7月のお話    むかしのきつね

 むかし
 美作(みまさか)というところへ向かう 峠に 一軒の茶店がありました。
その茶店は 喜平という おじいさんが一人でやっておりました。

 喜平さんは 毎朝 はやくから 店をあけては 峠をこえて行く旅人たちのために おいしいお茶とお団子を作っておりました。 旅人たちも 喜平じいさんのお団子が楽しみで 必ず 峠の茶店に 立ち寄りました。

 あるとき いつものように いちにち 忙しく働いた喜平さんは うすぐらくなって ひと気のなくなった峠道を見ながら そろそろ 店を閉めようとしたくをはじめていました。

 すると そこへ 立派ななりをしたお侍が ひとりで 馬もなしに ぶらりと店に入ってきて、どっかとこしをおろしました。そして 「やぁ じいさん、ずいぶん歩いてのどが渇いた。どれ お茶をいっぱいもらうとしよう。そうそう ついでに お団子もくれないか。」と いいました。

 喜平さんは はいはい とこたえて したくをしようとして お侍の顔を見て あっと 思いました。お侍は とても立派な着物を着て きれいなはかまをつけ、刀もふたさお ちゃんとさしていましたが、どうにも 顔が妙なのです。
  目が釣りあがって 鼻と口がとがって前にせり出していますし、耳が なにしろ ずいぶんと上のほうにあって それも とんがっていました。

 喜平さんは ははぁ これは やまのきつねどんだな・・ と 思い、ちょっと 脅かしてやろうと思いましたので、明かりを強くして たらいに水を張り お侍のところに持っていきました。
「さぁさぁ 長いこと歩かれて さぞ お疲れのことでしょう。このところの雨不足で 道もほこりっぽくなっております。お侍様 きれいな水を用意いたしました。どうぞ お顔をお洗いなさいまし。」

 すると お侍は喜んで 「やれ ありがたい。それでは・・」と 水をつかおうと たらいに顔を近づけましたが、そのとき 水に映った自分の顔を見て「きゃん!」と ひと声叫んだかとおもうと おどろいて ぴょーんと飛びのいた拍子に たらいをひっくり返し、一目散に茶店を飛び出すと あっというまに 暗闇に姿を消してしまいました。

 喜平さんは たらいを片付けながら おかしくておかしくて、なんども きつねの驚いたときの様子を思い出しては 笑いこけました。 

 さて 翌日 喜平さんは 山へたきぎを取りに行きました。
そして これだけあれば当分は大丈夫 という量を背負って さぁ かえろう としたとき、山の中から「きへいさん、きへいさん。」と 呼ぶ声がしました。

 喜平さんは 立ち止まって振り返りましたが 誰もいません。
すると 喜平さんを呼び止めた声はいいました。「きへいさん ゆうべはおかしかったね。」
 喜平さんは くすっとわらって こたえました。「ああ すぐにわかったさ。」

 そして 喜平さんは j昨日のことを思い出しながら てくてくと楽しげに歩いて帰っていきました。


 このお話は ご存知でしたか?

 原作は すっごく 短いです。ですので 例によって 遠藤が少々 創作していますが、内容は まったく そのままです。
  この話の最後には 実は ちょっと但し書きのような部分があって 「むかし ひともきつねもこうしてなかよくくらしていたときがあった ということです。」 という 文章がついています。

 別にお互いの生活に茶々を入れるでなし 引っ掻き回すといったところで 茶目っ気のあるちょっとしたことが かえって お互いの生活にはずみをつけていたり・・という そうした間柄のことを言っているのだとおもいます。

 仕事場の裏の 広かった駐車場に 瞬く間に3階建ての家も含めて 9件の家がひしめき合って建ったのは つい先日のことです。(あと一軒 また 3階建てができるそうな・・) 
  できたな とおもったら わらわらと小さな子供たちが増えて その嬌声は 今まで静かに暮らしていた隣近所には 耐えがたいもののようですが、開け放された窓から聞こえる 聞きたくもない電話の会話や 奥さんたちの立ち話・・、はては 昔からのお宅が迷惑していることについての けんか腰のやり取りまで・・、ただ 聞こえてくるだけで 何でこんなに疲れるか・・ と思うような そんな日々が続いています。

 この話を毎月のお話にしようと思ったのは そんなこともあって、同じ人間同士なのに 個の尊重だか 何の権利だか、もう なんだっていいから とにかく そこにすみたいのなら 何とかうまくやってくれよ という気持ちがあったからなのです。

 狐と人間が うまくいっていたという昔があった ということを思うと、なんとも 世知辛く 情けない―だって だましたところで 人には笑って済ませるだけの気持ちのゆとりというものが合ったはずなのに―つまらない世の中になったものだと 思ってしまいました。

 ま これは 私流の考え方ですね。私自身は 野生動物の保護に積極的であるとか 人と自然の共存を強く訴える とか ものすごくあるかというと いいえ あんまり そういうのはないんです。
  でも 普通に暮らしていても たまに 自分と違う形態のものの存在が ごく 当たり前に思えるときがあって それが とても 自分の生活を豊かにしてくれるときがある というのを知っているので つい こんな話を まともに受けて 書いてしまったというわけです。

 なんだか 子供っぽい いいわけのような あとがきになりましたね。
でも やっぱり おんなじ地面を踏んでいるものどうし できれば うまくやっていきたいものだと 私は 思っています。

 あなたは どう おもいますか?

 

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