11月のお話  貧乏神と相撲取り

 

 

 
  昔、
ある相撲部屋で 一人の若者が修行をしていました。

 若者はつるぎ山といい、最初はやせっぽちで 身体も小さく、なかなか 思うように勝つことができませんでしたが、もともと 一生懸命なところがあったので、親方の言うことを良く聞いたり、兄弟子たちの相撲を見ながら、どうやったらうまくなるのか いつも 考えていました。

 そのうち、努力のかいあって、少しずつ身体も大きくなってきて、力もついてくるようになり、たびたび勝てるようになると 相撲を取るのが楽しくてたまらなくなりました。
 「ようし!これからも どんどん稽古して、いつかは 必ず大関になって おっかさんによろこんでもらうんだ!」

 そして つるぎ山は ますます熱心に稽古にはげむようになりました。

 ところが、ある日、いつものように 相撲を取っていると なんだか力が抜けたようになって、気が付いたら 相手に投げ飛ばされていたのです。つるぎ山は びっくりしましたが、まぁ そんなときもあるさ と 気を取り直して、次の日を迎えました。

 しかし、やっぱり また 力がふっと抜けて あっさりと負けてしまいました。

 そんなことが 続けて 数日あったものですから、つるぎ山は いきなり自信をなくし、食欲も落ちてやせてきて、力も失せていくように思えました。

 毎日、稽古が終わると 砂まみれになった身体を 悔し涙と一緒に流すようになって しばらくの後、「もう、これ以上 部屋のお世話になっていては申し訳ない。国に帰って おっかさんの手伝いをさせてもらおう。」 と 親方に お暇願いを申し出ました。

 しかし、親方は そんなつるぎ山に言いました。
「だれにでも そんなときがあるものだ。いつでも いつまでも 強いままでなどあるわけはないし、負けが続いても 一生懸命 稽古すれば、また 必ず 勝つときが来る。諦めないで 大関目指して もっと稽古しなさい。」

 つるぎ山は それを聞いて どんなにありがたく思ったことでしょう。
でも 自分のことは 自分が一番良く知っています。 あの 相手と組み合ったときに ふっと力が抜ける具合を思ったら、もう どんなに努力しても 無駄のように 思えてなりません。

 その晩、つるぎ山は みなの寝静まったころ、部屋を抜けだして 故郷目指して歩き始めました。

 数日の後、国に帰ったつるぎ山は 息子の突然の帰りを びっくりして喜んでいる母親に言いました。
 「おっかさん、もう 相撲はだめです。自分が どんなに弱いか良く分かりました。どうか ここにおいて おっかさんの手伝いをさせてください。」

 すると 小さな母親は 大きな息子を見て きっぱりと言いました。
「いいえ、お前をここにおくわけには行かないよ。私は 男が一度 口に出して始めたことを、簡単に諦めるような子を育てた覚えは無いよ。今すぐ戻って 親方さんに謝って また 一から出直しなさい。さ おかえり!」

 つるぎ山は 勿論 悲しむだろうとは思ったものの、きっと 喜んで迎えてくれると思っていた母親に そういわれてしまったので、仕方無しに 解いた荷物をまた作り直して 家を後にしました。 

 明け方 暗いうちに越えた峠は、良い天気のその日、お日様が眩しく照って、気持ちのよい風がそよぎ、小鳥たちも 楽しそうに歌っていましたが、つるぎ山の心は どんよりとした暗くて厚い重たげな雲が一杯になっているようでした。

 思わず はぁ〜!っと ため息をついたその時、つるぎ山は 誰かの声を聞きました。
「お〜い!お〜い!まってくれ〜・・。」

 振り返ってみると 誰かがこっちに向かって よろよろと走ってきます。つるぎ山は 立ち止まって 待っていましたが、近づいてくるにつれて それが なんだか とても汚い格好で やせて みっともないくらいの身体に 頭の毛もひげも ぼそぼそとした 奇妙な男であるのが分かりました。

 男は やっと つるぎ山の所まで来ると、苦しそうに ぜいぜいと息をしながら ニヤニヤ笑っています。
 「ああ、よかった。追いついた。やれやれ、私をおいてくなんて 酷いじゃないですか。」

 つるぎ山は 初めて見る男から そんなことを言われて びっくりしました。すると 男はいいました。
 「いつも一緒の私を知らないとは言わせませんやね。」

 「いやいや、もうしわけないが、私は お前さんを知らないよ。一度も会ったことが無い。誰かと間違えているんだよ。」

 すると 男は ますますにやにやと変な笑い方をしながら つるぎ山に近づいてくるので、つるぎ山は 気持ちが悪くなって、さっさと後ろと向くと 足早に歩き始めました。

 「ちょっと ちょっと!ほら、いっしょにいくっていってるでしょうが!待ってくださいよ。」
そういってついてくる男に こまったなぁ・・と 思いながらも、つるぎ山は聞いてみました。
「いつもいっしょといっていたが・・?」「そうでさぁ。」「名前はなんと言ったけね?」

