1月のお話 「金の糸と虹」
いつからか 森の入り口の 大きな木の下で その男は イスに腰掛けて 静かに本を読んでいました。そばの木の枝には 「何でも つくろいます。」 と書いた 小さな看板が かかっていました。 いつも男は 昼をすぎる頃になると そのたくさんの繕い物を持って 森の奥へ入っていきました。 男は そのうちの一番細い光のそばにイスを置くと、胸のポケットから 小さな虹色の針を取り出し、そっと光りのすじをすくいとりました。たちまち その針には、キラキラと輝く とてもきれいな糸が通っていました。それから 男は 黙って 村人達から預かったたくさんの繕い物を せっせと 修理し始めました。 次の日になると 男は 預かったものを全部修理して、森の入り口にやってきました。
村人達は 前よりももっとたくさんの繕い物を持って 待っていました。 そのうち 村の人々の間では あの男に直してもらったものを 身につけると、なんだか 心が軽くなって楽しくなる、といううわさが立ち始めました。確かに 言われてみると つくろってもらったものを 持ったり、使ったり、着たりすると その日一日が なんとなく うきうきと過ごせることが 誰にも分かってきました。 その日も 男はいっぱいの繕い物を持って 森の入り口にやってきましたが、みんなにそれを渡しながら「きょうは お返しに来ただけです。」といい、全部を返し終わると 何も預からずに 森の奥にきえていきました。 それから 何日たっても あの男は現われませんでした。 あるとき 村に ものすごい土砂降りの雨が降りました。それこそ 天が破けたかと思うほどの ひどい降りでしたが、そんな雨がいきなりやんだものですから、人々は そろそろと 表に出て 空を見上げました。 すると きれいに さっぱりと洗いあがった青い空に、お日様の光を受けて キラキラ輝く大きな虹が 空イッパイに かかっていました。 虹を見上げた村人達の 誰というともなしに、話は あの男のことになりました。 それから人々は 虹を見るたびに あの男のことを思い出して、心楽しく 暮らしていったということです。 |
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このおはなしは ご存知でしたか? 中学か高校かの時に 引越しか何かで 本の整理をしていたところ、この本が現われて、ふたたび この話を読み、もし 将来仕事をするようなことがあったら、この男のような仕事をしたい、と思ったものでした。 まさか 日の光りを針に通して 繕い物をするということをできるとは 思いませんでしたが、それでも 自分のやったことが 何でもいい、だれかのしあわせになれば・・、と そのときから 密かに思ってはいました。 なぜ それほどの記憶が無いのに ”昭和26年に〜”なんて 憶えているのかといいますと、その年は 私の生まれたとしだからなんですね。そして 最初に読んだときは 思わなかったのですが、半世紀も前に 優秀な若い女性が これからという時に 視力を失って、いったい どうして こんな夢のある、美しい話を書けたんだろう?と 今回 ここに書きながら 思ってしまいました。 私もそうでしたが、何かが人と違うということは、当時の日本では 今よりももっと 大変な扱いを受けるのは必至でしたし、まして 五感の一部を失うわけです。今よりももっと 社会的な不安は 大きかっただろうと思うのです。そうした中で なぜ こんなに柔らかなものを書くことができたのか・・、とても 知りたいと思いましたが、読み返したついでに読んだあとがきには 「佐々木さんの 深い信仰が これほどに優れた児童文学を書くに至らしめた。」というようなことを 武者小路実篤氏が 書いていたと思いました。 修繕上手な「あの男」は 一体 何者だったのでしょう? 2002年が スタートしました。 |
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