4月のお話  白ばら紅ばら

 

 昔 ある森の中に、白ばら、紅ばらと呼ばれる 仲良しの双子の姉妹がお母さんと一緒に住んでいました。

 二人は とても 仲が良くて、いつも お互いのことを思いあっていたし、生まれてから ずっと一緒だったので、これからも ずーっと いっしょに居ましょうね と なにかにつけて 話していました。

 ある冬の夜、それは その年で一番寒い雪の夜だったのですが、二人が暖炉の温かく燃える日のそばで 繕い物や編み物をしていると、とんとん と 扉をたたく音がしました。

 三人は 顔を見合わせて、こんな晩に 一体 誰が来るというのかしら?と言いながら、お母さんが そうっと 扉を開けてのぞいてみました。
  すると そこには 大きな茶色のクマがいて、お母さんにに 今晩だけでよいので、どこか 雪のないところにおいてくれませんか と言いました。

 お母さんと娘たちは、怖いと思うよりも かわいそうに思うほうが強くて、さぁさぁ と 暖かい暖炉のそばに敷物を寄せ、そこに クマを座らせました。

 三人は クマのために 暖かくておいしいスープを温めたりミルクを飲ませたり、大きなクマの体を覆えるように、三人のベッドカバーを夫々 貸してやりました。 おかげで クマは 暖かに ゆっくりと休むことが出来ました。

 その晩から クマは 毎日 白ばら、紅ばらの森の家にやってきては 一緒に 歌を歌ったり 踊ったり、それから 森の中で見たことや、夫々の 知っている話をしながら 冬中 楽しく過ごしました。

 

 そして春が来て・・、ある日、クマは お別れを言いにやってきました。

 「春になると、地の下から 悪い小人がやってきて、僕の宝物を盗もうとするんです。だから ずっと 見張っていなくちゃならないので、もう ここに来ることは出来なくなってしまうんです。ほんとうに とても 残念です。だって 本当に 冬中 とっても楽しかっただから。」

 それは、白ばらも紅ばらも そして お母さんも同じことでした。
ふたりの娘たちは どうしても 行かなくてはいけないの?小人をどうにかできないの?と いろいろに聞きましたが、茶色のクマは 悲しそうに首を振るばかり。 それでは また 冬になったら 必ず 来るのを忘れないでね と 言うだけが精一杯でした。

 その日から 親子三人の夜は また いつものように 静かになり、時々 順番に 本を読んだり、みんなで歌ったり、そして 縫い物や編み物をして 過ごすことになりました。 でも 本当に なにか とても 物足りなくて・・。

 そんなある日、二人の娘たちは 森に薪を拾いに すこし奥のほうへ行きました。

 良い薪が拾える場所に近づくと、どこからか 小さなか細い声が 助けてー 助けてくれー と 言っているのが聞こえてきました。

 二人が 急いで 声のするほうに走っていくと、道に一本の木が倒れ、地面との間に出来たすきまに 一人の小人が 長いひげを絡ませ、はさまって倒れていました。

 二人は なんとかして 絡まったひげを解こうとしてみましたが、小人が きっと 長いこと 暴れてしまったからでしょう、どうしても 解くことが出来ません。 このままでは 体の挟まっている木を動かすことは出来ません。

 そこで、白ばらは 持っていたかごから はさみを取り出して 小人のひげを ばっさりと切り、二人で 力をあわせて 木を持ち上げて隙間を作ったので、ようやく 小人は 木の下から這い出ることができました。

 「ああ、よかった!」「よかったわねぇ、小人さん。」
ふたりは ほっとして それぞれに言いました。

 ところが・・!
小人は 長いこと困って大変だったところを助けてもらったお礼を言うどころか、自分のひげを容赦なく切った といって 真っ赤になって 怒鳴り散らして怒ったのです。

 ふたりが あきれて 黙っていると、小人は 木に挟まって出られなくなったもとになった 金貨で大きく膨らんだ袋を ずるずると引っ張り、よろよろしながら肩にかけた後、白ばら紅ばらを ぎろっとにらんだあと、さっさと 行ってしまいました。

  白ばらも紅ばらも お互いに顔を見合わせて、まぁ しょうがないわね というように肩をすくめ、薪を拾って 森の家に帰っていきました。  

 