 すると 男は にやりとして言いました。
「なまえ?わしの名前は 貧乏神だよ。」

 つるぎ山は びっくりしましたが、ただ「そうかい。」とだけ言って 先を急ぎながら いろいろ 考えてみました。

 なんで こんな奴に知りあいなんていわれるのだろう? 
 あれ・・?ひょっとしたら こいつがいっしょに居るようになってから オレは 負け始めたのかもしれない。 しかし、なんでまた 貧乏神なんかが くっつくようになったんだろう? ああ、そうか。もしかしたら 俺の気が弱くなったからかもしれないぞ。おれが 勝って当たり前と思っていた時に、いきなり負けが込んで、気が弱くなったんで つけ込まれたのかもしれない。

 すると まるで心を読んだかのように 貧乏神が言いました。
「や、や、大当たりでさぁ!お前さんは わしの好きなにおいがするんだよ。へへへ。」

 つるぎ山は それを聞いては 黙っていられません。

 だめだ!このまま 一緒に戻っても また 同じことになる。どうしたらいいんだろう?!
そうだ! オレが気を強く持てばいいんだ! でも どうしたらいいんだろう。どうやったら こいつを追い払えるんだろう?

 貧乏神は また つるぎ山の心の声を聞いたかのように 言いました。
「ああ、だめだめ!何を考えたって 何のいいこともあるもんかい。へへへ。お前さんとは これからもずっと一緒だよ。仲良くやろうや。へへへへ・・・。」

 すると 突然 つるぎ山は 貧乏神を振り返って こういいました。 
「お断りだ!ぜったい!今後一切 お前とは縁を切ってやる!」
「およしなさいよ。どんなことをしても できない相談ってもんだ。」

「そうかな。それなら 一度 オレと相撲を取ってみろ。俺が勝ったら もう 二度とオレにとりつくな。」
「へへ〜っ!そんなこと言っていいのかい?今のお前さんが わしに勝てる分けないだろう?」
「そんなことは やってみなくてはわからないぜ。それとも オレが勝てないとでも思うのかい? こうみえても 一応 おれは 相撲取りだぞ。」

 貧乏神は 思い切り笑うと 次には 小ずるそうな笑いを浮かべながらいいました。
「分かったよ。相撲を取ってやろうじゃないか。まぁ 今のお前さんには勝てるはずも無い。負けたら お前さんとは 死ぬまで一緒だよ・・。へへへへ。」

 つるぎ山は それを聞くと ぞっとしましたが、ここで ひるんではなりません。どうしても 勝たなくては!

 峠の開けた草原で つるぎ山と貧乏神は 相撲を取りはじめました。
峠の片側は 険しい崖になっています。うっかりしたら 落ちて酷い目にあうことになります。
意外なことに 貧乏神は かなりの使い手。つるぎ山は 顔を真っ赤にして 踏ん張ります。かなり長いこと 二人は 取っ組み合っていました。

 そして、何度めかに がけっぷちにまで追い込まれた時です。つるぎ山は ありったけの力を振り絞って 貧乏神を持ち上げ、くるりと体の向きを変えると ぱっと 貧乏神を投げ飛ばしました。
 次の瞬間、貧乏神は 崖から谷底に向かって まっさかさまに落ちていきました。

 こうして つるぎ山は 貧乏神をやっつけて、意気揚々と 相撲部屋の親方のところへ戻って謝り、また 部屋に入れてもらいました。

 つるぎ山は 毎日 熱心に 懸命に稽古をしたので、それから 3年たったときには 立派な大関になって 親方に恩返しをし、おっかさんにも 大変孝行したということです。

 


 
  このお話は ご存知でしょうか?

 これも 小学生のころ 読んだ日本の昔話の中にあったと思いました。

(このお話の中では 大関になって と ありますが、どうも その当時―いつごろなのでしょうね?―は、大関が一番格が上だったようなことが 書いてあったように思いました・・。)

 ごく最近、おなじ相撲で 酷い事件がありました。つるぎ山の面倒を見ていた親方の言うような言葉など、名門といわれる部屋を継いだ 例の親方の口からなど 出ることは無かったのでしょうね。

 いつだったか それほど関心の無かった相撲について、神事奉りごとが始まりだったと聞いたことがあり、へ〜・・と 見直したことがありましたが、しかし、どうも ふさわしいような品位など、当時もそのように見えることも無く、したがって かかる力士たちにもそんなもの 求めることを思いつくことも無いような、そんなものに成り下がってしまったように思えます。

 たまさか 先日の事件のあった後というので、なんとなく 思い起こして 書き始めはしましたが、ま その事件とは別に、人間 一念発起すれば おそれるものは無い というような、そんな風にも思える 今月のお話ですね。

 まぁ、お母さんの一言に奮起して と言うのもあったのでしょうけれど、今 そんな風に言って 突き放せるような親なんて 一体 居るものなんでしょうかしらね?
 
 例のボクシング一家などにも 真剣にそんな風に言ってくれる人がいたら、あんな馬鹿なことをしたり、その後の嫌な思いなどをしないですんだかもしれないのにね・・ なんて思ったり。。

 しかし・・、貧乏神なんて やだなー・・・。
そんなものにまとわりつかれたら、たまんないですねー。・・って なんか そういう気配がしなくもないですか?

 いやいや、自分やあなたにではないですよ。
  この「日本」という 心貧しく 哀しみに満ちつつある お寒い国に です。

 どうです? あなたは どう思いますか?

 

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