私が まだ自分というものの認識に疎く、そろそろ どうやら世の中には 自分と自分以外というのがあるらしい・・とか、どうも人というのは 自分とは違う存在らしい ということに気がつき始めるようなころ。ですから かなり昔の記憶なのですが・・
あるとき 私は 表にいました。家の外ですね。
その日は特に暑くも寒くもなく、程よいくらいの温度だったようで、私は 白っぽいブラウスとジャンパースカートを着ていました。
そして 多分私は一人でいたと思います。そのころは 人と遊ぶということが とても不得手で、どうにもうまくできなかったこともあって、よく私は一人で 何をするともなくいたのですが、そのときも 多分そうだったのだと思います。
突然強い風が吹いてきて 砂埃が巻き上がり、私のスカートや髪を吹き上げました。
飛び込んだほこりに 目をこすりつつ、見上げた空は、何やら妙に黄ばんだ感じがしました。それで、そのまま目を畑の向こうに転じると、ずっと向こうのほうから 灰色がかって変に黄ばんだ感じの渦巻く雲が、私めがけて突き進んでくるようでした。
程なく砂埃は、ちりちりぱらぱらと音を立てて窓ガラスを打ちたたき始め、見る間に窓枠に降り積もり、それを見ていた私は、わけもなくせかされるような思いになって、家の中の母に向かって 「ねぇ!なんだか 黄色い。」 といったことを憶えています。
母は立ち上がって窓の外を見、私に「コウサだわ!洗濯物が出ているおうちに知らせてあげて。」と言いました。
あちこちに知らせ終えて家に入り、きっちり閉められた窓から表を見ていると、パチパチと砂のガラスに打ち付ける音ともに、目の前の世界の何もかもが、乾いて土気を帯びた黄色に色づいて、それは 今言葉を選べるようになって言えば、まるでその時の次元とシンクロしている同時の異次元が互いに接触して軋轢が起こり、そのために粉塵が巻き起こったような風で、奇妙でちょっと怖くて、それでも なにやらワクワクするような、そんな不思議な思いに、胸がどきどきしていたのを憶えています。
その砂が、とおく海を越えた大陸からのもの―黄沙と知ったのは、ずいぶん後になってからのことでした。
あれほどに黄色く変化した世界をあれ以来みることはなく、それっきり忘れていたようなことだったのですが、病気から解放されたある花曇の日、歩きなれるための散歩の途中で、ふと目にした満開のミモザの大木が、吹いてきた風におおきくゆれるを見て、いきなりあのときの黄色い世界―黄沙のことを思い出したのは 一体どういうつながりからなのかと思いましたが、それはミモザの香りと黄色が見せた一瞬の幻影だったのかもしれません。
黄色は、私にとって世界の果てからやってくる"生きている風の息吹”の色なのです。
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