幸せになる義務

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 なぜ病気になる人がいるのか

 

 

「神父様、なぜ、この世には健康な人とそうでない人がいるのでしょうか。」

「さあ、なぜでしょうね・・・。分りませんね・・・。

でもわたしはね、

自分が病気になってよかったって思っていますよ。」

伊藤神父は ずっと 病気でした。

 病気を背負って生まれてきた、あるいは 病気とともに生きていた・・といえるかもしれません。

 いくつかの病気を経験なさったようですが、それらが なんなのか、私は ずっと 知りませんでしたし、知りたいとも思ったことはありません。
 今でも なんだったのかなんて 知りたいとは思いません。

 私には、会ったときから 病気というものを含めての”伊藤神父”でした。

 ずいぶんと 大変だったろう事は、子供ながら 見ていた分るときは 良くありましたし、大人になる途中で 自分も大病をしましたので、そばにいると その辛さを なんとなく感じるときも たまにありました。

 これは・・痛いな、とか ああ、苦しいなぁ・・と 自分の身に起こっているように 擬似実感のようなものを感じることもあったことがあって、だけど だからと言って それを、すべきことをしようとなさっているのを遮ろうとは、なんとなく、思いつきませんでした。

 自分の わずか一年半の療養中のことですが・・
 
毎日、朝目が覚めると、やっぱり 病気の自分がいるのです。
昨日やこれまでと なんのかわりもなく、あるいは 前日より悪く、たまに ひょっとして・・と 期待しそうなときもあったとしても、だけど昨日と同じように 起き上がれなかったり、立てなかったり・・、という そんな自分でいるのを分るのは、辛いとか嫌だとかというよりも、どうしようもないこと、こういう自分というのを、改めて分け知る、再認識するというような・・ そんな毎日でした。

 ・・でも、私は 治りました。たった 一年半で治り、そして 健康な子供たちを産むことも出来、自分も健康になれました。

 だけど、伊藤神父は ずっと、体の中の病気の自分と一緒に生きていました。
本当に それは 伊藤神父の細胞の一部、体の一部でした。

 伊藤神父は よく 大変な人のことを、かわいそうだなぁ・・ と 言うことがありましたが、その言葉を聞くたびに、どうして この人のいう「かわいそう」は、上から目線の哀れみとか 同情とかに聞こえないんだろう と 思っていました。

 本当に気の毒だ、苦しいだろうに・・という 身の内の痛みを 同じところで共感している人の言葉だったからなのですね、きっと。
 多分、それが 病気になってよかったと思う、ということになったのかも、と思うのです。

 風邪を引いて 一週間寝込んだりというのは、まぁ 誰にでも 何回かあることですが、それでも 辛いし苦しいものですよね。

 だけど、長いこと、ひょっとすると生きている間中ずっと・・というのは、もう 想像なんかできない辛さ、苦しさなのだろうことは、ちょっと考えると分るように思います・・

 自分の場合は、まだ二十歳前の若かったころのことだったこともあって、自分の事だけに専念してれば良かったけれど、伊藤神父の場合は、そうではなくて、病気とともに 日々のこもごもをこなしていかなくてはならなかった。

 堪えられないときは、手術や入院なども ありました。でも すこしでも 良くなれば、自分のペースで、やはり 人に会い、話を聞き、苦しみを分かち合い、手助けできることは現実的、具体的に手助けし、たびたび 訪れては慰めや励ましを続け・・、そして その間は、ご自分のことなどは、結局 いつも 後回しにしておいででした。

 この項の最初の言葉のやり取りは、伊藤神父の いわば”最後の弟子”ともいえる、生まれつき体の弱い人との会話だそうです。

 伊藤神父は 82歳で亡くなる半年くらい前まで、講座を持っておられましたから、つまり そのくらいのお年でも、病気になってよかったとおもう と おっしゃったことになります。

 私たちの人生には、喜怒哀楽の繰り返しに 様々な艱難辛苦なども時に混じってきます。
それは、決して 嬉しくもありがたくもないものではありますが、ある時、人は、その意味を知ったりそこから得たりしたもので、喜びや幸いのうちに生きている自分を見出すことがあると思います。

 「人には幸せになる義務があります。最終的には私たちは幸せを約束されているのですから、それを信じて 生きてください。」

 これは、絶えず 痛みや辛苦にさいなまされながら 生きてきた人の、日常の実感による言葉です。

 私は・・、だから 幸せになる義務を全うするために、生きていきたいと思うのです。

 

 

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