4月のお話  黒いさくらんぼ

  ある国のお城に 大変 かわいらしくてきれいなお姫様が、そのお姫様を目に入れても痛くないほどに かわいがっていた王様と暮らしておいででした。

 お姫様は いろいろなことがお好きで、沢山の習い事も とても楽しく学び、なんでもできるくらいに賢くもありました。王様は きれいで賢いお姫様が たいそうご自慢でした。

 そのうち お姫様がお年頃になると、王様は 何につけても 先延ばしにしていた結婚のことを 嫌でも考えなくてはならなくなり、日に一度は そのことで 大変不機嫌になって 周りの人たちを困らせるくらいでした。

 お姫様ご自身は、そんなことには あまり気にならないようなご様子で、毎日 たのしく お勉強をしたり、ダンスや歌を習ったり、お天気の良い日には 御つきの者たちと一緒に お弁当を持って、お散歩に出かけられたりしておられましたが、やはり 賢い姫様です、お父様の気難しいお顔を見れば、どんなに自分のことを心配して、悩んでおいでかということは もう 十分ご承知でした。

 ですから お姫様は、毎日 一日のお仕事を終えたお父様のために、歌を歌ったり、ダンスを踊ってごらんにいれたり、お出かけになられた日には 野山のきれいな花束を差し上げながら 表で見聞きした 面白かったり楽しかったりしたことを、上手にお話して差し上げました。

 王様は お姫様が 一生懸命 そうやって 自分を慰めてくれているのを見ると、ますます 自分の手元から離れていってしまうような結婚など すこしでも 先へ延ばしたい と 思うのでした。

 しかし、そういうことでは この国は この先 もしも王様がお亡くなりになられた時には 滅んでしまい、沢山の民がとても困ることになります。まわりの大臣たちは 一生懸命 なんとかして お姫様のご結婚話を進めようと いろいろな策を講じましたが、そのたびに 王様に 怒鳴られたり 叱られたり、不機嫌になられてしまったりで、毎日 とても大変な思いをしていました。

 お姫様は 繰り返される そうしたごたごたを見聞きするたびに、その美しいお顔を曇らせ 時には涙の雨を降らせて 悲しみ悩まれたので、そのうち とうとう その苦しさから ちょっとした風邪をこじらせて、重い病気になり、日に日にやつれ やせ衰えていきました。

 さぁ、こうなってあわてたのは 王様や周りの人たち、大臣たち。
どんなに良いお話があったとしても かんじんのお姫様のお具合がひどく悪いのでは、結婚どころではありません。その話はさておいて 王様は 国中におふれを出して お姫様の病気を治した者には お姫様との結婚を約束する と言い広めさせました。

 お城付きのお医者様たちは勿論、そのほかにも沢山の医者やまじない師などが おふれを見て お姫様の病気を治そうとやってきました。やつれ衰えていても きれいでかわいらしいお姫様を見た人たちは、ひとめでお姫様を好きになり、何とかして お治しして、お元気になっていただき、結婚したいものだと思ったので、みな 一生懸命 その知恵と知識を振り絞って なんとか お姫様が直るようにと努力しました。

 それなのに・・ だれひとり お姫様の病気を治すことはできませんでした。

 お城中が悲しみにくれているある日のこと。
ひとりの町医者と名乗る男がやってきて、お姫様を診察させてほしいといいました。
もう さんざん 診察をした後でしたので、王様も 周りの人たちも また 同じ結果になるだろうと思っていましたが、その男は お姫様を十分に診察した後、王様の前に進み出て こういいました。 

 「お姫様のお病気は 必ず良くなります。」
一瞬 お城中が しーんとしました。が、すぐに ざわざわと騒ぎ始めました。
それを沈めたのは 王様の「それは 本当か?!」という ひとこと。

 そして 男は 姫様のお病気を治すために必要なものを言いました。
「お姫様に 今必要なものは 黒いさくらんぼです。できるだけ早く、差し上げてください。」

 さぁ 大変です。今度は 国中に『黒いさくらんぼを持っているものは お姫様のために持ってくるように。それでお姫様の病気が治れば、必ず 黒いさくらんぼを持ってきたものとの結婚を許す。』というおふれが出されました。
  皆 あちこちに出向いては 木の枝を眺めるために 上を向いては、次の木へと忙しく動き回りました。でも この真冬のこんなに寒い時期に、いったいどこに さくらんぼなどなっているのでしょうか?
 しかも 黒い さくらんぼが・・!

