4月のお話

わたしたちのアデルおばさん
   アデルおばさんは 森の入り口から ちょっと奥に入ったところの 緑の屋根のかわいいおうちに ひとりですんでいます。

  おばさんは この家に もう ながいことすんでいて、わたしやおとなりのピエロは、一週間のうちのはんぶんの午後を おばさんのところで過ごします。
  おしゃべりだけでなくて お天気のいい日は、歌をうたって 森の中のきいちごをつんだり、きのみをさがしたり、ことりの巣をなおしたり、川にひたしてつめたくしたベリーソーダを取りにいったり、雨の日は おうちの中で絵を描いたり、本を読んだり、おばさんのぬいものの手つだいをしたり、ときどきは おばさんのひみつのレシピで おいしいおかしをやいたりします。

 わたしたちは おばさんに 学校であったことや友達のこと、その日勉強したこと、パパやママのことやわたしのネコのショコラの赤ちゃん達のこと、ピエロのお兄さんのアンリやお友達のゾーイのこと、わたしのおばあちゃんの病気のことや、お手伝いのマリーのこと、おみやげにもらったおもちゃや本のこと、学校から帰るときに ポケットに入れてもってきたきらきらのビーだまや蛇のぬけがら(これは ピエロ)のことなど・・ たくさん お話をします。

 アデルおばさんは いつも にこにこして まぁ!とか おお!とか おやおや とか あらぁ すてきだわねぇ・・なんていいながら 楽しそうに聞いてくれます。

 ところで。。 きょうもおばさんの家にいくつもりで、森のそばを通ったら、アデルおばさんが 大きな買い物バスケットをもって、でかけるときには いつも着る黒いジャケットと、ひな菊のリースのむぎわら帽子をかぶって 出かけるところだったの。
 ピエロが「いってみようよ。」っていうので ふたりでおばさんの後についていくことにしました。

 おばさんは とても いそいでいて、わたしたちは おくれないようにするのでたいへんだったわ。でも しばらくすると おばさんがむかっているところが どこだか分かったので わたしたちは 近道を通って さきまわりをすることにしました。

 やっぱり おばさんは 町で一番大きな マチルダおばさんの店にやってきたわ。
マチルダおばさんのお店には いろんなものがあって、わたしもパパやママが買い物に行くときは かならずいっしょについていって キャンディーやきれいな絵本や新しいノートやかわいいハンカチなどを 買ってもらうのが 大好きなの。

 アデルおばさんがお店にはいってしまったので おばさんが 何のかいものをしているのか 窓から見ようとしたんだけど、おばさんは すぐに 重そうな買い物バスケットをかかえて お店から出てくると マチルダおばさんが「それじゃ、アデル、おめでとう。」といい、おばさんは「ありがと、マチルダ。あとでね。」とわらってこたえて また 急いで 通りをよこぎっていきました。

 ピエロとわたしは顔を見合わせて言いました。「おめでとう? なんのこと?」

 わたしたちは また 急いで ちかみちをして おばさんの家の近くの道で おばさんを待ちました。
  しばらくすると アデルおばさんが 真っ赤な顔をして 戻ってきました。
「おや、ピエロにエレナ。ちょうどよかったわ。さぁ 手伝ってちょうだい。きょうは 忙しい日なのよ。」 

 わたしたちは なにがはじまるのか わくわくして おばさんについていったわ。

 おばさんは 家の台所に入ると すぐに ジャケットと帽子を脱いで エプロンをつけ、わたしにも エプロンをつけるようにいったので、わたしもピエロも おばさんの作ってくれた 白いエプロンをつけました。

 窓とカーテンを開けて、テーブルの上を片付け、それからオーブンをあたためはじめました。そして 買い物バスケットから 茶色いふくろと白い袋の粉をとりだして、真っ白で大きなボウルの中に それぞれをカップで1杯ずつ、やまもりにして入れました。
 つぎに おばさんは「これは 魔法のひとふり。」といいながら 赤と黄色の小さな缶の粉を スプーンで2はい、砂糖をカップで1杯分いれて、おおきな泡だて器をピエロに持たせると、 めちゃくちゃにかき混ぜないことをやくそくさせて 粉を良く混ぜるように いいました。

