6月のお話  バナナ坊や

 昔、あるところに 背中の曲がったおじいさんがいました。
一人暮らしの そのおじいさんは 長いこと、バナナを育て、それを売ってくらしていました。

 たくさんのお金はないけれど、とくに それで不自由するということもなかったのに、その年の冬は なぜか ものすごく寒くて、日増しに 降る雪の量も これまで見たこともないくらい、毎日 毎日 よくも これだけ降るものだと 村の誰もが思うほど、さんざんにふっては 積もっていきました。

 そして、きがつくと むらの畑のほとんどの作物が すっかりだめになってしまい、おじいさんのバナナの木も、すっかり やられてしまいました。

 おじいさんだけでなく、村のみんなも 本当に 困り果てて、ある者は 隣の村や遠くの町まで出稼ぎに行ったりして なんとか 暮らしを立て直そうとしましたが、背中が曲がっている上、もうだいぶ 年をとったおじいさんには そんなことは とても できません。

 村の人たちの ちょっとした 手伝いをして、なんとか しばらくは すごすことができていましたが、また 一から バナナ畑をつくりなおす大変さをおもうと、どうしてよいやら・・ バナナ畑にやってきては、ため息をついて、涙を浮かべるばかりでした。

 そうして、辛い冬が過ぎ、やわらかな 温かい風がそっと吹く春先のある日。

 おじいさんは またいつものように だめになったバナナの畑に来て、それでも 土をならしたりして 手入れの真似事のようなことをしていたのですが、そのとき、畑のすみに 一本だけ 弱った木に 新芽がついているのを見つけました。

 これは、これは!たった一本でも 新芽がつくなんて、あれだけのことがあったのに、なんという ありがたいことだ、とおじいさんは 一生懸命 その木のせわをしたのでした。

 しかし・・、なんだか そのバナナの木は おかしな感じがします。

 なぜって、これまでにない速さで、ずいぶんと 大きくなったというのに、その木になったバナナは たったの一本だけだったのですから。

 ふーむ、どういうことだろう、あの ひどい雪のせいだろうか?? などと思いながらも、日ごとに大きく膨らむ バナナの実を、それでも 楽しみにみていました。

 そして、数日後、おじいさんは そのずいぶん大きくなった バナナの木を見に来ました。 すると 突然 その実がぐーんと 膨れ上がったとおもうと、ぱーんという音とともに 実がはじけ、なんと、中から 元気な男の子が 飛び出してきました。

 おじいさんは もう びっくりです。

 いやはや いったい どうしたことだ?! バナナの実から こどもがでてきたぞ!

 男の子は、ちょっとのあいだ あたりをみまわしていましたが、おじいさんと 目があうと にっこり笑って いいました。

 おじいさん、ぼく バナナ坊やだよ。だいじに そだててくれて ありがとう。これからは ぼくが おじいさんのお世話をしてあげるね。

 おじいさんは、目を白黒させながらも これまで ずっと 一人で暮らしてきた生活に かわいい男の子が 加わったことを とても 喜びました。

 その日から、背中の曲がったおじいさんと バナナ坊やのくらしが 始まったのですが、おじいさんは 年をとっていましたし、体がもとから よくないこともあり、すこし 寒い日や たくさん働いた日などは、背中や体のあちこちが痛んで、眠れないときもあるようになりました。

 バナナ坊やは そんなおじいさんの様子を見て、何とかしてあげたいと おもい、村の物知りの人から聞いた、よい手当てのできる仙女様のいるところまで、行ってみることにしました。

 おじいさんは、そんなことをしなくてもいい、一緒に暮らしてくれさえすれば 痛みなど我慢できる、などと言って、なんとか バナナ坊やを ひきとめようとしましたが、言い出したら聞かないバナナ坊やです。

 すぐにもどってくるから と おじいさんを説き伏せて、ある日、仙女様がいるという 大青山にむかって 旅立ちました。

 どこまでも どこまでも 何日も 何日も、雨の日も 風の日も、そして なんども 険しい山や 恐ろしい森、流れの速い川や 乾いた土ぼこりの中を歩いて、ようやく 山のてっぺんが 雲に隠れるほどに高い大青山にたどり着きました。

 そうして、一生懸命 仙女様をよびながら どんどん のぼっていったのですが、いったい 今 自分がどこをどうやって歩いているのかもわからないくらい、奥深い山だったので、バナナ坊やは ほとほと困り果ててしまいました。

