントの 薄くて 甘いコーヒーが 好き

 

 


 

2005/04/30

 

青いかわら屋根の平屋に住むその老人は

小さな畑を持っている。

 

長く冷たい季節を経て  時は春・・

こじんまりとしたその畑には 

ねぎあり キャベツあり さやえんどうあり

トウのたった背の高すぎる菜の花あり・・ 

間にひと筋 耕されたばかりの土が盛り上がってもいる

 

周りを数軒の家や幾種類もの木々で囲われたその畑で

その一人暮らしの老人は 白いシャツで せっせと動き回っている

 

黙々と・・ ものも言わずに地に向かい

緑に手をかけ、茎を束ね、実を摘むためにかがむ彼の背近くに

白い蝶が ひらひらと これもせっせと羽を動かしている

 

一日の盛りを過ぎた暖かな日差しと 緑を帯びた穏やかな光

時折思い出したように吹き過ぎる 少し夏の匂いのする風の中

 

数羽の小鳥のさえずりと遠くからもれ聞えるようなピアノの音が

白いシャツの老人の 静かな手際の良い仕事を 

やさしく 

背後からそっと 柔らかな布でくるむように 聞えている

 

一日の仕事を終えるころ

畑の向こうの煙突から 静かに薄水色の煙が立ち昇る

 

まきをくべて焚く老人の風呂の湯は

きっと 春の日差しのように 暖かいことだろう・・・

 


 

夏の初日   2005 7 19

 


昨日 気象庁は梅雨明けを宣言した と・・


今にも泣き出しそうな 分厚い雲の下
風を失った空気は ただただよどみ
何かを待っているかのように 微動だにせず・・

ひぐらしの 山に響く夕暮れ時

槇をくべて沸かす風呂の煙も
所在なさげに ただ ゆるゆると昇り・・
             ふと 途絶えてしまう

 

目の前の畑には 主が一人
わずかな動きで野菜などの手入れをしながら 少しずつ
             位置を変えていく
その触れるところ以外 ほんの小さな薄葉さえ 動かない


むっとする湿った熱気の中
家々は夕食時だというのに
道向こうの店々にも 人の気配なく 忘れられたように静まり返っている

 


昨日 気象庁は梅雨明けを宣言した・・と


その翌日の 熱の重みをずしりと背負った今日
なにもかもが 何か大切なことを忘れたように
                 途方にくれてたちつくす

 

よどんだ熱気を 切って払うかのように
あるいは 自らを持って 風を起こそうとか・・
数匹のシオカラトンボが いらだたしげにせっかちに飛び交っている

暑さに負けたか 力のない油蝉の鳴く声を 乗り越えて

すずやかな ひぐらしの声が 山に響く・・

 


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