10月のお話  きつねの飲み友達

 

 、中国という国の あるところに、車(しゃ)さん という まだ勉強中の若い人がいました。

 車さんは、勉強して 国の試験を受けて、お役人になりたいとおもっていましたが、よく勉強もしますし、頭も悪くはないのに、たったひとつ、困った癖がありました。
 車さんは お酒が好きだったのです。

 とくにお金持ちの家でもないし、まだ お金を稼ぐこともしてないのに、それでも 毎晩 お酒を飲まずには 居られなかったのです。

 でも 車さんにとっては、お酒は なによりも楽しみなことで、それがあるから 大変な勉強もできるのだ と 思っていました。

 そんなある日、車さんは いつものように お酒に酔って寝ていましたが、ふと 寝返りを打った拍子に なにやら 柔らかで滑らかなものに触れましたような気がしました。

 まだ 半分 頭の寝ている車さん、???これは なんだったかなぁ・・

 しばらく ゆっくり なでていると、どうも あるところで 手が自然に上下します。

 そこで すこし 頭がはっきりしてきた車さんは、薄目を開けて 横を見ると、なんと びっくりしたことに、そこには こんもりと盛り上がったなにかがいるではありませんか。

 すっかり目の覚めた車さんは、手元の明かりをつけて また びっくり。

 なんとなんと、滑らかな手触りはあたりまえ、小柄な人ほどのきつねが お酒のにおいをさせながら、なんにも気づかずに 寝ていたのでした。

 尻尾をつまんでも、ひげをひっぱっても すーすーと 気持ちよさ気な寝息を立てているきつねをみた車さんは、くすっと笑ってしまいました。

 「きつねのやつめ、僕の酒を勝手に飲んで 酔っ払っちまったんだな。ずいぶんと 酒が好きなようだな、それに 気持ちよさそうに よく寝ている。 はは、いい気なもんだ。 でも、ま、いいだろう、どうせまだ 日は昇らん。もう少し ねかしてやるか。」

 車さんは 心の優しい人でしたので、そうおもって もう一度 自分も寝床に横になりながら、きつねにも 布団をかけてやりました。

 でも 明かりは つけたまま。だって きつねがどんな風に 化けるのか、とっても 見てみたかったからです。

 それから すこし時間が過ぎたころ、きつねはごろんと寝返りを打つと、あ〜ぁ と 大きく伸びをして、むっくりと 寝床の上に 起き上がりました。

 そのとき、車さんが 布団をのけながら「よく寝ていたねぇ。」というと、いつのまにやら 人の姿になったきつねは、あわてて 寝床から降りて 車さんの前で 深々とお辞儀をして言いました。

 「大変、大変 申し訳ありません。しかしながら、私をきつねとお認めになっても、捕らえることも、撃ち殺しもせずに、寝かしてくださって、本当に ありがとうございます。」

 おろおろしながら、一生懸命 あやまるきつねの言葉をさえぎって、車さんは 言いました。

 「まぁ いいですよ。きにしないでください。 じつは 僕も お酒がすきでねぇ。周りからは 馬鹿にされることもありますが、でも もしかしたら 君には お酒の好きな僕の気持ちが わかるのではないかしら? よかったら、これからも 一緒に飲まないかね?」