 あまりにいつまでも 山の中をあるきまわるので、このままじゃ せっかく たどり着いたというのに、いつ 仙女さまに あえるんだか、おじいさんのために 何か良い方法をきくことなど 本当にできるのか、わからないや・・と、心弱くなって 泣きたくなってまいました。

 そのとき、目の前が ふっと 明るくなったとおもったら、するすると 幕が引かれるように、木々が左右にわかれ、一本の道が 目の前に現れました。

 バナナ坊やがびっくりしていると、どこからか よい香りがして、優しい声がいいました。

 この道を 先に急ぎなさい、仙女様がお待ちですよ。

 バナナ坊やは ものすごくくたびれていたことなど すっかり忘れて、喜び勇んで 足の痛いのも忘れて 目の前の小道を走りました。

 どんどん走っていくと 目の前が どんどん開け、すこしずつ あかるくなってきます。
そして、きがつくと バナナ坊やは 広々とした きれいな広間に立っていました。

 いったいここはどこだろうと きょろきょろと見回していると、突然 さーっと 光がさして、きれいな仙女様が たっていました。

 バナナ坊や、よく ここまできましたね。とても 大変な長い道のりを、おじいさんのために 一生懸命やってきたことを、私は よく知っていますよ。
 さぁ 望みのものをいいなさい、お前の願いを かなえてあげましょう。

 バナナ坊やは どきどきしながら いいました。

 おじいさんの、背中を治してあげたいのです。なにか よい方法を教えてください。仙女様なら 知っているはずだと 村の物知りにききました。

 すると 仙女様は にっこりうなずくと 手をだしなさい、と いいました。

 バナナ坊やが手を出すと、手の上には バナナの葉に包まれた 塗り薬がありました。

 この薬を おじいさんの背中に 朝晩 毎日塗りなさい。薬がなくなるころには、きっと おじいさんの背中はよくなって、体も元気になるでしょう。

 そうして 仙女様は、花のように微笑むと すーっと 見えなくなってしまいました。

 あ 仙女様! と さけんだときには、もう バナナ坊やは おじいさんの住んでいる村まで 山をひとつ こえればいいというところにいました。

 やぁ これは ありがたい。仙女様 ありがとうございます。

 バナナ坊やは 仙女様の居る大青山のほうをむいて 深くお辞儀をすると くるりと振り向いて、足取りもかるく 山道を おじいさんの居る村に向かって かけだしました。

 しばらく行くと バナナ坊やは どこかで人の声がするのを聞いたようにおもい、足を止めました。
 すると、茂みの向こうで だれかが うなっているようでした。

 助けて、たすけてくれー。 だれかー

 バナナ坊やが 茂みを書き分けて 見てみると、きこりの男の人が 木に足を挟まれてたおれていました。

 倒れた木を 一生懸命 どかして、ようやく 助け出したものの、おじさんは ひどい怪我をしていたので、バナナ坊やは、どうしようか と おもいましたが、すこしなら、おじいさんのための薬をわけてもいいや とおもって、きこりのおじさんの足に、丁寧に薬を塗り、布をまいてやりました。

 きこりのおじさんと別れたバナナ坊やは先をいそぎます。

 そして またしばらく行くと、また だれかが 助けを呼んでいるのが聞こえました。

 あちこち見回してみると、そばの木の枝に、数人の人が ひっかかっていました。

 いったい、どうしたんです?! 今 たすけますからね。

 バナナ坊やに助けられて 木からおろしてもらった人たちは、旅の途中、上の道から 足を滑らして おっこちた子供を助けようとして 自分たちも落ちてしまった 旅芸人ん親子でした。

 あちこち すりむいたり 切ったり、ひどく打ったりしていたので、バナナ坊やは、よほど考えましたが、でも やっぱり ちょっとだけなら と おもい、それぞれに 仙女様の塗り薬を丁寧につけてやりました。

 おじいさんのための薬は もう いくらも残っていません。

 旅芸人の座長の父親は、一家が ありがたくもたすかったのは お前さんのおかげだ、おまけに よい手当てまでしてもらって、もう なんだか からだがかるくなってきたようだ、こんなことは めったにないこと。どうか これを もらっておくれ と、一羽のきれいな 孔雀を バナナ坊やの腕に 押し付けました。

 バナナ坊やは、孔雀はきれいだけど、もう 薬は ほとんどなくなってしまって おじいさんには いくらも 使えなくなってしまった・・と 悲しくなりました。

 それでも もう すぐ そこに 懐かしいおじいさんの家が見えてきています。
バナナ坊やは、孔雀が驚かないように そっとだいて、できるだけ はやく 歩きました。

 おじいさん! ただいま! バナナ坊やだよ、戻ってきたよ。

 おお、おお! よく戻った。よく戻ってきたなぁ、元気だったか?大丈夫か?

