7月のお話  泥棒石

 

 さっきから 井戸端の周りが 大分 にぎやかなもので、なにがあったか と 表をみると、いつもの 女房たちが、洗い物も ほっぽりだして、皆で わいわいやっている。

 引き戸の隙間を もそっと 広げて、聞き耳をたてれば、

「そりゃあ おかしなこっただろうよねー。」「でもさー、よかったじゃないか。おかねがもどってさ。」「やっぱり 大岡様はたしたもんだわ、ねぇ。」

 ほんと、ほんと、の声しきり。

 で、つい 戸口から顔を出すと、女房たちに おいでおいでをされる。

 ちょいと照れくさい気もあって、腕組みしながら、朝から ご盛況なこったねー、洗い物もしねーで 口ばかりが忙しそうだ、なんて 憎まれ口たたきながら 近寄れば、

 「あんたは、毎日 朝が遅くて いつまでも寝てるから、こんなこと、しりゃあしないだろうけど。」「まったくだよ、お天道様が 真上にいらして、ようやく ぼうっとした顔で おはよー なんて いうんだからさ。」

 まったく 女ってのは 言わなくていいことまで ずけずけといってくる。。  もっと、あれこれいわれそうになったので 話の流れを戻そうと いってみる。

 「で、どしたんだい?大岡様がなんとか って いってたんじゃないのかい?」

 そうそう、そうなんだよ、と 皆 いっせいにしゃべりだす。。

 一人がしゃべると それに重ねて 別のがしゃべる、それを追っかけて また 別のがあれこれ いいだして・・、まぁ 毎度のことだが、こっちは 声のするほうに いちいち 顔を向けて、その 切れ切れを頭の中で くっつけていく・・

 つまりは・・ こうだ。

 油売りの男が、道端の石に腰掛けて おいおい泣いていたところに、大岡様が通りかかって、大の男が どうした?と 声をかけなすった、と。

 油売りの男は 自分に声をかけた人が 誰だかなんて 知らないまま、泣きながら、実は、と そのわけを話し出した。

 その日一日はたらいて、ちょいとくたびれたのもあって、この石の上に腰掛けて、一休みしていたとところ、そのまま 眠ってしまった、目が覚めてみてみると、かごのなかにいれておいた売上金の二百文が、一文のこらず 消えていた・・

  そこまでいうと 油売りは、また おいおいと声を上げて 泣き出してしまったので、大岡様は 自分の手ぬぐいを 男に渡し、涙を拭くようにとおっしゃった。

 ここで 出会ったのも なにかの縁だろう、よしよし、私が調べてやるから、もう 泣きやんで その油だらけの手と顔を拭きなさい。 

 男は、お礼をいって 手ぬぐいを受け取ると、頭を振りながら 言った。

 だんな、ありがとうぞんじます。 そうなんですわ、よく お客にも おつりが油で汚れてるって いわれるんですわ。 

 大岡様は そうかそうか と うなづかれたあと、「して、お前が売り上げを取られたというのは、この石の上で 休んでいるときなのだな?」

 はい、さようでございます。 男は鼻をすすり上げて答えた。

 大岡様、それでは この石が 金を盗んだに違いない、とおっしゃって、お供の者たちに お奉行所まで その石を運ぶように いいつけなすった。

 大岡様を先頭に、半泣きの油売りの男、縄で縛った重い石を 汗だくで運ぶお供たちの行列を見て、町の者たちは なんだなんだと 集まってきた。

 「大岡様、どうかしちまったんじゃないのかい?」「本当に、石なんかをおさばきにかけようってのかね。」「忙しい方だからさぁ、頭がくたびれちまったんだよー。」 云々・・

 そんなこんなを 皆が あれこれ言っているうちに、石のお裁きが始まった。

 大岡様は、石に向かっておっしゃった。

 そこの石、お前は油売りの金を盗んだな? 正直に言え。

 ・・・

 どうした?素直に白状して 金を返せば、このたびに限り おおめに見てやっても よいのだぞ。

 ・・・

 なぜ なにも言わん?お前は このお裁きを馬鹿にしておるのか!

