5月のお話   ねずみ嫁入り

 むかし、ある村に ねずみの庄屋様が住んでいました。
大変なお金持ちで 願ったことがかなわないことがないくらいでしたが、沢山の子供達がそれぞれ嫁をもらったり、嫁いだりしていった後に残った、一番可愛がっていた最後の娘の嫁入りのことでは、毎日 頭を抱えない日はないくらい、その嫁入り先を探すことに 大変悩んでいたのです。

 「もちろん、娘にはしあわせになってもらいたい、これから先、いろんな苦労させたくはないし、なにがあっても平気でいられるようであってもらいたい。そのためには この世で一番えらいお方に娘をもらっていただくしかない。」 庄屋様は そう思ったので、それでは と世の中で一番強いお方が 一体どなたなのか、一生懸命考えました。

 そして、アレコレ考え抜いた末、なにもかもを高いところからご覧になって、それがなければ、世の中が暗く冷たくなって、食べるものが出来なくなるという、たいそうな力の持ち主であるお日様が、一番えらいお方なのだ と言うことになりました。

 そこで、庄屋様は お日様のところへ行って、どうか 娘をもらってやってください と丁寧にお願いしました。

 すると、お日様は ニコニコと笑って 言いました。
「ああ、確かに私は何よりもえらいだろう。でも、こんな私にも 勝てない相手がある。」
「え?!それは どこのどなたで・・??」
「雲さんさ。雲さんは どんなに私が頑張って あたりを明るく暖かくしようとしても、ほんの少し、私の前にいれば、私の光は もう みんなのところへは届かないのだから・・。」

 なるほど!と庄屋様。それでは と 雲さんのところへやってきました。

「雲さん、雲さん。この世で一番えらいお日様さえも翳らせることのできる強いあなたに、どうか娘を嫁にもらっていただきたいのです。」 庄屋様は丁寧にお願いしました。

 すると、雲さんは こういいました。
「ああ、それは確かなことではあるが、でも私にも勝てないものがある。」
「え?!それは どこのどなたで・・??」
「風さんさ。風さんは どんなに私が頑張ってそこにいたくても、あっという間に私を吹き飛ばして 思いもよらないところへわたしを連れて行ってしまうのだから。」

 なるほど!と庄屋様。それでは と 風さんのところへやってきました。

「風さん、風さん。この世で一番えらいお日様さえも翳らせてしまう雲さんを、ひと息で吹き飛ばしてしまう強いあなたに、どうか娘を嫁にもらっていただきたいのです。」

 すると、風さんは こういいました。
「ああ、それは確かなことだがね、でも 私にだって勝てないものがあるんだよ。」
「え?!それは どこのどなたで・・??」
「それは 壁さんさ。壁さんは どんなに私が頑張って強い息をふきかけても、一向 倒れもせずに、しっかりたっているんだから。」

  なるほど!と庄屋様。それでは と 壁さんのところへやってきました。

「壁さん、壁さん。この世で一番えらいお日様さえも翳らせてしまう雲さんを、一息で吹き飛ばしてしまう風さんの強い息にも耐えて踏ん張っている強いあなたに、どうか娘を嫁にもらっていただきたいのです。」

 すると、壁さんは こういいました。
「ああ、それは確かなことだが・・、でも 私にも勝てないものがあるんだな・・。」
「え?!それは どこのどなたで・・??」
「それは、ねずみ、あんた方ねずみさん達だよ。私がどんなに頑張って立っていたところで、ねずみさん達が穴をあけ始めたら、どうにもとめられないんだから・・。」

 さて、ねずみの庄屋様は、なぁんだ、世の中で一番えらいのは 私たちねずみなんじゃないか!といって、急いで家に戻ると、村の中で 一番 強くて優しい、働き者の若いねずみの男を撰んで、大事な娘と盛大な祝言を挙げさせた ということです。


 さて、このお話を知らない方はないでしょう。

 庄屋ねずみのことを、一生懸命でかわいいパパだなー と 私などは思ってしまう。
結果的には 分相応というか、落ち着くところへ落ち着くわけですけれど、それまでのじたばたぶりがいいんです。

 私たちは、頭の中で考えたり思ったりしたことを、そのまま実行するということが、大人になればなるほど なくなってくると 思いませんか?

 あれこれ、ことの成り行きやちょっとしたシミュレーションをしてみたりして、その損得やら、その時のやり取りやら 何かをした時のリアクションなどを想像してみて、あ、これはやめとこう なんて思ったりしたら、もう ちょっとした思い付きなんて どっかにふっとんじゃいますよね。それって多分 失敗という危険を回避したいとおもうからなんじゃないでしょうか?

 誰だって間違いは犯したくない、失敗はしたくない。それに そうしてしまった時のあのいやな思いや途方に暮れる気持ち、後悔や情けない思いなんか したくないですよね。それは まったくその通りだと思います。

 だけど、そうやってこれまできたとしても、でも ちゃんと「私」って生きてますよね。

 あんまり悩まず、くるしまず、スマートにかっこよく 迷うことなく決めることを決めてさっさと実行できたら・・・、困ることなんて何にもない、悩むことも後悔することもきっとないでしょう。そうできるものなら そうしたいですよ。

 だけど、そう出来てこなくても、「私」って 今 生きていますよね。

じたばたすることも その時は すごくいやで大変だけど、でもじたばたするから分かることって、多分 いっぱいあるんじゃないかと思うんですね。

 (その人のための)時間は (その人が)生きている間中”使っていいよ”とあるんです。
何度でも 失敗したら 間違えたら、やり直してもいいってことじゃないかと 遠藤は思っているんです・・・。 

 だから、じたばたじたばた・・なんにでも 安心して してみようと思います。

 あなたは どう 思いますか?

 

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