 お城での大騒ぎは おふれが出されたことで 国中に広まったはずだったのですが、その国のはずれ、一番山深いところの貧しい家族のところにそれが知らされたのは、しばらくたってからの話でした。

 その家には 年取った父親と三人の息子たちが住んでいましたが、長男の持ち帰ったうわさにある、お姫様の病気を治すために必要な黒いさくらんぼが、自分たちの小さな庭になっているの知っていましたので、できるだけ早く お姫様のために さくらんぼを持っていこう ということになりました。

 三人の息子たちのうちの二人は、もう こんな田舎暮らしは飽き飽きだと思っていたので、都に出てお城を眺めるだけでも 嬉しいことなのに、家の庭のさくらんぼを持っていけば お姫様と結婚できるなんて、夢のようなことだと 大喜び、急いで まず 長男が支度をしました。

 長男は いさんで家を後にし、たいそうな勢いで山を下り、その日の昼過ぎには もう 街の近くに来てしまいました。山道を急いできたので、長男は ひどくのどが渇いて 近くの泉に立ち寄り、ごくごくとおいしい水を飲んでいたのですが、ふと 気が付くと すぐそばに ひとりの老人が立っていました。

 「おまえさん、このかごの中身はなんだね?」

 長男は 本当のことを言ったら きっと この老人に さくらんぼを取られてしまうと思い、「なに、ヤギのふんがはいっているのさ。」と バカにしたように言いました。

 それから、街に入って お城の門の前まで来たときに、長男は 門番に お姫様のために黒いさくらんぼを持ってきた と 言いました。
 門番が 門番長にそのことを言うと、門番町は 長男のかごを取り上げて 中身を調べました。

 すると門番長は 顔を真っ赤にして 長男を怒鳴りつけました。
「おまえは これを黒いさくらんぼというのか!これを姫様に差し上げるというのか?!このヤギのふんを!」
 長男が あわてて かごの中身を確かめると、どうでしょう、かごの中身はすっかりヤギのふんに入れ替わっていました。

 長男は お城の番人たちに 散々ぶたれたり殴られたりして、やっとこさっとこ 家に帰り着きました。

 長男のしたことは おろかなことでしたが、でも お姫様を放っておくわけには行きません。
父親は 次男を呼んで お城に行かせることにしました。

 次男は やっと自分の番が来た と いさんで家を後にし、たいそうな勢いで山を下り、その日の昼過ぎには もう 街の近くに来ていましたが、ひどくのどが渇いて 近くの泉に立ち寄り、ごくごくとおいしい水を飲んでいました。すると、すぐそばに ひとりの老人が立っていて、次男に こうたずねました。

 「おまえさん、このかごの中身はなんだね?」

 次男は 長男と同じように 本当のことを言ったら きっと この老人に さくらんぼを取られてしまうと思い、「なに、豚のふんがはいっているのさ。」と 小バカにしたように言いました。

 それから、街に入って お城の門の前まで来たときに、次男は 門番に お姫様のために黒いさくらんぼを持ってきた と 言いました。
 門番が 門番長にそのことを言うと、門番町は 次男のかごの中身を調べました。

 すると門番長は 顔を真っ赤にして 次男を怒鳴りつけました。
「またか!おまえも これを黒いさくらんぼというのか!これを姫様に差し上げるというのか?!この豚のふんを!」
 次男が あわてて かごの中身を確かめると、どうでしょう、かごの中身はすっかり豚のふんに入れ替わっていました。

 次男も長男同様 お城の番人たちに 散々ぶたれ、殴られて、やっとこさっとこ 家に帰り着きました。

 年取った父親は 二人の息子を情けなく思いながらも、末の息子に黒いさくらんぼを持たせて出しました。

 この末息子は 大変 正直で 人を疑うことを知らなかったので、長男や次男と同じように 泉のほとりで 老人から かごの中身を聞かれたときに 正直に「黒いさくらんぼですよ。」と 答えました。

 すると 老人は 末息子にこういいました。
「おまえには これから先 お城に付くまでの間に 出会うものたちがある。しかし、腹が減って困っているものには食べ物を、のどが渇いているものには 飲み物を与え、けんかしているものたちを仲直りさせるとよい。。そうすれば お前は 幸福になるだろう。」