 車さんは きつねの友達をひっぱって もう一度 布団の中に入れると、自分も横になって 昔からの友達のように 話しました。 

 「ここに来ることに 心配はいらないから、これからも たびたび きたらいいよ。」
「ええ、ありがとうございます。」

 そして、朝になって 車さんが目を覚ましたときには、きつねは もう 居なくなっていました。

 さて、車さんは、きつねがきたときに 一緒に飲めるように、と よいお酒を買って待っていました。

 すると 一日の終わり、勉強が終わったころに、きつねは ちゃんと 車さんをたずねてきたのです。

 やぁやぁ よく来た、と 車さんは 喜んで、きつねといっしょに おいしいお酒を飲み交わし、いろいろな 話に花を咲かせました。

 きつねは 大変な物知りで、それも いろいろなことを 知っていました。車さんは きつねの話を聞きながら、なんども 感心して うなずいたり、驚いたりしました。

 「君は ほんとうに 物知りだし、はなしが とても面白い。こんなことだったら もっとはやいうちに 友達になっておけばよかったよ。」

 「いえいえ、あなたこそ 本当に ご親切で、こんなわたしに これほどのご馳走もしてくださって、ありがたく思っているのですよ。 ・・でも。。」

 と きつねは すこし改まって言いました。

 「失礼ながら あなたは お金持ちでいらっしゃるようには 見えません。いただくばかりでは 申し訳ないので、せめて お酒のお代くらいは、と 思います。」

 次の日、きつねは たずねてくるなり、車さんに言いました。

 「ここから 東に向かって歩いて1時間ほどのところに お金があります。早く行って それを持っていらっしゃるといいですよ。」

 車さんが そのようにすると、道端に銀貨が2枚 おいてあるではありませんか。
そこで 車さんは 帰りに おいしいお酒と食べ物を買って 戻ってきました。

 きつねと一緒にお酒を飲んで おいしく食事をしていると、また きつねがいいました。

 「この家の裏庭に 穴倉がありますね、その下を ちょいと 掘ってみてください。」

 車さんが 言われたとおりにすると、なんと 古い瓶にたくさんのお金がはいったのが 見つかりました。

 「やぁ、ありがたい。これだけあれば しばらくは 酒も食事も 十分だよ。」

 「いえいえ、これだけでは あっという間になくなってしまいますよ。そうですね、車さん。今 町では そばが安いんですよ。そのお金で そばを買っておくといいですよ。」

 友達のきつねにそういわれた車さんは、それならば、と 持っているお金を全部出して 町で売っているそばを 買えるだけ買いました。

 それを見た 周りの人たちは、やれやれ、酒だけにして置けばよいものを、あんなにいっぱいのそばまで買って、いったい どうしようってんだろう。とうとう 頭がおかしくなったのにちがいない、と 言いました。

 ところが、その日から、誰が何に申し合わせたのか、ぷっつりと 雨がふらなくなり、毎日 毎日 強い日が照りつづけ、稲も豆も すっかり根が焼けて 枯れてしまったのです。そして そばだけが 枯れずに残っていました。

 そのため、そばの値段が 何倍にもあがり、それを知った車さんは、いそいで 買ってあったそばを売りに出し、たくさんのお金をもうけました。

 そして そのお金で 田んぼや畑を買って、稲などを植えることにしたのです。

 飲み友達のきつねは、それからも 車さんのためになるようなことを いろいろ 教えてくれて、今年は コレを植えたほうがいい。来年は これこれのほうがいいでしょう、と よい智恵を出してくれたのでした。

 おかげで 車さんは 安心して田畑の作物をつくることができ、暮らしに困ることがなくなりました。

 きつねは 車さんにとっては 大事な なくてはならない友達になり、車さんの奥さんも きつねをとても かわいがり、・・ そうやって 三人は 仲良く暮らしていました。

 でも 車さんも奥さんも年を取り、ある日、車さんは とうとう亡くなってしまいました。

 すると 車さんの飲み友達のきつねも、ふいっと どこかへいったっきり、二度と 姿を現さなくなったそうです。

 

 

 

 このお話は ご存知でしょうか?

 言語学者であり 中国文学研究者の魚返善雄(おがえりよしお)氏による、これは。。聞き書きでしょうか、そうとも取れるような童話集の「酒を飲んで寝たきつね」が 元のお話です。

 これも、いつものように 適当にかいつまんだり脚色したりしてあります。

 遠藤は、この手の話、とても すきでして、なぜだかわかりませんが、読んでしばらくは 何度も何度も 読んで見えた場面などが、繰り返し思い出されてなりませんでした。

 国によって 動物のイメージもそれぞれで、きつねなどは、人をだますのばかすのと、この国では ずるがしこい きらわれものにされがちですが、このお話のきつねは、人懐こく、ちょいと 礼儀正しく、ユーモアもありそうな、楽しい奴、のようです。

 ですが、車という人の、ちょっと 普通の人とはちがったおおらかさが、きつねとのよい交流をつづけさせたのではないか、と 思ったりもしています。

 一説に、ただしくwell educated(教養のある、あるいは 十分な教育を受けた)された人は、皮膚の色や生まれた国、育った環境や、それぞれの条件に関わらず、相手を認め受け入れる、と 言います。

 人は ともすると、人を差別し、嫌悪や罵倒をし、傷つけたり、ひどく退けたりすることを思うと、車さんの きつねへの思いや言動は、いわゆる well educated=十分に教養のある人の所作のように思えてなりません。

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