毎日が 美しく変化して 言葉にする間もないし、そして それを書き記しているゆとりもない。
海も 富士も 光りも 風も 雲も 木々も 空気や小鳥やこの不安定な時期にもめげずに咲き続ける いじらしい花たちも・・何もかもが 毎日毎日 ふと目にするたび
変わっている。
追いつかないのだ、言葉にして 伝えたり話したりしたくても このひそかに行なわれる目にもとまらぬ早業には どうにも 対応しきれない・・。まるで 一日の中に四季があるようだ。
その忙しい毎日のある日に 小さな集まりがあって、私は そこで数時間を働き、楽しい思いをさせていただいたのだが、そのとき なぜだか差し出された深い緑のしっかりした箱の中には
もう一つ なんとも華奢で優美な・・決して自分では自分のためには選ばないであろう 愛らしい小箱が入っていた。
物は 石だろうか・・?焼き物のようには思えないが、冷たい感触にもかかわらず 上蓋には 淡い砂糖菓子のようなピンクの薔薇が六輪 控えめに彩られた緑の葉に囲まれて
今が盛りと香るように咲いて春のようだ。
蓋と箱の境目は 小さな鋲を打ったようなデザインの金色に縁取られたリボンがぐるりと巻かれ 真ん中に 可愛らしく蝶に結ばれ それでも ちょっと贅沢な様子に据えらている。箱そのものの装丁は
品の良い黄味がかったオフホワイトに金の細い葉脈のような筋が オシャレに施されている。
中は光りに透けそうなくらいの明るい箱の底に 表と同じ砂糖菓子のピンクの薔薇が三輪 地味な色合いの葉を数枚従わせて 収まっていた。
なんとも 可愛らしく 思いがけないプレゼントなのだが・・、ここ数年来 こうした"可愛いもの"を贈られたことがなかったためか
一体 ここには なにを入れたものか 相当に悩んでしまった・・。
そもそも こうして中にも細工を施されたものに 何かを入れようと考えることそれ自体が もう こうしたものを持つにふさわしくないのではとも思い悩んだが・・結局
これもまた か細くて華奢な白地の赤い小さなハート模様のついたリボンに 薔薇の香りを染ませて 蓋を閉じることにした。
なぜといえば 箱は 蓋を開けてこそ と 私は思うからである。
何かを入れられて その後何年も その中に光を受けない というものもあろうが、こういう可憐な箱は そうではいけないと おもうのだ。
穏やかに晴れ渡った青空や キラキラ光る白い雲や 甘い香りの風や のどかにさえずる鳥達の声、ふとしたときの手の温もりや美しい目の光り、古風な水仙の香りやキンと冷たい銀色の細い月、枯葉の一枚もない樹の細かい枝振りがシルエットになって浮かび上がる暁のときや翡翠色のなだらかな海、愛らしい笑顔や優しい息遣い・・・そんなものをこそしまっておきたい「いれもの」なのである。
といっても そうまで本気に思うほどのロマンティストではないので 結局はおいしかったなぁ・・と忘れがたく思っているチョコレートを包んであったリボンに 殆どの人が
いい香り〜と いう薔薇の香水をちょっと振りまいて蓋を閉じた という・・・大体が 私のロマンなど その程度のものでしかないのだ。
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