 末息子は 何のことだかわからないままに 歩き始めましたが、森の中で 食べ物が無くて困っているありの群に出会い、なにか食べるものを持っていないかとたずねられました。
  そこで ポケットのなかにあった昼の残りのパンをやりました。アリたちは 大変喜んで、「何か困ったことがあったら よんでください。必ずお役に立ちますから。」といいました。 

 それから しばらく先へ行くと 今度は湖の岸に打ち上げられて 苦しそうにあえいでいる魚に出会ったので、末息子は かわいそうに思って 水の中に戻してやりました。すると 魚は嬉しそうにとびはねていいました。 「何か困ったことがあったら 私を呼んでください。必ず お役に立ちましょう。」

 後もう少しで お城の入り口 という そのちょっと前に差しかかったとき、末息子は なにやら 言い争う声を聞きましたので、どうしたのかと思い 行ってみました。
 すると そこでは なんと 天使と悪魔がけんかしているではありませんか。
末息子は 一生懸命 けんかしないようにと話しかけ、たのんだので、天使も悪魔も お互いちょっと意地っ張りだったな と思い、「わかったよ、けんかはやめよう。」「そうだな。まぁ なかなか難しいことだが 争っても何も変わらん。」といい、「何か困ったことがあったら 呼んでくれ。必ず 力になろう。」とも いいました。

 そんなことがあって やっと お城の入り口にたどり着いたのは かなり遅くなってからのことでしたが、門番は また 黒いさくらんぼを持ってきたという若い男を見て、面倒くさそうに 中身を調べ、腰を抜かしました・・・。

 お城の中では 上を下への大騒ぎ。なにしろ この真冬の一番寒い時期に 本当に 黒いさくらんぼを持ってきたものがあったのですから。
 もう さくらんぼのことなど 諦めて、ただただ お姫様のそばにへばりつくようにして 毎日 嘆き悲しんでいた王様やおつきの人たち、大臣たちも 今度こそ 本当の黒いさくらんぼだと聞いて、水を打ったように静かに末の息子と持っているかごを見つめていました。

 おつきの人が 末息子の持ってきた黒いさくらんぼをかごから取り出して 銀の器に盛り、毒見約の大臣がひとつ食べて大丈夫らしいことを確かめると、王様の前に差し出しました。 
  王様は ひとつつまんで 食べてみました。やっぱり 確かに 黒いさくらんぼでした。

  王様のお指図で 今は もう ひょっとしたら 死んでいるのではないかというくらいの青白い顔をした姫様に、黒いさくらんぼを 一粒 食べさせたところ・・・、姫様の真っ白な頬が微かに赤らみ、唇も以前のような ふっくらとした愛らしい唇になりました。


 そして ふと 目を開くと、目の前に差し出された黒いさくらんぼを 一鉢  すっかりおいしそうに召し上がられてしまいました。そのため お姫様は ほんのしばらくで みるみる お元気になられ、皆 本当に こころから お姫様のご回復を 盛大に喜び合いました。

(←黒くないけど、さくらんぼだから。 )

 さて、末の息子は 皆が喜んび騒いでいる様子を 嬉しそうに眺めていましたが、その様子に気が付いて王様は こういいました。
 「若者よ。よくやってくれた。礼を言うぞ。望むものは何でも与えよう。ほしいものを言ってみろ。」

 「仰せに申し上げます。おふれのとおり お姫様との結婚を お許しください。」

 これを聞いて 王様も周りのものも ちょっと 困ったような顔をしました。
黒いさくらんぼを持ってきた若者は、見るからに貧しく これというなんの役に立ちそうにもないように思えたからです。 だれでもが 末の息子が姫様との結婚を望むことを 心の中で ばかにしていました。

 そこで 王様は 何とかして末の息子に 姫様との結婚を諦めさせようとして 三つの問題を出し、これを全て解決したときには 必ず 姫を嫁にやろうといいました。

 まず 一番目は「ライ麦と大麦をマス1杯ずつ混ぜたものを 3時間のうちにより分けること」でした。
 末の息子は だまって ライ麦と大麦を混ぜたものを 一粒ずつより分け始めましたが、あっという間に 1時間たってしまいました。しかし 枡の中身は ちっとも減っているように見えません。これでは 3時間どころか いつになっても 麦のより分けをしなくてはならないでしょう。

 困った末息子は、ふと 森の中でのありの言葉を思い出し、近くを通っていたありに ことの次第を話し 助けてほしいと いいました。すぐに 末息子の閉じ込められた部屋に 沢山のありがやってきて せっせと ライ麦と大麦をより分けてくれたので、あと1時間残っている というころには、すっかり きれいにより分けができてしまっていました。

