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12月のお話 マルチンがおおいに感動した理由
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あたりは しばらくぶりの静けさに満ち、やっと ゆっくりと積もった雪の白さやその冬らしい感触を味わえるようになったように思えました。
まったく・・、彼らは とんでもなく長い時間拘束され続け、やっとのことで解き放たれた囚人たちのように、ただならぬ興奮の大騒ぎを巻き起こしながら、雪崩を打ってそれぞれの古巣へと向かう汽車にぎゅうぎゅうづめになって乗りこみ、彼らを待つ人々のいる家に戻って行きました。 私は 明日は もうイブの日という今日になって、やっとのことで、この先2週間にわたるクリスマス休暇のための準備を始めることができるようになった というわけです。 さて、家に帰る予定の生徒たち全員がすっかり出払ってしまったあと、この休暇中もここに残らなければならない事情のある何人かの生徒たちに声をかけ、あとはもう自分の時間にして良いというときになって、私は、校庭を横切って、ローベルトが住まいとする、菜園の中の払い下げの禁煙車両に向かって歩いていました。 はて? こんな時間に 一体どうして 九柱競技場なんかに だれが用があるというのだろう?とおもい、私は 足跡が向かっているほうに歩いていきました。 建物を囲む柱に頭を持たせかけ、その手すりに腰掛けた一人の少年がいました。 その彼が 一体なんだって、彼をこよなく愛して誇りに思い、彼の帰りを今か今かと待ちわびている両親の元に返るための汽車に乗り込まずにこんなところにいるのか・・、私は あやしみました。 「やあ!」 私は 彼の様子を見て言わずにいられませんでした。 「・・ほかの事を考えていたのです。」 「ええ、そうです、クリスマスのことです。先生」 彼には何か事情があります。私は 話題を変えてみました。 すると・・、彼の目から大粒の涙がすーっと零れ落ちました。 彼は うなずいて 手の甲で涙を拭きました。 「君のご両親は 君が帰ってくるのを待っているのではないのかね?」 「おいおい、それは一体どういうわけなんだ? 「それは・・ 言いたくありません。先生。失礼します。」 彼は うつむいたまま くるりと後ろを向いて 立ち去ろうとしました。 「君は・・、ひょっとして 旅費でもないのかい?」 それからしばらくの間、私は 彼が 雪の積もった手すりに顔を伏せて泣きじゃくるのを黙ってみているしかありませんでした。こういうときは 下手な慰めなど 決して言ってははならないものだからです。 しかし あまりに長いことなかせておくのも良くないので、私はハンカチを取り出し 長年 舎監をやっていますと、こういうことというのは たまにあるものではありますが、マルチンの場合は、やはり その人柄を思えば どうにも切なく 胸の痛むことではありました。 私は 軽く咳払いをして言いました。 「それで。。 君の家まで 一体いくらかかるんだね?」 彼は しばらく 訳がわからないというように ぼうっとして紙幣を見つめていました。 「いいえ! いいえ、先生、それは いけません。」 私は 彼の上着のポケットに紙幣を押し込んで言いました。 「でも、でも、先生。僕は5マークあるんです。母が先日送ってきてくれたんです。」 「おや?君は 両親にプレゼントしたくはないのかい?」 「それ見たまえ!」 しばらく マルチンは もじもじしていましたが、すぐに早口で言い出しました。 「本当に ありがとうございます、先生。でも 僕の両親はいつ先生に借りたお金をお返しできるかわからないのです。父は働き者で働くことがすきなのですが、長いこと職がないのです。僕は復活祭がおわったら、補修してやれる一年生を見つけられると思いますが、それまで 待っていただけますか?」 私は 思い切り厳しい顔をしてみせてから言いました。 彼は 私を見て どうしたものかと考えているようでしたが、ふと 私の手をとって強く握り締めました。私は のどの奥に 小さいな痛みを覚えながら 言いました。 少年はうなずき、そして 応えていいました。 私は ちょっと 小首をかしげ、どういったものかと思ったものの、いいました。 彼は ある感動に 小さく身を震わせて、僕を後ずさりつつ見ていました。 「もういい・・。そう、君たちは 僕に禁煙先生―ローベルトを贈ってくれた。 そして いまだに 立ち去りかねているマルチンの肩をそっとたたき 賢明な彼は ゆっくりと低い声で はっきりといいました。 それから ぱっと振り向くや否や雪の中を転げんばかりの勢いで寮に向かって走り出しました。 彼の後姿が見る見る小さくなるのを見届けてから、私は 校庭の端に向かって ぶらぶら歩いていきました。 それから5人の生徒たちの、困ったときの相談役を長いこと引き受けてきてくれた、私の永の友人、彼らの禁煙先生を訪ね、私たちは もみの木に 金色の鎖をかけたり、きらきら光るくるみなどを止めつけたりしました。
学校の更衣室から飛びだしたマルチンは、居残りのヨーニーに見送られて学校をあとにし、汽車に乗る前に両親のために買い物をしました。 「ヘルムドルフ行き 一枚。」 マルチンは出札係に言いました。 「なにがそんなにたのしいんだね?」 「だって、クリスマスですもの!」 このお話を ご存知の方、多くおいでのことと思います。 ドイツの作家エーリッヒ・ケストナーの代表的な作品「飛ぶ教室」の中からのほんの少々を、遠藤がものすごい脚色をして 2005年最後のお話として 改めてご紹介しました。 脚色というのは すきでする場合と、できれば あまりしたくないんだけど・・ という場合があるのですが、いまは しなくてはならない状況にあるんですね。著作権の問題などがあって・・。 このお話は いくつかある遠藤のお気に入りの中でも 上位ランクに入っています。 そんな10代の若者たちを、彼らを人として導くにふさわしく また 彼らの尊敬を一身に集める舎監のヨハン・ベク先生―今回の遠藤のお話では 彼の目線で書きました―、と 彼が やはり5人の寄宿学校生たちと同じことを経験したときには すでに親友であった穏やかな、5人の少年たちの相談相手、払い下げの禁煙車両に一年中住んでいるローベルト・ウトホフトの二人が、少年たちの世界を尊重し、彼らに一種の敬意すら持って接する日々などをも通しながら、さまざまな 人に必要な「賢さを伴う勇気」を 書き記しているのが、ケストナーの『飛ぶ教室』です。 その 人生に対する真剣で賢明な態度を、彼の本から その登場人物たちのそれぞれの行為や言葉を通して、私たちは 学ぶことができるとおもいます。
さて・・、今年も 最後のお話になりました。 今年は どんなことがありましたか? ケストナー風に 締めくくってみましょうか・・。 『私たちは どんなときでも 正直でなくてはなりません。骨の髄まで正直で。 私が今言うことを よく頭に入れておきなさい。 私たちには 幸せになる義務があるんです。 ひつじ小屋だよりをお読みの方は すでに ご存知ですよね。 良いクリスマスを・・!! そして 勿論 元気でいてください。 遠藤からの お願い です。 2005年12月 クリスマスによせて |
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