 アデルおばさんは 私には 少し小さめのボウルを持たせて 中に 卵を6個 割りいれました。そして 白っぽくなるまで よくかきぜてね といいました。
 わたしたちは おばさんのてつだいができることがうれしくて 一生懸命 混ぜました。

 その間 おばさんは 柔らかくしておいたバターにカップ1杯のお砂糖を入れて練っています。三人の混ぜものが出来上がると おばさんは それを一つにして、冷蔵庫から取り出した 大きなビンに長いこと漬け込んだフルーツミックスを何回もスプーンですくって 入れました。
  腕まくりをしたおばさんは それをみんないっしょに ざっざっと 混ぜて、黒いビンのお酒を振りかけると(これは おばさんが特別な日のためにとって置いているのを 私達 知っているの。) 用意してあった 天板の上にのせました。
 
  そして 上手に 大きなクリスマスのリースのような形にすると、ピエロとわたしに 好きなように飾り付けをしていい といって、くるみやプラムやチェリーやアンゼリカなどのたくさんはいった缶のふたをあけてくれたの。
 わたしたちは そのふたが開くのが とっても楽しみなの。
もちろん おばさんは こういうのよ。 「そうね、よくはたらいてくれたから すこしなら つまんでもいいわ。」  

 オーブンから あたかな甘いにおいがしてくるころ、わたしたちは ちょっとつかれておばさんのいれてくれたレモンのお茶を のみました。
 それから おばさんに言われて 居間のかたづけをしました。わたしは ちゃんとやったけど ピエロは わたしが片付けると すぐにちらかすので しまいには 大きな声で でてって といおうと思ったくらいよ。

 「アデルおばさん、できたわ。」と いいにいくと、おばさんは にこにこしながら 台のうえにならべられたごちそうのお皿を二つもつと、「いっしょにはこんでちょうだい。」といいました。
 「アデルおばさん きょうは 何の日なの? なにか とくべつな日なの?それとも おきゃくさまなの」 と わたしは ききました。だって 居間のテーブルの上には 真っ白な布がかけられ、きれいにししゅうされたナプキンと ぴっかぴかにみがかれた ナイフやフォークがなれべられていたんですもの。 でも おばさんは たのしそうにわらうと いまにわかるわ といって また 台所に入っていきました。

 そのとき ドアが開いて、「こんにちは、アデル。」といって マチルダおばさんが入ってきました。でも マチルダおばさんも にこにこしながら 「まぁ、ピエロにエレナ、ごくろうさまね。」といいながら すぐに台所に入っていきました。それからすこしして アンリとゾーイが いろんな色の花を沢山まとめた花束を持ってやってきました。

 そのあとは わたしのパパとママが お手伝いのマリーとご主人のジャンといっしょに 「アデル、おそくなって ごめんなさい。」「きょうは おめでとう。」「もう 手伝うことはないのかい?」「あなた、コートをぬいで。」などといいながら はいってきたので、わたしはびっくりしました。

 「なんなの?」「きょうは いったい 何のお祝いなの?」
わたしたちが いっしょにたずねたとき、台所から エプロンをはずしたアデルおばさんとマチルダおばさんが でてきました。
 「みんな見て。エレナとピエロが こんなにきれにかざってくれましたよ。」おばさんは そういいながら、テーブルの真ん中に わたしたちがてつだってつくった 大きなフルーツリースケーキをおきました。それには ローソクが何本か立てられ、ゆらゆらと火がゆれていたの!