 それから 少したったある夏の日のこと、白ばらと紅ばらは 川遊びに出かけました。

 そろそろ 川に近づくころ、二人は どこからか 聞こえてきた悲鳴に びっくりして 立ち止まりました。

 「聞こえた?」「ええ、叫んでるわ、助けてーって。」「行きましょう!」

 二人が走っていくと、この間の小人が 大きな魚にひげをくわえられて、今にも川の中に引きずり込まれそうになっているところでした。

 ふたりは 小人を抱えて 一生懸命 引っ張ろうとしたのですが、魚の力は強く、とても 二人の手には 負えません。

 しかたなく、白ばらは また かごの中からはさみを取り出して、ピーんと伸びきった小人のひげを スパンっと切ったので、小人は ぽーんと 草の上に落ちました。

 丸々飲み込まれたかもしれないというのに、今度も 小人は 顔を真っ赤にしてぷんぷん怒り、
「よくも 大事なひげをきったな!」と怒鳴りながら、真珠の入った袋を肩に担ぐと、よろよろしながら 向こうへ行ってしまいました。


 それから またしばらくしたある日のこと、白ばらと紅ばらが 森を抜けて丘のお花畑に花を摘みに行くと、たくさんの きれいな色とりどりの花の間を、赤いとんがり帽子が 行ったり来たりしています。

 「あら。」「あら・・。」 二人は顔を見合わせ、できるだけそっと その場を離れようとしました。

 その時、晴れた良いお天気のはずなのに、いきなり 黒い影が ぐーんと近づいてきたので、二人は 顔を上げて 空を見上げました。

 それが 大きなわしなのだ と 分かったときには、大わしは もう 小人の白いひげを その鋭いくちばしにくわえ、大きな翼を羽ばたかせて 飛び立とうといました。

 小人は もう 必死になって 放せ!やめろー!誰か助けてくれー!! と わしに振り回されながら 叫んでいます。

 白ばらも紅ばらも 気が付いたときには また あのときのように 小人がぶーんと 振り回されたときを狙って、いつものはさみで ちょきーん!
 わしは そのまま どこかへ飛んでいってしまいました。

 花畑の端っこに 振り落とされた小人を、二人は いそいで そばに行って 助けようとしたのですが、今度も また 小人は 真っ赤になって 
 「何で また 大事なひげを切るんだ?! せっかく伸びてきていたのに!」 大声で怒鳴りながら 袋の口からこぼれた宝石を 夢中になって拾いはじめました。

 白ばらも紅ばらも 顔を見合わせながら あちこちに飛び散った宝石をひろって 小人の袋に 入れようとしたのですが、小人は そこでも 真っ赤になって怒りました。

 「わしの宝石にさわるな! 見るんじゃない!あっちへ行け!!」

 その時、突然 むこうから 茶色の大きなクマが 走ってきました。
白ばらも紅ばらも あのクマだ と すぐ 気づきましたが、なんだか 様子が変です。

 クマが 向かってくるのを見た 小人は、宝石の袋の口をつかむと、まだ すこし散らばっている宝石を 惜しそうにながめながら、いそいで 立ち上がって 袋をかつごうとしました。

 ところが、小人は 腰が抜けたようになって 袋の重みでよろめいて、そのまま 地面にしりもちをつきました。

 すぐそばにやってきたクマは、
「やっと見つけたぞ!私の宝石を返せ!」 
  と言いながら、大きな手を一振りすると 小人は 持っていたものを おいて ぶーーーーんと 遠くへ 投げ飛ばされて 見えなくなってしまいました。

 

 白ばらも 紅ばらも 久しぶりにくまに会えて とても 喜んだのですが、
突然、薄い煙のようなモヤがクマの周りに立ちこめ、どんどんクマの姿が 見えなくなってしまいました。

 白ばらも紅ばらも 何が起こったのかと とても心配になって モヤがはれるのを じっと 目を凝らして 見守っていました。

 そして、すっかりモヤが晴れたときに そこに立っていたのは、懐かしい 大きな茶色のクマではなく、若い立派な王子様だったのです。

 二人は どれほど びっくりしたことでしょう!
口もきけずに お互いの顔を見合っている白ばらと紅ばらのそばに立って、王子様は にこにこしながら 二人を見ていました。

 王子様が 二人のそばに近づいてくると同時に、丘の向こうから ひづめの音がして、もう一人、王子様とそっくりな若者が 現れました。

 クマだった王子様は 白ばらの手をとって、

 「白ばらさん、紅ばらさん、本当に どうも ありがとう。
私は 隣の国の王子です。以前 あの悪い小人の魔法にかかって、国の宝を奪われただけでなく、クマに姿を変えられて、城にも戻れず、だれにも信じてもらえず、あの雪の夜、あなた方に助けてもらえなかったら 死んでいたはずでした。」