 バナナ坊やは、孔雀をおろしながら、これまでのことを おじいさんに話しました。そして バナナの葉に包まれた薬を取り出して、うっすらのこった分だけを おじいさんの背中に塗りました。

 ごめんね、おじいさん、これっぽっちになっちゃった。これで 薬は終わってしまったよ・・

 いいんだよ、お前が 面倒を見た人たちが この薬で元気になったんなら それでいいじゃないか、わしは そういうお前が 誇らしいよ。良いことをしたね。

 二人が そんな風に話をしていると、突然 孔雀が ばさばさと 大きく羽を広げ、するすると 背が伸び、そして はらりと外側が むけ落ちると、中から 美しい娘が現れました。

 娘は 大青山の仙女様がよこした薬師でした。
バナナ坊やは 娘に おじいさんをなおしてくれるようにたのみ、娘は 手を尽くして おじいさんの世話をして、とうとう おじいさんの背中を治し、体も元気にしてあげました。

 それから三人は、バナナの木を それまでよりも たくさん植えてそだて、いっぱいのバナナを 売りながら、仲良く、たのしく暮らしたということです。

 

 

 このお話は ごぞんじでしょうか? 

 私は 先日 知ったばかりの話ですが、どうやら 中国のミャオ族の昔話「せむしのお爺さんとバナナ坊や」・・と いうのが 元のお話のようです。

 今回 ここに書くにあたり、せむし という言葉が差別用語に当たる・・・ため、個人的には こういうことは あまり好ましくないと思っているのですが、言い換えて 背中の曲がった・・・という言葉に変えました。

 今 日本では あまり 見かけることはなくなったようにも思いますが、有名なところでは ノートルダムのせむし男 や せむしの子馬などの表題は、お話を読んだことがない人でも どこかで耳にしたことがあるのでは と 思います。

 骨の病気とされたそれは、ビタミンDの不足による欠乏症とのことですが、私の好きなイタリアの作家 エドモンド・デ・アミーチスの「クオレ」の中にもある、小さいときから背中の病気で苦しむ 小柄で病気がちな同級生ネッリと主人公の少年を含む同級生たちの話が すぐ 思い出されました。

 かつて、外からは それと見分けがつかないけれど、実は そうだったのだ という女性を知っていましたが、彼女は 長いこと 首から下、骨盤あたりまでの硬いコルセットを ずっと はめていた と 言っていました。
 ずいぶんと つらく 苦しい思いをしたようでした・・

 ・・はなしをもどして・・

 このお話、自分の中で バナナと中国が結びつかなくて、少し 調べてみましたが、いわゆる中国保護下のいくつかの小民族自治州のうちのひとつが 該当地ということのようで、そこは緯度的には ものすごく乱暴で ものすごくアバウトな言い方ですが、沖縄あたりと 同じくらいのところに位置しているらしいことを知りました。

 ですが 山岳地帯ですのでね、気候的には どうなのか、その辺は わかりません。
とくに ミャオ族としては 見つけられなかったのですが、そのほかの似たような少数民族には、バナナを育て、天秤棒にどっさりくくりつけて、集荷場のようなところに持ち寄り、そこで バナナを洗ったり、より分けや箱詰め作業をしているとのことで、そうなると そのくらいの地域でも バナナで生活するというのは あることなのだろうなと 納得したしだいです。

 しかし・・ なんだか 想像してしまいますとね、・・バナナの実が むくむくと吹くらんで パーんとはじけたら 男の子がでてきた、そして 自分を バナナ坊やといったり、なんだか わらってしまいました。
  おそらく、自分では そういう想像は しないだろうなー と。  

 孔雀の娘のあたりは もうちょっと お話があるようなのですが、私の知ったところでは、そのあたりのことは 割愛されていましたので、ほかの部分は ちょっとがんばって 作ってみましたけれど、あえて そこは そのままにしました。
 
ちゃんとした もとのお話をご存知の方には、面白くないことをしてしまったかもしれません。

 あまり 普段 耳にすることのない国や人々の伝承話ではありますが、昔から知っているお話たちと 特に変わったところというのもなく、どこかで 聞いたような流れになっているのが、面白いものだな・・と 思ったしだいです。

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