  パパとアンリが うたいだし、つづいて ママとマリーとそのご主人とゾーイが それにくわわりました。
 「おめでとう おめでとう。 おめでとう わたしたちのアデル。 いつもやさしいアデル。きれいでたのしいアデル。 おめでとう おめでとう。おめでとう、アデル。幸せなきょうは あなたの誕生日。」

 わたしとピエロは 顔を見合わせたわ。
  誕生日だって!?でも 何も用意していないわ。 

 びっくりしたり こまったりしているわたしたちのまえで アデルおばさんが ろうそくを吹き消すと、みんなは わぁっといって 手をたたきました。
 そして それぞれのおさらに おいしいお料理をとりわけ、みんなで乾杯 といって ワインのグラスをあてあうと、おしゃべりや笑い声のまじった たのしい食事が始まりました。

 「ピエロ、エレナ。きょうは てつだってくれて どうもありがとう。とても 助かったわ。あなた達がいつも わたしのいえにやってきて いろんなお話をしてくれたり 一緒に楽しい時間をすごすことができて わたしは 本当に とても 幸せなの。うれしいのよ。あなたたちが わたしの家にくるのを とめないでいてくださる エレナのパパやママ、ピエロのお兄さんのアンリやゾーイ、そして マリーたちにも わたしは とても 感謝しているのよ。だから 今日のわたしの誕生日は どうしても あなたたちといっしょに 過ごしたいと思っていたの。みなさん わたしの大事な日を 一緒にすごしきてくださって ほんとうに ありがとう。」
 「お誕生日 おめでとう!アデルおばさん。」

 その日は いつもよりもずっと おそくまで 黄色いドアのある 森の入り口から ちょっと奥に入ったところの 緑の屋根のかわいいおうちのなかで わたしたちは いつまでも たのしく ゆかいに過ごしました。
 わたしたち アデルおばさんが だいすきなの!


 このお話は ご存じないはずです 
が、おはなしなんて どんなものでも ちょっとは 何かと似ているものです。
 この話が 何と似ているかなんて 考えなくてもいいんですよ。今回は 遠藤が脚色ばかりしているお話ではなくて すっかり あたまっから 作ってしまったお話をすることにしました。

 舞台をフランス風にしたのは この話のヒントになった方が フランス人にそだてられたからで、その方が 小さいころのわたしに「フランス人はね、自分の誕生日には 自分でご馳走を作って 沢山の人を呼んで、”きょうは わたしの誕生日です。皆さん どうぞ 一緒に祝ってください。”っていうんだよ。」と 話してくれたからで・・、それが本当なのかどうかを確かめる気もないのですが・・(中学、高校と フランス系のミッションスクールだったのに・・!!どうして 一度も 聞かなかったのかな・・?)とにかく、そんなことをふと思い出したので、今回は それを形にしてみました。

 まぁ 遠藤のすることなので たいした話でもありませんが、「森の入り口から 少し奥に入った家にすむ ひとり暮らしのアデルおばさん」は 決して 創り上げただけの人物ではありません。
 ゆくゆくは かく言う遠藤も そうなるかもしれない すべての人に可能性のある人物像のつもりで書きました。ただ こうだといいな・・ という 望みをこめて です。

 つまり 忘れ去られていないひとり暮らしの社会的弱者 とでも言いましょうか・・、どう忘れられていないか というと、一週間の半分の午後を たずねてくれるものたちがあり、一緒に食事をしたり、おいわいをしたり、 楽しむ時間をもてること。

 そして さらに 彼なり彼女なりは 訪れる人の楽しみをもち、なぐさめや励まし、そして 経験からの智恵を与えられること。

 そんな 交互の行き交いがあることを これからのわたし達の姿のひとつとして、思い描いてみたかったのです。

 アデルおばさんは にこにこして 子供達の話を聞き、一緒に行動したり、自分で何かを計画して 実行し、それに 参加してくれる人たちを持っています。
 それが なぜだか を 考えれば、いくらかは よりよい者 として、ひとりの暮らしも 多少は楽しく生きられるのではないだろうか・・ と ちょっと考えてみたのですが・・

あなたは どうおもいますか?  

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