 王様は すっかりきれいにより分けられた麦を見て、少し顔を紅くして 次にはもっとたいへんなことをいいだしました。それは「お姫様が1年前に湖で落とした金の指輪を拾ってくる」ということでした。
 末息子は 凍った湖に行ってあっちこっちに穴を開け、長い木の枝で 湖のそこをかき回しましたが、すごく寒い上に 湖は大変深いので とても中をさらうことすらできません。

 こまったなぁ と思っているうちに、最初の一時間が過ぎ、このままでは どうしようもないと思っていたところ、氷に開けた穴から 以前 助けた魚が顔を出して どうしたのか とたずねたので、これこれこういうわけだ と話しました。すると 魚は すぐに 仲間の魚たちを集めて 湖中を探し回り、とうとう あと一時間で約束の時間になる というときに、確かに 姫様の金の指輪を見つけ出してくれました。

 王様は まったくそれが姫様の指輪だということがわかったので、さっきよりももっと赤い顔をして、これは もうどうしようもないだろう というようなことを言い出しました。
 「天国に咲くという 一番きれいな花を一本、地獄の一番熱い火の玉を一個 もって来たなら、今度こそ 約束どおり 姫を嫁にやろう。」

 優しいお姫様は お父様の王様が あれこれ 無茶な問題を投げかけて 自分を助けてくれた若者を 何とかして追い返そうとしているのを見て、王様にやめてくれるように言いましたが、王様は 意地になって 聞き入れません。 お姫様は 若者を見て きをつけてね というばかりでした。

 でも 末の息子は お姫様にそういっていただけただけで 体中に力がわいてくるのがわかりましたので、すぐに 街を出て さっき 天使と悪魔がけんかをしていたところへ走っていきました。

 大声で 力になってくれるといった天使と悪魔を呼び、事の次第を話したところ、天使は天に昇って 天国の庭に咲く 一番きれいな花を一本 持ってきてくれ、悪魔も すぐに 地の底へ姿をくらませたかと思うと あっという間に 地獄で燃え盛る 一番熱い火の玉を持ってきてくれました。

 王様は これほどのことができる末の息子を 見直し、今度は 是非 娘を嫁にもらってもらいたいと いいましたので、貧しい山奥に住む三人兄弟の末っ子は かわいらしくてきれいで賢いお姫様と結婚し、二人は 末永く 幸せに暮らした ということです。


 このお話は ご存知でしょうか?

 実は 私も 最近知った話なのですが、まぁ ありきたりといえば よくお話にありがちな展開ではあります。
 でも やっぱり おもしろいな と 思ったんですね。

 スイスの民話ということですが、 男女は入れ替わっても、主人公に出された難問を それまで面倒を見たものたちが助けて解決を見るというのは、灰かぶり つまりシンデレラのお話しに似ていますよね。
 (どちらが先なのか それは 今のところわかりません・・。)

 お話というのは なんとなく ちょっとしたリンクが夫々のお話し同士にあるような気がします。

 クラーク・ゲイブルの「ある夜の出来事」という映画に、『父親が甘やかして育てたから 君のようなバカ娘になったんだ。』という台詞があったと思いますが、このお話のお姫様は いくら父親が甘やかしたところで、そうはならなかったようで、それは もう 資質というのでしょうか、なんか 大変なことのように思えたりしました。 

 しかし こういう展開というのは ありがちではあるとしても なかなか 遠藤など 思いつかないものです。特に 最後の三つの意地悪問題。
 なんというか・・ こんなもんできなくて当たり前というような、あれほどの難題を思いついて やらせようとする そのゆがんだ根性が たまらないですねー。(自分は そこまで根性曲がりじゃないわー と 思ってるので・・。)

 わがままというのは 育て方にも問題があるのでしょうけれど、血筋 血統なんてものも かかわってるのかなー・・。王様という職業?が そうなりやすいものなんでしょうかね?

 しかし、その娘である姫様は・・・、あ そうですね、きっと周りの人たちとかお母様とかが ちゃんとした?方だったんでしょうね。
 こんなことからも、正しく愛されたものは あまりおろかにはならないように思ったりして。

  
 どんなに瑣末な出来事や物事にも 誠実であること 正直であること。そして 少しの勇気を持てば、きっと いいことがあるよ的なものなんだろう とはおもっていますが・・?

 あなたは どう思いますか?

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