 といいました。

 すると、馬から下りた もう一人の王子様が 紅ばらのそばに立って言いました。

 「あの小人の魔法の力のみなもとは、白ばらさんが切った長いひげだったのです。」

 「そのひげが どんどん短くなってしまったので、小人は魔法を使えなくなり、力も弱くなって、ああやって 一発で やっつけることが出来たのです。」

 「私は、兄を探して ずっと旅をしていたのですが、あるとき 森で大きな茶色のクマになってしまった兄にあい、とても 驚き悲しみました。兄が この森の中に あの小人がいる と言ったので、私たちは 毎日 小人を探していたのです。」

 ・・と、もう一人の王子は 言いました。

 白ばらも紅ばらも とても 驚いて、ただ だまって 二人の話を聞くばかりでした。

 最初の王子は、白ばらの手をとったまま、白ばらに向かって言いました。

「白ばらさん、どうぞ 私と結婚してください。貴女の勇気と親切が どれほど 僕を力づけてくれたことか。だからこそ こうして 元に戻れたのです。」

 白ばらも紅ばらも どうしたらよいかと お互いを見ました。

「そして・・、紅ばらさん。どうか 私と結婚してください。貴女のご親切を 私は 兄から何度も聞いています。兄を 助けてくださって 本当にありがとう。これからは 私を助けてくれませんか?」

 こうして 白ばら、紅ばらの二人は、お母さんと一緒に 二人の王子様の国に迎えられ、皆 末永く 仲良く 幸せに暮らした ということです。

 

 

 このお話は ご存知でしょうか?

 どなたも どこかで 一度は耳にしたり、あるいは 本やアニメなどで 見たことがおありかもしれません。

 ずっと このお話を 書きたいナーと 思っていました、子供のころに読んでから ずーっと、本当に ずーっと いつも 何かにつけて 思い出しては また読みたいナーと 思うような そんなお話なんです。どういうわけか・・。

 だけど あまりに 最後が出来すぎというか・・なんか 当たり前すぎて、少し 別の展開を考えたこともありました。・・けれど、やっぱり 普通に終わらせました。

 しかし、なんでまた 双子にふたごなんでしょうねー?
ひげや髪の毛が力の源というのは 旧約聖書の中にも書かれています(サムソン)から、双子と言い ひげと言い、なにか  意味があるのかもしれませんね。

 これは グリムの童話ですね。「雪白と薔薇紅」というのが 日本語での元の題名と思いましたが、なんか 分かるんですけど、ちょーっと 大仰なんで、それと、自分が読んだのは 子供向けの 昔の本で、その本の題名が「白ばらと紅ばら」というものだったので、今回はあえて そっちをとりました。

 私の読んだ絵本は、とても きれいな本で、二人の少女のモデルのような容姿容貌に、まだ 世界を知らない幼い自分は とても 憧れを持って 何度も眺めたものでした。

 なにしろ 絵が、ちっとも童話っぽくなくて、絵本という割には、大分 写実的な描写が多かったように記憶しています。

 そのシリーズは なんだか そういう ひょっとするとおどろおどろしいとも取れそうな、妙にリアルな絵が 見開き2ページにわかって きっちり描かれていたので、開けばお話はともかく そこまで描かなても というようなものもあるときは、夢に出てくれば そのままの場面に 自分がいて・・ という、なんとも”重い大変な”絵本ではありました。

 (どういうわけか、そうなぜか、幸福感を感じられるような場面は 一度も夢に出てこないんですよねー。やー こわー なんて おもうような そんな場面ばかりが いつもでてきたんですよー。 これは 子供にはきつくて、朝起きると なんか のっけから げんなりしていました。)

 ですけれど そういうのって なんか 妙に 記憶にあるんですよね。今見たら たいしたことはないのかもしれませんが、当時は なんといっても 寝る前には 見てはいけない本 と自分の中では 思っていました。〈勿論、やっぱり 子供なので、見ちゃうんですけど・・ね。ほら、ようするに 怖いもの見たさって言う・・ あれね。)

 いろいろ グリムの童話には「あれこれ解釈」がつきもので、いろいろな見方のできるお話のようではありますが、でも まぁ 今回は ただ楽しんで、ああ よかったね と することにしました。

 いかがですか? お楽しみいただけましたでしょうか?

   

 

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