 ・・・

 石相手に、まじめにお裁きをなさる大岡様を見ていたものたちは、どうにも その様子がおかしくて、つい くすくすと笑ってしまった。

 すると 大岡様、見ていたものたちを 怖いお顔でにらんで おっしゃった。

 お裁きの最中に笑うとは どういうことだ! 今笑った者たち、前へ出よ。罰として 3日の間、牢に入っておれ。

 皆が それを聞いて 驚いて地面に手をついて、お許しを願ったところ

 よし、それならば 今回だけは 許してやるが、しかし ただでは許さん。笑った者は 一人十二文を 罰金として納めよ。 

 ・・と 大岡様。

 そして、罰金を払うために と 水を入れた大きな器を 持って来させ、皆は その中に 罰金の十二文を 並んで 一人ひとり 投げ込んでいった。

 そうして、数人が罰金を投げ込んだあとに、一人の男が やはり 銭を投げ込むと、水が ギラリと光った。 そして それを見た大岡様は、

 その男だ!その男が 泥棒ぞ。はやく捕らえよ!

 と 叫ばれた。

 その男と呼ばれた男は、あわてて その場から走り去ろうとしたが、あっというまに 捕らえられ、役人たちが 男の懐を調べたところ、たくさんの油のついた金が 出てきた。 それは 器に投げ入れた分と合わせて勘定したところ、ちょうど二百文、あった。

 大岡様は、油売りから盗んだ金なら 必ず油がついていよう、油は 水に入れれば 浮いてくる、ならば その油のついた金を持っているものが 泥棒だ、と 考えてなさってのことだったのだ。

 改めて 取調べが行われ、男は 自分が油売りの金を盗んだことを白状した、と。

 へぇ〜、いつもの事ながら 粋なお裁きをなさるねー 大岡様は。

「そうなんだよ、石に向かって まじめなお顔であれこれ言っておいでのときは、どうかしちまったんじゃないか なんて おもってたけど、ことがすめば、なるほどー、でさぁ。」
「そうそう、あんなこと 大岡様でなくちゃ 誰も思いつかないよ。」
「まったくだよ、いやぁ ほんとに たいしたお方だよ。」  

 

 大岡様、油売りに 盗まれた金をすっかり返すと おっしゃったそうだ。

 油売りよ、盗まれた金は、これでよいな?

 はい、大岡様、本当に ありがとう存じます。

 うむ、それならば もう 行くがよい、が、そのまえに 盗人を見つけ出すために力を貸してくれた その石に、礼を言って行け。

 油売りは なんども 大岡様と石に 頭を下げて もどっていったそうだ。

 

 それにしても 粋だねー! で いつものも おっしゃったのかい?

「ああ おっしゃったよ」「言わないでは おわらんからねー!」 

 そして、井戸端周りの皆が 大きな声で 言ったさ。

 「うむ。これにて、一件落着!」

 

 

 

  このお話は。。 ご存知の方 おいででしょうねー

 これは 遠藤の頭の中のことなので。。 すみません、ものすごーく 勝手に書き換えました。もとの話というのを 特に読んだことがなくて、、ただ、聞いて知っていただけのことなので、そうなりました。

  なかなか、機知にとんだ 面白い話だと思います。 こういうのを 粋 というのでしょうね

 当節、ニュースを見れば、おどろおどろしい出来事が、どうしてここまで というくらいに、詳細に伝えられることが多すぎるように思えて、そんなものを見聞きする毎日は、かなり気の重い、ハードなことではあります。

 まぁ、報道というもの、それが仕事といってしまえば、そうなんでしょうけれど、それにしても、なんというか、もうちょっと 気の利かせ方というものも あろうかと・・

 このお話を書きながら、今の世の中に 越前の守がいたら、日々起こり続ける それぞれの事件を どんな風に落着させるのかなぁ・・ なんて、おもっていました。

 いかがでしょうね?

 

 

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